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西谷先生インタビュー


PCC(Plant Cutivation Chamber)ポットに入れた種子を確認する西谷先生
培地と種子を入れた状態のPCCポット

打ち上げを前にして,今の意気込みをお聞かせください。

「今回のSTS123で打ち上げて頂くことになった植物の培養装置は,JAXAを初め,ESA, NASAなど,多くの方々の共同作業により作られたものです。これだけの支援を得て進めている宇宙実験ですから,何とか意義のある成果につなげたいと思っています。宇宙実験は技術的な制約が多いのですが,可能な範囲で,最善を尽くして準備してきました。打ち上げ後は植物の種子がトラブルなく発芽して,成長してくれることを祈るだけです。発芽さえしてくれれば,成果が望めると思っています」

これは,どんなことを目指した研究なんでしょうか。

「植物は,4億年前に陸上に進出して大型化し,森林をつくるまでにいたった生物群です。植物が陸上で大型化できた秘訣は,しなやかで,しかも強靭な細胞壁からなる支持組織を進化させたことにあるというのが私たちの仮説です。この細胞壁を作るために数千もの遺伝子が進化してきたことが最近のゲノムの解析から判りました。今回の宇宙実験では,ゲノムの情報をうまく使って,細胞壁を作る遺伝子の働きが重力により制御される様子を調べ,この仮説を実証したいと考えています」

もし,世の中の役に立つのかといわれたら・・・

「なかなか難しい質問ですね。宇宙実験に限らず,基礎科学の成果が,われわれ人類にどれほど有用か,あるいは無用か,は短期的には判りにくいものです。しかし,一つ言えることは,私たちの研究は陸上植物の生命戦略の基盤となる支持組織の仕組みを解明することですので,それが判れば,植物を利用する上での人類の知恵が増すことは確かです。実は,この宇宙実験の成果はセルロース性バイオマス育種の研究にも活用できるのではないかと考えています」

これは,世界でも最先端,最高水準の研究なんですよね

「私たちは,いろいろな植物のゲノム情報を比較しながら,細胞壁を作る何千もの遺伝子群の働きを総合的に解析する研究方法を2001年頃に初めて提唱しました。その後,この分野には,欧米の多くの研究者が参入し,現在,細胞壁の分子生物学は,植物科学の中で,一つの大きな研究領域となっています。ですから,今回の研究計画は最先端の研究テーマと言っていいでしょう。それが国際的にみて最高水準にあるかどうかは,結果ができてから評価されるものですので,結果がでない内に当人が言うのはひかえます」

一緒に研究に参加している学生さんたちについて教えてください。

「共同研究者の横山隆亮講師と学生の小泉健人君がこの宇宙実験に直接関係するテーマで研究を進めています。それ以外に,研究室には3名のスタッフと6名の学生がいます。いずれも,シロイヌナズナやイネ,ヒメツリガネゴケなどの陸上植物の細胞壁の働きを遺伝子やタンパク質のレベルで解析しています。間接的ではありますが,研究室の皆さんは,宇宙実験の一端を担ってくれていると考えています」

先生にとって宇宙実験ってなんですか。

「宇宙実験は,重力環境を1G以下に制御できる唯一の方法ですので,植物の支持組織を研究している私たちには,非常に有効な実験手法です。不可欠の方法とも言えますね。今回,宇宙実験の機会を得て感じたことなのですが,宇宙実験は,JAXAだけでなく,ESA, NASAの各部門の多数の専門家のサポートがあって初めて可能になる非常に大がかりで,経費の掛かる実験です。幸運にも貴重な実験機会を得た研究代表者としては,この点を肝に銘じなければと思っています」

どうもありがとうございました。いよいよ始まる宇宙実験。どんな成果がでるのか楽しみにしています。


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