スペースシャトルでのラット実験サンプルシェア研究テーマ選定結果 | |
Fischer344ラットにおける大動脈神経の神経線維構成に及ぼす微小重力の影響
提案者:山崎将生 所属機関:福島県立医科大学医学部生理学第一講座 研究目的
血圧を調節する自律神経機構が成人においても宇宙で影響を受けるかどうかを知る参考とするため、成熟雄ラットを宇宙の微小重力環境に滞在させ、帰還後にラットの血圧調節に関わる神経のひとつである大動脈神経の神経線維構成を電子顕微鏡で調べます。
研究方法・内容 ヒトや哺乳動物の血液循環を調節する機構のひとつに血圧反射という仕組みがあります。これは日常行動の中で血圧を安定させ一定レベルに維持するために重要な役割を担っています。例えば血圧が上がると、動脈壁の中にある圧受容器と呼ばれる神経終末器である「血圧センサー」が、血圧上昇を血管の歪みとしてとらえて、その情報を電気信号として脳内の循環中枢に伝え、その中枢内の神経細胞群が脊髄や脊髄上部にある脳幹部から出る自律神経に連絡してその自律神経の興奮が心臓と血管の動きを適宜変えて血圧を元に戻すというものです。この研究対象となっている大動脈神経は、こうした仕組みの中で血圧の情報を脳へ運ぶ自律神経のひとつです。提案者らはSTS−90ニューロラブミッション(16日間の飛行;1998年)で幼小ラットを用いて行った宇宙実験から、宇宙の微小重力環境は大動脈神経性血圧反射機構の発達に影響を及ぼすことを機能と構造の両面から見出し、宇宙で哺乳動物が育つと、この血圧反射は地上で育つのに比べて感度が低くなることを明らかにしました。また、私共は宇宙で幼小ラットを育てた母ラットの大動脈神経についても電子顕微鏡で観察し、地上の母ラット群に比べて、この神経の構成線維中でも主に血圧の高いレベルで活動する無髄神経線維が少なくなっており、成熟動物でも圧反射の感度が特に血圧の高いレベルで低くなる可能性を見出しました。但し、母ラットは授乳という役目を宇宙で担っていた訳ですから、その影響があるかもしれません。従って、微小重力環境で普通に暮らしたラットで同様な組織学的検索をする必要がどうしてもあります。今回の研究ではニューロラブでの研究の継続研究として普通に宇宙に滞在した成熟ラットで大動脈神経の神経線維構成を詳しく調べます。同時に前回と異なる種および性別のラットを用いて、性差や種差の有無も明らかにします。
期待される成果 循環調節機構についてその宇宙環境への適応や、長期にわたる宇宙滞在の影響、更には地上帰還後の重力環境への再暴露により生じる循環系の失調の仕組みなどを考察する上で必要不可欠な新たな知見が得られます。既に私共の宇宙研究成果から微小重力での大動脈神経性血圧反射機構の発達の変化がわかりましたが、今回得られるであろう結果は成人である往還機の搭乗員や国際宇宙ステーションにおける宇宙滞在者の循環器系の検査や循環器系失調の対策のための有効な基礎データを供し、その対策作りに反映させることができます。
また、今後の宇宙開発推進のためには長期滞在時の循環器系全般についての研究推進が不可欠で、ヒトを含めた哺乳動物実験立案のための基礎データ-ともなります。
最終更新日:2002年 7月 5日 |