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シンポジウム・ワークショップ

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用成果シンポジウム

放射線と人間との関わり

最終更新日:2011年9月28日

中川 恵一(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授)

 生命は、過去38億年間ずっと放射線に晒されながら進化を遂げてきました。人間だけでなく、すべての生命が放射線との関わりを持っていることになります。

 放射線には、半減期があります。例えば、カリウム40は、12億年の半減期ですから、12億年前はいまの2倍存在していたわけです。当然、いまでもそれは起こり続けています。

 日本では、年間の自然被曝が1.5mSv。世界の平均は、2.4mSvですから、日本は、若干少ないといえます。放射線は、大地から、あるいは宇宙から向かってきます。空気中のラドン、さらには食物による内部被曝、そもそも自分自身も放射線源でもあるわけです。日本人が70年生きれば、普通の人で約100mSvに達することになります。

 大地からの放射線は、低い地域と高い地域があります。例えば、ラムサール条約で有名なイランのラムサール。ここは、年間に平均10mSv、最高値で260mSvとなっています。他に、ブラジルのガラパリ、インドのケララなど、所謂、高バックグラウンドといわれる放射線量の高い地域が存在しています。

 当然、このような地域でも疫学調査が行われています。しかし、住民に著しく癌が多いというデータはありません。

 日本でも、大地からの自然被曝に差があります。比較的、西日本の方が放射線量の高い地域が多いようです。所謂、鉱山のある場所で、資源の豊富な地域になります。日本で一番、放射線量が高い都道府県は、岐阜県です。岐阜県には、神岡鉱山があることが原因であります。一方、一番低いのは神奈川県です。富士山の火山灰の影響によります。つまり、関東ローム層で遮蔽されているのです。岐阜県と神奈川県の差は、年間1.4mSvになります。ちなみに、岐阜県と神奈川県とでは、癌の年齢調製罹患率、死亡率ともにいっさい変わりません。

 花崗岩などの岩石からガンマ線が出ます。東京都庁は、花崗岩を多く使っていまして。そのため新宿の都庁周辺は、放射線量が2倍になったという報道がかつてありました。

 地球上で一番被曝が少ないところは、海面であります。理由は、宇宙から遠いこと、そして下に大地がないということです。

 成田―ニューヨーク間の往復で、0.2mSvの被曝をします。これは上空に行くからです。7回往復すれば、日本の年間自然被曝に相当します。しかし、パイロットやキャビンアテンダントに癌が多いというデータはありません。

 WHOは、最近になって、ラドンに対する警告をかなり発しています。ラドンは、肺ガンの原因の2番目。一番目は、喫煙です。そして、肺ガンの3~14%はラドンに起因するのではないか、と言われています。あるいは、煙草を吸わない人にとっての肺ガンの原因の第一位でもあります。

 スウェーデンでは、このラドンによる被曝が年間306mSvにも及びます。日本は、年間0.5mSvです。ラドンは、マンションなどコンクリートをたくさん使う環境で非常に高くなります。ですので、今後、日本においてもラドンについては注目をしていくべきだと思っています。

 さて、1.5mSvという自然被曝の他に、医療被曝が2.3mSv(1980年代のデータ)程度あります。しかし、医療被曝は急激に増えているので、最近では、4mSv程度あると考えています。つまり、自然被曝と医療被曝を足せば、日本人の平均的な被曝のベースラインが出ます。約5.5mSvということです。公衆の被曝限度は、年間1mSvと法律で規定されています。しかし、この1mSvというのは、自然被曝や医療被曝を除いたものです。つまり、5.5mSv+1mSvで、平均的日本人においては、6.5mSvまでを許容するということになります。

 「日本の癌患者の3.2%が医療被曝によって発生する」という警鐘的な論文が出たことも事実です。しかし、一方で、いつでもどこでも検査を受けられるという日本の医療体制が日本人を世界一長生きさせてきたともいえます。こういったことは、今回の福島における被曝事故を契機に考えてみる必要があると思います。

 CTは、被曝量が高い(7mSv程度)というデメリットはあるのですが、適用さえしっかり守れば非常にメリットのある検査だといえます。あるいは、PET検査。これは、血管内にFDGという放射性物質を投与して行います。これは、内部被曝を起こさせているということになります。しかし、肺癌の転移巣や癌の全身の転移巣などがわかるという大きなメリットがあるのです。

 甲状腺癌には、アイソトープ治療が使われます。これには、ヨウ素131が用いられます。チェルノブイリで小児の甲状腺癌の原因となった物質を、その癌の治療に使うのです。

 私が専門としている放射線治療では、2Svという量を1回に照射します。それを25回ぐらい続けます。ですので、場合によっては、50~80Svという被曝をして頂きます。これが、多くの場合、外来通院で出来ます。あるいは、白血病の全身照射では、全身に12Svという被曝になります。治療のため全身の12Svを被曝した患者さんのうち2名が、この治療後に出産しています。

 放射線というのは、癌を作ることもあるし、致死に至ることもあるのですが、医療の中では、このような量の治療もあることをご紹介しておきます。

 それからあまり知られていないことですが。煙草は、発癌の原因のトップなのですが、煙草の煙そのものに放射線物質(コロニウム)が含まれています。

 福島原発事故によって、主にヨウ素とセシウムという物質が風に乗って各地へ流れて行きました。

 チェルノブイリでは、小児の甲状腺癌だけが増えました。IAEAの報告では、6000人の甲状腺癌のお子さんが生まれ、そのうち15人の死亡が確認されたとのことです。しかし、それ以外の直接的な健康被害は観察されていません。4歳以下の子供たちの1%近くが、なんと10Sv以上の被曝を甲状腺に受けました。それに対して福島では、最大でも35mSvと言われています。ですので、桁が3つも違います。つまり、福島で甲状腺癌が増えるということはないと思います。

 被曝量と発癌の可能性というのは、広島と長崎に最も依存しています。このことで知り得たことは、100mSvになると最大で0.5%癌死亡が増えたといことです。それ以上になると比例的に増えるということなのですが、我々の関心は10mSv以内のところです。しかし、この辺りのことはあかりません。なぜなら多様な生活習慣の中に埋没してしまうからです。

 確かに100~200mSvは発癌を増やします。しかし、野菜不足、塩分過多、運動不足、肥満といった要因の方が、100~200mSvよりも発癌をするパワーがあります。受動喫煙ですら、100mSv程度のパワーを持っています。飲酒だけで500~1000mSv相当。喫煙者は、2000mSv相当といったリスクがあります。

 つまり、生活習慣の影響が強いので、広島と長崎のデータでも100mSv以下のことはわからないのです。しかし、多くの放射線の専門家は、しきい値があるのではないかと考えています。疫学的に証明することはできませんが......。0被曝以外は、すべてグレーなのです。つまり、すべての人はグレー領域の中にいるわけで、その中で基準を作ることは非常に難しいと思います。これは、科学ではなく社会が決めることだと思います。

 チェルノブイリ事故以降、ウクライナなどでの平均寿命は大きく下がりました。しかし、これは鬱病、ストレス、アルコール中毒というような精神的な要素が非常に強く働いています。そのことは、すでに福島でも起こっています。

 韓国では、癌検診がブームになった結果、2000年を境に女性の甲状腺癌が年々増え続けています。実は、60歳ぐらいになるとほとんど100%の成人が甲状腺を潜在癌として持っています。つまり、福島で甲状腺癌の検査が進んだ場合には、甲状腺癌が増えるのではなくて、甲状腺癌の発見が増えるという結果になると思われます。

 福島では癌患者が増えると思っていませんが、しかし、ストレスや過剰な検査によって、結局は癌患者が増えることになってしまうのでないかと心配しています。

 青森県の環境科学技術研究所では、低線量の長期連続照射のマウスを使った実験が行われました。一日0.05mSvを22時間で400日間の連続照射です。非照射群1000匹、累積20mSvを1000匹、400mSvを1000匹、8000mSvを1000匹というように分けて気の遠くなるような実験をしました。その結果、20mSvと400mSvでは差がありませんでした。しかし、8000mSvなると寿命が短縮しています。メスでは、400mSvでも若干減っています。オスでは、20mSvと400mSvでは寿命の短縮は見られなかったということです。つまり、放射線被曝による発癌(寿命短縮)には、しきい値あることが示唆された実験だと思っています。

 人類が宇宙への飛躍を新たに求めるのであれば、あるいは、この度のような原発事故に向き合うには、やはり放射線の基礎研究が重要なのです。

講演一覧

研究発表講演
  1. "がん化を防ぐ遺伝子「p53」の宇宙での働きを探る"
    大西 武雄(奈良県立医科大学 医学部 特任教授)
  2. "アポトーシスの"司令塔"、ミトコンドリアは宇宙でどう働くか?"
    馬嶋 秀行(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 教授)
  3. "カイコの卵は宇宙放射線の番人になるか?"
    古澤 壽治(京都工芸繊維大学 名誉教授)
特別講演
 
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