このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。

<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。

サイトマップ

宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センタートップページ
  • Menu01
  • Menu02
  • Menu03
  • Menu04
  • Menu05
  • Menu06
  • Menu07

シンポジウム・ワークショップ

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用シンポジウム

開催結果

最終更新日:2020年2月28日

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用シンポジウム ~手の届くところに来た地球低軌道をどう使っていくか~

「国際宇宙ステーション「きぼう」利用シンポジウム」を2月13日、14日の2日間にわたって開催し、併せて「JAXA/NASA共同ワークショップ」を開催しました。2日間を通して、エコノミスト、コンサルタント、政策立案者、利用者、米国(NASA、企業)などからの参加を得て、多岐の視点から「きぼう」利用の意義・価値・将来展望などについて議論しました。

日程 2020年2月13日(木)13:00~17:55、14日(金)10:00~18:00
場所 LINK-J(Life Science Innovation Network Japan)
東京都中央区日本橋室町1-5-5室町ちばぎん三井ビルディング8階(COREDO室町3)
プログラム概要

インデックス

第1部:「きぼう」利用を取り巻く環境の変化 - 基礎研究の場から社会貢献の実践の場

オープニング
【若田 光一(JAXA/理事)】

1日目は、有人宇宙技術部門長の若田からの挨拶に始まり、きぼう利用センター長による「きぼう」利用10年の振り返りと今後の期待を紹介、その後、著名なエコノミスト、コンサルタント、政策立案者、先生方や企業の方々などにご登壇いただき、パネルディスカッション形式で、「きぼう」を軸としたLEO利用について、政策・科学技術・産業振興面などから掘り下げ、今後の展望や利用拡大への方策などについて議論いただきました。

「きぼう」利用10年間の歩み

導入:「きぼう」利用10年間の歩み
【小川 志保(JAXA/きぼう利用センター長)】

  • 「きぼう利用戦略」に掲げる5つの目標を達成することで、日本の宇宙技術の更なる発展、技術蓄積、国際貢献活動による「きぼう」利用の成果最大化の実現などの目標を掲げていることについて紹介。
  • 「きぼう利用戦略」では、2024年には民間などによる主体的な利用が定着している状態(ビジョン)に向け、その実現に向けた4つのプラットフォーム(優位性のある独自の技術を持ち、且つ一定の利用ニーズ・ユーザーが見込める領域)について紹介。
  • これまでの10年間における「きぼう」利用の流れと成果・今後の展望について、JAXAの考えやISS退役以降の地球低軌道利用継続に向けた取組み・検討状況について紹介。

「きぼう」利用成果最大化に向けて
~みんなが使える「きぼう」~

はじめに、パネラーとしてご登壇頂いた、先生方や企業代表者の方より、夫々の取組みなどについて紹介を頂きました。その後、高橋 進氏(日本総研/名誉理事長)をモデレーターとして、スペースシャトル時代から連綿と積み上げてきた"宇宙環境利用" の重要性について、科学技術・宇宙政策(外交的)・経済活動などの観点から大局的に掘り下げ、その価値(大義)や今後の在り方などについての議論が行われました。

パネルディスカッション:「きぼう」利用成果最大化に向けて~みんなが使える「きぼう」~
【写真左:高橋 進(株式会社日本総合研究所/チェアマン・エメリタス(名誉理事長))、中央上:角南 篤(公益財団法人笹川平和財団/常務理事、海洋政策研究所所長)、右上:丹羽 恵久(ボストンコンサルティンググループ/パブリック・セクターグループ 日本リーダー)、下:神武 直彦(慶應義塾大学大学院/システムデザイン・マネジメント研究科教授)】

発言概要

  • ISSは国際協調のシンボルのような存在。地上では国際的な大きな問題が起きている中でも、ISSでは参加国が協力して運用が継続されている。国際政治や地球規模課題を考えると、ISSが果たしてきた役割というのは非常に大きく、中国やインドなどの台頭により、宇宙は競争の時代でもあるが、一方で宇宙は人類の協調の場でもあり、このバランスが、今後の宇宙を見ていく一つのキーワードになる。
  • ビジネスの観点では、宇宙ベンチャー企業がたくさん出てきており、コンペティションの競争の側面もあるが、コークリエーションの共創の象徴でもある。
  • 日本は、アジアの中でISSへの唯一の参加国であり、アジアの中でのトップリーダーとして日本が果たしてきた役割は大きい。一般的には、日本の技術は最先端で凄いというが、アジアの国でも日本より優れた技術を持っている国が沢山出てきている。そのような状況の中、日本の強みは、技術導入をする際、相手国と同じ目線でシステムを作れる、ホスピタリティがあるところ。
  • 「きぼう」を通じて日本が国際的に一定の役割を担ってきたこと。また、我が国における宇宙開発に対する興味・関心を喚起し、「きぼう」の開発・運用を通じて新たな技術や産業が育ち、裾野を広げたという観点では非常に大きな貢献をしたと考えている。
  • 宇宙は特別ではなく、それ以外のテクノロジーと掛け合わせることで効果が出る。Aerospaceの人達はモノ作りが主眼で、価値づくりが出来ていない。視点を変え、宇宙以外の技術と掛け合わせ、宇宙分野以外の人が宇宙を使うことで新たな価値づくりが出来る。
  • 宇宙での活動の広がりの中では、安全保障や宇宙デブリなど新たな課題も生じてくる。それらと如何に対応していくかも非常に重要であり、国がしっかりと主導する必要がある。
  • 今後、民間により広く宇宙を使って頂くため、政府が中長期的な道筋をしっかりと考え、ロードマップを示すと共にインフラや環境を整備していくことも重要である。
  • 「きぼう」や地球低軌道でのビジネス開発の観点で、この3点について挑戦して欲しい。1点目は、認知度を徹底的に上げること。ビジネスを考えている人達に価値を知ってもらい、使いたいと思ってもらわないと利用・ビジネスは広がらない。2点目は、利用することで、どんなインパクトが出せるかを上手く伝えること。3点目は、ビジネスを実施する上での目指す姿、計画や戦略を作る時のKey Performance Indicator(KPI)を何処に設定するかを考えること。

健康長寿社会を実現するための宇宙活用
~より安心な暮らしに向けて~

はじめに、パネラーとしてご登壇頂いた、先生方や企業代表者の方々より、夫々の研究や取組みについて紹介を頂きました。その後、坂田 亮太郎様(日経バイオテク/編集長)をモデレーターとして、ISS・「きぼう」日本実験棟における特殊環境利用が、地上での医療や健康維持、超高齢社会への対応などといった「健康長寿社会」の実現に向け、どのように貢献出来るか、宇宙を使う事のインパクトや今後の在り方などについての議論が行われました。

パネルディスカッション:健康長寿社会を実現するための宇宙活用~より安心な暮らしに向けて~
【写真左上:谷口 英樹(東京大学医科学研究所/教授 横浜市立大学大学院医学研究科/教授)、右上:坂田 亮太郎 (日経バイオテク/編集長)、左下:芝 大(JAXA/有人宇宙技術部門きぼう利用センター 技術領域主幹)、右下:小泉 智信(アステラス製薬株式会社/専任理事)】

発言概要

  • ライフサイエンスにおける「きぼう」利用を拡大させるためには、実験の敷居を下げる必要がある。地上と比較して宇宙利用にはコストがかかるため、必ず一定レベルの成果が見込める研究に利用が限られているが、上手くいくか分からない実験であっても、実施したことによって予期しない副産物が得られることもある。そのような実験にも「きぼう」利用の門戸を広げるべき。
  • 宇宙利用による波及効果を考えたとき、同じ実験内容であっても地上で実施する以上の価値が見込める。また、宇宙には人の心に火をつける効果が見込めるので、若い研究者の育成にもつながる。
  • 宇宙で実験するにはコストや準備に時間がかかるため、既存のデータバンクなど、直ぐ使えるものからきっかけを作り、まずは宇宙利用に挑戦すべき。
  • 宇宙環境では、加齢のスピードが速いことがとても魅力的であり、通常、薬を投与して効果が表れるまで1年かかるものが、例えば1か月で出来てしまう。また、マウス実験で見られた加齢に伴う遺伝子変化を人のデータに如何にブリッジングするか。東北メディカル・メガバンク機構と連携しているそのような研究・取組みは非常に価値がある。
  • 宇宙実験における様々な制約の中で、それを乗り越えるために、既存の研究領域以外の人たちと連携して、知恵を出し合うことでイノベーションが生まれる。宇宙という制約された条件下であったからこそ、まったく新しい科学的視点が生まれ、イノベーティブな研究結果が生まれてくる。

自動化・自律化技術が宇宙にもたらす価値
~宇宙でも働き方改革!~

はじめに、パネラーとしてご登壇頂いた、先生方や企業代表者の方々より、研究や事業紹介を頂きました。その後、中須賀 真一様(東京大学/教授)をモデレーターとして、地上で飛躍的に進化を続けているAI、IoT、ビッグデータ解析技術などを地球低軌道で利用することで生み出される価値は何か。有人活動と無人技術の融合がもたらす地球低軌道利用の変革・今後の在り方などについての議論が行われました。

パネルディスカッション:自動化・自律化技術が宇宙にもたらす価値~宇宙でも働き方改革!~
【写真左上:中須賀 真一(東京大学/教授)、中央上:小山 直行(株式会社オフィス小山/代表取締役社長、株式会社プランテックアソシエイツ/代表取締役社長)、右上:光石 衛(東京大学/大学執行役・副学長、教授)、左下:岩本 匡平(株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所)、右下:筒井 史哉(JAXA/有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター長)】

発言概要

  • 宇宙での取組みは、とにかく実証しなければ始まらない。その観点で、ISS・「きぼう」は宇宙で何かをやろうとした時の迅速な実証の場として役に立つ。
  • 新しいことに挑戦するにあたり、「きぼう」のような実験プラットフォームが宇宙にあることは非常に重要。衛星で言えば、ISSはある種のバスであり、姿勢制御も通信も電力も安心して得ることが出来る。大変ありがたいことで、もっと利用するべき。
  • 宇宙における自動化・自律化の最先端の取組みを地上で応用することでビジネスチャンスが生まれる。例えば、地上における建設現場への適用や遠隔医療・手術・診断などにおける時間遅延の問題解決など。
  • 利用成果を大きくするには自動化自律化は必須。運用・利用環境も含めてロボット化を進めて行きたい。地上からの遠隔運用にすれば、日本の時間で仕事が出来るため、働き方改革につながる。
  • 宇宙で新しい素材の発見や活用が進めば、今まで想像もしなかった構造物が宇宙だけでなく地球でも生まれる可能性がある。素材開発領域で、日本がこれまで培った素材のノウハウを生かして宇宙利用を引っ張って行くことに期待する。
  • 「きぼう」をもっと一般の人に身近に感じてもらい、企業にお金を落としてもらうためには、エンタメ要素によって裾野を広げることが肝心ではないか。とにかく敷居を下げ、認知度を上げる必要がある。

第2部:JAXA/NASA Joint Workshop

JAXA/NASA共同によるワークショップを開催し、NASAにおける最新の商業利用の取組みや日米双方のLEO将来利用に関する政策議論の状況などについて議論しました。また、日米双方の民間企業によるISSを利用した取組みや日米協力(JP-US OP3※1)に基づくJAXAとNASAの具体的な協力の取組み、今後の計画などについて説明し、国際協力により具体的に成果拡大につながっていることを報告しました。

※1 Japan U.S. Open Platform Partnership:ISSにおける成果最大化に向けた日米協力強化の枠組み

キーノートスピーチ

「地球低軌道における米国の商業活動の最新動向」および「日本におけるISSおよび探査活動に関する最新動向」の紹介として、NASAの商業利用担当者Doug Comstock氏および若田理事より紹介頂きました。(キーノートスピーチ)

キーノートスピーチ:地球低軌道における米国の商業活動の最新動向
Doug Comstock(NASA/HEOMD Commercial Low Earth Orbit(LEO)Liaison)

キーノートスピーチ:ISS活動とその先の探査活動へ
若田 光一(JAXA/理事)

  • Doug Comstock氏より、米国における商業利用の最新の取組み状況について、商業利用開発に関する今までの取組みや今後の計画などについて説明。また、ISS利用における需要やISSにおける商業利用の発展状況について紹介した。
  • 若田理事より、日本における「きぼう」を軸とした利用の3本柱(有償・民間利用の拡大、宇宙技術研究開発、科学研究利用)および夫々の具体例について紹介すると共に、JAXAが考える2025年以降の「きぼう」利用の進め方について紹介。また、宇宙探査イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)の活動や宇宙探査イノベーションハブの活動、宇宙探査に関するJAXAの最新動向について紹介した。

ISS利用の今後の展望と商業化に向けた動向について

地球低軌道・ISSにおける商業化に向けた動向について、若田理事とNASA Scimemi ISS部長との対談を行いました。

地球低軌道活動の継続的な実施と拡大に向けた民間からのリクエストとして、"政府によるアンカーテナントの必要性"や"NASA/JAXAからの技術移転"、"リスク対応支援(第三者損害賠償請求対応)"、"安全要求の緩和/技術の標準化"など、日米で共通する点が多いことや、民間からの参入をより強く推し進めるためには宇宙機関同士だけでなく、政府間による密な連携・協力が必要であることなどについて意見交換を行いました。また、NASAからは、ISS・「きぼう」は、商業利用だけでなく、科学技術の発展、教育プログラム、探査に向けた技術実証、有人飛行などといった分野においても重要な役割を果たしているとの発言がありました。

対談:ISS利用の今後の展望と商業化に向けた動向について
【写真左:Sam Scimemi(NASA/ISS Director)、中央:若田 光一(JAXA/理事)、右:上森 規光(JAXA/有人宇宙技術部門事業推進部 部長)】

ISS・「きぼう」における日米民間利用の動向とトピックス

米国National Labにおける科学利用の方向性として、Advanced Material ResearchおよびIndustrial Biomedicine Researchがフォーカスされている中で、両領域における利用サービスを展開している米国企業による事業紹介と「きぼう」での科学利用の中心でもあるライフサイエンスおよび材料実験に関する最新の取組み状況についてプロバイダーやユーザーから発表して頂きました。

プレゼンテーション:ISS・「きぼう」における日米民間利用の動向とトピックス
【写真左上:深澤 裕(新日本繊維株式会社/代表取締役)、中央上:Mark Gittleman(Alpha Space Test and Research Alliance/CEO)、左下:Jana Stoudemire(Space Tango/Commercial Innovation Officer)、中央下:川添 聡一郎(アステラス製薬株式会社/主管研究員)、右:白川 正輝(JAXA/有人宇宙技術部門きぼう利用センターきぼう利用企画グループ グループ長)】

Advanced Material Research分野(Mark M. Gittleman, CEO, Alpha Space Test & Research Alliance, LLC)

(A Commercial R&D Test Facility on the International Space Station)

  • Alpha Spaceは、国際宇宙ステーションにおいて、MISSE(材料曝露実験装置)を保有・運営。6ヶ月に1度の頻度で、モジュール型の輸送装置を打上げ、船外環境を利用した材料研究などの長期的な商用実験サービスを提供している。
  • 各装置はペイロード(積載機器)に対して最大75ワットの電力を供給することが可能で、高解像度写真や環境センサーのデータを提供するほか、高速データ通信により、制御やデータのダウンロードが可能。Alpha Spaceは、軌道上でのサービスを開始してから19ヶ月の間に700以上の実験サンプルや物資を打ち上げている。

材料実験分野(深澤代表取締役、新日本繊維株式会社)

  • 新日本繊維株式会社は、繊維メーカーではなく、繊維を作る方法を提供する会社。繊維を作る方法として、物質を非晶質化(アモルファス化)させようとしており、それを宇宙空間で実現するため、まもなく試料を打上げて実験を開始する予定。
  • 石炭灰および玄武岩を調合し、放射線・高温に強い耐性のある連続強化繊維を開発。「きぼう」を利用して、アルフォモス化に必要な物理パラメーターとして、石炭灰の粘性データを浮遊実験によって計測する。また、曝露実験で、放射線耐性に対する実証データも取得する。
  • 将来的に、月の表面にある玄武岩を溶かして構造物に変えていきたい。石炭灰を溶かして構造物をつくる我々の取組みは、石炭灰と非常によく似た成分の玄武岩にも応用が期待できる。

Industrial Biomedicine Research分野(Jana Stoudemire, Commercial Innovation Officer, Space Tango)

(Establishing New Markets for Biomedical Discovery and Manufacturing On-Orbit)

  • Space Tangoは地球軌道における研究・製造拠点として、実験区画の構築・運用を行っている。2017年に最初の商用ペイロードを打上げて以降、15のミッションに参加し、135以上の実験を実施。
  • バイオメディカル分野では、分子レベルの医療から遺伝子医療へシフトしており、微小重力環境を活用することで、遺伝子医療の課題解決につながる可能性がある。また、個別化医療の観点で、Tissue on Chipの取組みをNational Institute of Health (NIH) と共同で実施している。
  • 網膜インプラントは、タンパク質ポリマーであり、統一された組成のまま、非常に大きいプロテインから製造が可能であり、この製造プロセスは地球上では実現できない。その為、宇宙空間における網膜インプラントのためのプロテイン生成が有用である。
  • そして、バイオ医薬品は非常に重要な再生医療の応用分野であり、更なる商業利用の拡大には、バイオ医薬品の製造基盤を整備することが有効である。

ライフサイエンス分野(川添 聡一郎主管研究員、アステラス製薬株式会社)

(微小重力下における中分子の結晶化)

  • "分子の活動の変化"を知るという点で、宇宙と製薬には関係性がある。微小重力下ではほとんど対流が発生しないため、純度の高い結晶ができる。また、安定した結晶以外に新しい結晶を見つける可能性もある。
  • アステラスは中分子の構造解析のため、中分子の結晶の構造情報が欲しかった。一方、JAXAは地上の結晶と微小重力下の結晶の品質の違いを知るために、取得の難しい中分子の試料が欲しかったという利害の一致によって、コラボレーションが実現した。
  • 結果として、2回の打ち上げを通して分解能の高い結晶が取得できた。中分子の結晶化実験はまだまだ研究実績が乏しいため、JAXAには高品質かつ多様な中分子の結晶化の情報を蓄積してほしい。宇宙での中分子の結晶化実験には、地上では重力に隠れて見えない現象が明らかになる可能性を秘めている。

JP-US OP3の取組みと今後の期待

日米間での船内・船外の実験設備・機器や実験結果の相互活用、および共同研究などを実施する意義について、JAXA/NASA双方の見解を示し、現状の成果や今後の期待について共有しました。

プレゼンテーション:JP-US OP3の取組みと今後の期待
【写真左から、白川 正輝(JAXA/有人宇宙技術部門きぼう利用センターきぼう利用企画グループ グループ長)、Marybeth Edeen(NASA/OZ Manager)、土井 忍(JAXA/有人宇宙技術部門きぼう利用センター 技術領域主幹)、Jennifer Scott Williams(NASA/Research Integration and Portfolio Manager, ISS Program)】

JP-US OP3の現状と成果(白川正輝きぼう利用企画グループ長、JAXA)

  • JP-US OP3の取組みとして、日米双方のドローンロボットを活用した、アジアの学生に向けた教育プログラムの実施を計画していることや、静電浮遊炉(ELF)を活用した実験に米国側の研究者も参画し、ISS全体としての協力体制を拡大したこと。将来の生命維持装置開発に向けて、JAXAが回収した微生物のサンプルとNASAが回収した水のサンプルを相互に提供し、研究に活用したことなどについて紹介。
  • 今後の計画として、更なる実験設備の相互利用、実験サンプルのシェアリング、天体観測機器の連携などをさらに推し進めることについて言及。

マウスミッションにおける日米協働(Marybeth Edeen利用マネージャ、NASA)

  • 米国では、Space Life and Physical Sciences Research and Applications(SLPSRA)、Human Research Program(HRP)およびISS National Labの3機関が、マウスミッションを支援している。
  • ISSにおけるマウスや細胞を利用した実験において、60のユニークな調査を実施し、著名な39のジャーナルに95件の記事を掲載。その内、アイゲンファクターがトップ100以内にランク付けされた4つのジャーナルに30件の記事が掲載された。
  • NASAが保有するマウス研究に関する地上およびフライトハードウェアに関する紹介、JAXA/NASAが共同で検討しているパーシャルG実験に関する計画について紹介。
  • 今後の計画について、Northrup Grumman(NG)社によるマウス搭載能力(1回の打上で80匹の打上げ)が計画されていること、また、National Academies Decadal Reviewにおいて、齧歯類研究の継続について言及されていることについて紹介。

JP-US OP3における"Kibo Robot Programming Challenge"の紹介(土井忍技術領域主幹、JAXA)

  • JP-US OP3におけるアジア利用の拡大に向けた取組みとして、アジア諸国の学生に対し、JAXA/NASAが有するドローンロボットを活用したプログラム競技会を開催する。
  • シナリオは、デブリ衝突により発生した「きぼう」船内からの空気漏れを修復するというもので、学生のプログラムでドローンロボットを制御し、想定される空気漏れの場所を特定し、要した時間やリーク箇所の特定精度などを競う。
  • 本活動における教育的意義は、シミュレーション環境では現実世界を完全に再現することができないことを認識してもらい、現実の世界にある不確定性、誤差を考慮したうえでベストのパフォーマンスを発揮できるプログラムを作ってもらうこと。
  • 現状、日本、タイ、インドネシアを始め、約10カ国の学生が参加を予定しており、本競技会を通じて、"ロボット"と"プログラミング"の領域での教育機会の提供に貢献したい。

ISSにおける効率的な微生物サンプリングの取組み(Jennifer Scott Williamsマネージャ、NASA)

  • ISSの空気、水、機材などの表面からのサンプル採取など、軌道上における効率的な微生物サンプリング方法に関するガイドラインについて紹介。
  • ISS乗務員の活動時間の効率化を最大化するため、ISSで実行可能な場所であれば、どこでもリサーチサンプリングとシステムサンプリングを組み合わせることが可能であり、以下3つのパターンがある。
    1. システムサンプリングセッション
      宇宙飛行士の健康と安全を管理し、引き続き居住可能なISS上の環境を確保するために実施
    2. リサーチサンプリングセッション
      ISS研究に活用するためのサンプリングで、ISSパートナーと共同で実施可能
    3. 組み合わせサンプリングセッション
      システムサンプリングセッションの間に、リサーチサンプリングを実施することで、宇宙飛行士の作業を効率化
  • これらの活動において、搭乗員の健康に影響する結果が得られた場合は、国際パートナーに即報告されると共にレポートとして科学誌などに掲載される。

第3部:地球低軌道活動の多様化

これまで宇宙と関わりが少なかった利用者の拡大を目的とし、日本の民間企業による衣食住やエンタメを切り口とした宇宙利用のパネルディスカッションを行いました。

衣・食・住・エンタメから広がる新たな宇宙活動
~新たな市場への投資価値~

はじめに、パネラーとしてご登壇頂いた、企業代表者の方々より、夫々の取組みについて紹介を頂きました。その後、佐藤 将史氏(SPACETIDE理事 兼 COO)をモデレーターとして、今後、更に人が宇宙空間で生活する機会が増えていくことが予想される中、人が宇宙空間で暮らすのに必要なエコシステムを創造するにあたって、「きぼう」がどのように貢献できるかについての議論が行われました。

パネルディスカッション:衣・食・住・エンタメから広がる新たな宇宙活動~新たな市場への投資価値~
【写真左上:佐藤 将史(一般社団法人SPACETIDE/理事 兼 COO)、右上:朴 正義(株式会社バスキュール/代表取締役)、左下:小正 瑞季(Space Food X/代表、リアルテックファンド/業務執行役グロースマネージャー)、中央下:平井 優子(株式会社ポーラ・オルビスホールディングス/マルチプルインテリジェンスリサーチセンターキュレーションチーム アシスタントマネージャー)、右下:西村 勇也(特定非営利活動法人ミラツク/代表理事)】

発言概要

  • 宇宙には無重力でなければ出来ないことや実現できない自然・根源的な状態を保てる価値がある。地球では再現できないことに取組むことで宇宙の価値が出てくる。技術の進化が早くなり、地上では短期間での成果創出が求められる中、長期的な視点で宇宙ならではの価値創出に取組んで欲しい。
  • 微小重力環境下で生物がどう振舞うのかを確かめられるのがISSの魅力。ISSをもっと民間に開放すれば、たくさんのビジネスチャンスが期待される。
  • ISSの一番の強みは人が居住していること。宇宙飛行士を活用した研究がもっと出来ると良い。美容の面でも、ISSの特殊な環境(無重力)の影響をもっと研究したい。
  • 地球ではなく、宇宙を見るための足場として考えたら、ISSの用途が広がる可能性がある。
  • 宇宙空間に出て、地球を見るだけで、新たなアイディアや発想、ビジョンが生まれる。マネージャ・経営者向けの集中合宿の場や教育プログラムとして宇宙空間が使える。

第4部:「きぼう」利用と今後の地球低軌道活動への期待と展望

将来のLEO利用の継続性・発展性に向けた最新の取組み・検討状況についてJAXAから発信しました。

「きぼう」利用の現状とその先へ

登坂 淳一氏(フリーアナウンサー)をモデレーターとして、パネラーとして登壇したJAXAマネージャから、「きぼう」利用を通じて培った成果と今後の「きぼう」利用、更にその先の活動として探査活動に向けた取組みや地球低軌道における商業利用などの将来展望についての議論が行われました。

インタビュー:「きぼう」利用の現状とその先へ
【写真左上:登坂 淳一(フリーアナウンサー)、右上:小川 志保(JAXA/有人宇宙技術部門きぼう利用センター長)、左下:松本 邦裕(JAXA/有人宇宙技術部門事業推進部 計画マネージャ)、右下:込山 立人(JAXA/宇宙飛行士・運用管制ユニット宇宙飛行士健康管理グループ長)】

発言概要

  • 「きぼう」の利用から10年で、たんぱく質の結晶化実験、宇宙でしかできない材料のデータ取得など、新しい領域を開拓し、利用機会も増え定着化しつつある。また、新しい領域の開拓も進めている。新しい開拓領域は、細胞医療の分野で、1~2年かけて市場に参入し、定着した技術を民間に移管したいと考えている。
  • SDGsの取組みとして、「きぼう」からの衛星放出サービスが、途上国の衛星開発からニーズがあるので、伸ばしていきたい。その他教育実験やライフサイエンス実験を通した人材育成なども進めていきたい。
  • 2025年以降のLEOにおける有人宇宙活動の在り方に関し、JAXAとしては、これまで培ってきた日本の有人技術・宇宙環境利用技術を民間に継承し、LEOに空白地帯を作ることなく、LEOでのプレゼンスを維持し、もっとも身近な低軌道活動プラットフォームを国として保持すべきと考えている。
  • 今後の探査において、各国得意な領域でプレゼンスを競い合い、協力内容に応じて宇宙飛行士枠や利用の権利が割り振られる。日本の強みである分野により、競争力・プレゼンスを高めたい。

展示

「きぼう」における最新の利用成果や今後の取組み(商業利用拡大やJP-US OP3を含む)の紹介、きぼう利用拡大や新たなユーザー獲得などを目的に会場内のホワイエエリアで展示を開催しました。

スポンサー企業による展示では、各社、様々なビジネス・取組みについて紹介しました。

  • Space Bizアカデミー(Space Biz)
  • オープンイノベーションによるAIモデル開発サービス(Nishika)
  • 小型衛星放出サービス(MITSUI & CO.、三井物産エアロスペース(株))
  • 人工衛星などの宇宙用途向け熱対策材料であるサーマルストラップ(多層グラファイトシート)(KANEKA)
  • 「きぼう」から撮影した地球の映像が見られるデジタル窓(ATMOPH)

NASAの展示では、米国企業(Techshot、Alpha Space、Sierra Nevada Corporation、Made in Space、LaMont Aerospace)の事業紹介を始め、NASAの商業利用に向けた取組みなどについての紹介がされました。

JAXA展示ブースでは、「きぼう」利用戦略における4つのプラットフォーム(新薬設計支援、加齢(健康長寿)研究支援、超小型衛星放出、船外ポート利用)における利用成果と新たにプラットフォーム化を目指している静電浮遊炉(ELF)利用や細胞培養研究を紹介。さらに、アジア・太平洋地域の国々との国際協力による「きぼう」ロボットプログラミングチャレンジ(Kibo-RPC※2)についての紹介を行いました。

シンポジウムでの講演やパネルディスカッションを聞いて、自分達でも「きぼう」を使った実験が出来ることを初めて知ったという方や「きぼう」を使ってどんな実験が出来るかのより詳細な情報を知りたい方など、数多くの方に展示ブースに来て頂きました。

※2 Kibo-RPC:JAXAとNASAのISS船内ドローンロボットを使って、軌道上での仮想課題を学生が解決するプログラミング競技会。

謝辞

2日間のシンポジウムを通じ、サービス業(コンサル・AI・IoT・システム開発・エンタメなど)、製造業、大学・研究機関、バイオ・医療など、500名近くの幅広い層の方々にご来場いただきました。どうもありがとうございました。

 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約