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シンポジウム・ワークショップ

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用シンポジウム

全体討論:「イノベーション創出に向けて」

最終更新日:2014年1月31日

モデレータ:

横山広美(東京大学 准教授)

パネラー:

石川正道(日本マイクログラビティ応用学会会長)
講演資料 [PDF:445KB]
浅島誠(産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター長)
加藤義信(中小企業基盤整備機構チーフアドバイザー)
大竹暁(科学技術振興機構理事)
講演資料 [PDF:2.0MB]
長谷川義幸(宇宙航空研究開発機構理事)

テーマ1:利用成果を伝えるための方策

(横山)

「きぼう」を利用した成果が多く出ていますが、なかなか社会に広く認知されないという感覚を先生方、JAXAの方々もお持ちであると伺っております。宇宙の研究というのは非常に華やかで多く報じられている印象を持っていますので、現場の先生方がそういう印象を持っていることは、私にとっては少し意外ですが、より広く成果を伝えていきたいというのは皆様共通の意識だと思います。

議論を始めるにあたって、そもそも「きぼう」という場がどのように各分野に活用されているかについてご紹介頂きたいと思います。

(石川)

成果が認知されていないというのは、私は作り上げられた偶像ではないかという印象を持っています。まず無重力がどういう場であるかについて、この10年の間に国民の皆様はご了解され、ある意味では慣れてしまったようなところがあるのではないかと思います。もう1つ、産業利用に成果が反映されていないとう点ですが、具体的な形を取りにくかった一番の理由は、やはりアクセスができなくて単発の実験ですべて終わっているということです。アクセスなしで産業利用できるということはあり得ません。輸送系の充実をもっと国策としてやっていただきたいというのが第1です。

それを一歩譲っても、成果は利用されています。一番主張したいのはマランゴニ対流です。製造現場においてほとんど認識されていなかったマランゴニ対流を非常に精度よくシミュレーションできるようになり、モデリングされたというのは我々の宇宙実験の成果の第1位のものであると思います。

最近の成果としては、タンパク質の結晶成長があります。また、燃焼に関して、火災の基礎的なメカニズムを我々は微小重力実験で解明しておりますので、こういうことがなぜ伝わっていないのかというところに我々学会としての不足を感じて、ぜひ今後その普及を図りたいと思っています。

(浅島)

私は生命科学分野に携わっており、かなりの成果が出ておりますが、それがなかなか伝わっていないということがあります。

具体的には、植物の木は地上であればまっすぐに伸びるのが当たり前のことですが、無重力にいくと寝てしまいます。植物の成長は水と重力によってコントロールされており、そのコントロールの仕方が植物を正しく育てています。その原理をペグという突起で見つけたということがあります。

2番目に、閉鎖系の中でバクテリア、菌類はもの凄く発生します。それをモニタリングするシステムを日本で開発しました。

老化に伴う骨や筋肉の減少、神経に関しても、ウロコを使った実験やビスフォスフォネートを使った実験も含め、新しい創薬への道が開けています。地球上で模擬できる放射線というのは中性子線や、X線などの単一放射線です。しかし宇宙は中性子線もあればガンマ線やX線もあり、複合放射線です。そのような環境で耐えられる生物は何か、宇宙に行ったときに放射線に対してどのような守り方ができるか、ということも1つの研究テーマです。こうした多くの原理の解明と共に、培養装置を開発し、それが市販されることで社会に還元されています。

もう1つは人が宇宙に行ったときにどれだけ長期滞在できて、どのような変化が起きたかについて知りたいわけです。一番良く使っている生物を使えば良いわけです。生命科学でよく使われている実験材料は、植物ではシロイヌナズナ、動物ではショウジョウバエ、ゼブラフィッシュやメダカ、そしてマウスです。マウスの実験にこれから日本が取り組みます。日本の新しい技術で安全に持って行き、生かして帰してすべて調べれば骨粗しょう症、神経等、色々な問題が解明されます。

生命科学というのは、今、大きな転換期にきており、その知識と技術を宇宙に持っていくことにより、これからのパラダイムシフトを起こす新しい分野になるだろうと思っています。

(加藤)

このメンバーの中で私だけが宇宙とはあまり関係のない仕事をしております。今日、第1部の成果を聞いて、あれで凄いなと思わない人はいるのかと思いながら聞いておりましたが、話を聞くと予算などいろいろな制約状況があり、新生JAXAという新しい変革が求められているとのことです。素人の目から見ると、求められていることの一部はなるほどと思う所もありましたので、今日は素人の立場からお話ししたいと思います。

第1部を聞いて不思議だなと思ったのは、時間、時間軸の話がないことでした。民間企業の研究開発ですと、必ずいつまでにどういうことをやろうという時間の話が必ずあります。今日の話、またこれまでのJAXAの刊行物にも時間軸の話が入っていません。

もう1つは成果です。予算が削減されるなら、予算を決める人に対する訴求力を少し工夫する必要があると思います。分からせる努力がひょっとすると足りないのかと思いました。

(大竹)

私も国際宇宙ステーション(ISS)を利用して何かを行ったわけではなく、JSTで基礎から応用まで科学技術をどのように世の中に役立てるかを実施しており、その観点から話したいと思います。

ISSの利用だけで確か年間400億円程かかっていると思うのですが、これを利用の成果だけで取り返すことは多分無理でしょう。400億円をかけることについては、別の理屈があるのだろうと私は思っています。日本として宇宙開発をやるかやらないか、宇宙開発技術を持つか持たないかという議論を行うべきだと思います。ISSは、宇宙産業を基盤的に支えている最大の事業ではないかと思います。ここのところを考えて発信しないと、今日の議論で年間400億円分です、とはなかなか言えないと思います。

それからもう1つ言えることは、今日ここに来られている方や、JAXAが行う色々なシンポジウムに参加されるのは、やはり「宇宙が大好きな人」です。JAXAの方も宇宙が大好きな方です。好きな人同士が集まると「いいね、いいね」ということになり、成果がなかなか伝わっていかないこととの関係があると思います。やはり宇宙を知らない人に何を言ったらよいか、ということを考えるべきだと思います。

では何かというと、学術的な成果に関してはいろいろな議論がありましたが、先ほど出た宇宙工場の話については、今かかっているコストからしてそれを回収するだけの量なりを生産することは多分できないでしょう。そこで、話がありましたようにISSを装置として使うのですが、たとえば老化が進むモデルというのは他になく非常に良いのですが、ただしこれは知見です。企業がもし使うとしたら、使いやすさ、さっと使ってさっと成果が出るか、ということが非常に重要になってきます。例えばSPring-8という大型装置には測定代行というシステムがあります。このように「こういうサンプルを持ってきたらこういう測定データをお返しします」といったメニュー化したものがないとなかなか厳しいと思います。先ほど話に出た溶融炉も、「持って帰って適当に分析して下さい」では辛いものがあり、どのようにメニュー化するかが非常に重要だと思います。

もう1つはスピンオフです。宇宙の特殊環境でおこなっていることを使えないかということです。宇宙には放射線があるので非常に高いお金を出して耐放射線LSIを作っています。たとえば、今福島の原子力発電所は30年くらいかけて解体していこうとしています。その辺りに使えないか等を真剣に考えていくことです。

最後に、宇宙が当たり前でない人をどう巻き込んでいくかです。単に「どうぞお使い下さい」ではなくて、それを使うパワーユーザーをどう作り込んで行くかが非常に重要だと思います。

(長谷川)

400億円の話が出ましたので、そこだけお話しさせていただきます。ISSの実際の予算は年間400億円ではなく360億円程度で、その1割程を利用で使っています。ISSは分担金があり、参加国がそれぞれお金ではなくてサービスないし技術で支払うという国家間の約束になっています。その費用の代替として「こうのとり(HTV)」を年に約1回強上げ、その費用がおよそ250億円前後になります。さらに「きぼう」は、日本だけのものではなく、熱、電力、空気、排熱等の費用として、半分は米国が使用します。400億円が全部利用ではありません。

それから技術ですが、ロケットと衛星だけでやっていた時代には、人間が乗る宇宙船などとてもできないだろうと私も入社時に思いました。15カ国が参加した外交的な協定の中で米国の技術(過去のアポロ、シャトルの技術)を一定の制限の中で自由に見させてもらうことができたおかげで、我々はここまでの技術を得ました。残念ながら、継続していかないと技術はどんどん落ちていきます。「こうのとり」の手法は日本のユニークな技術です。この技術は米国の民間機や月探査のランデブー技術に応用されています。これらは日本の技術力、国力を高めている1つでありますので、それとあわせて議論して頂きたいと思います。しかし、今日の議論は利用ですので、宇宙を好きでない方にも宇宙のユニークさがうまく応用できることを広めて行きたいと思います。

(横山) 利用される皆様方が、本質的に重要だと思われるテーマをしっかりつかんでいただいて、訴求力の面でそれぞれご努力いただいて、よりよく伝わるような方策を考えていただきたいと思います。

テーマ2:イノベーション創出に向けて

(横山) それでは次のテーマです。政府がイノベーション創出という観点に非常に重きを置いており、JAXA全体も新生JAXAを標榜してこれまでと違う方向性、ベクトルが強くなってきているということを各方面から伺っています。そのためにはより多くの方に参加して頂くということが、2020年あるいはそれよりも前に何かしらの成果を得るという時にも、重要になってくるかと思います。この観点からコミュニティの代表として石川先生にプレゼンをご用意いただいていますので紹介ください。
(石川)

私ども学会では、活動を倍増するという計画を立て、いろいろな戦略を練っております。

1つ目として、昨年度から「宇宙実験総合レビュー」というものを行っています。宇宙実験に関係ない、あるいはそれが専門でない研究者にも、宇宙実験成果の科学的な意義、応用的な意義、あるいはその成果がどのように波及していくかということを分かっていただくため、これを学会の研究者の観点で伝えていくことを意図しています。また学会誌をオープンアクセス化しました。会員が学会誌を見られるというのが通常の認識ですが、誰でもアクセスできるようにしました。1,700くらいの記事が入っています。ウェブ上で自由に閲覧できGoogleでどんどん我々の論文集が引っかかってきます。専門家向けということではありますが、裾野を広げる意図で行っています。

2つ目が教育研究の推進です。学会の若手と話しておりますと、宇宙実験を色々やってみたいという人がいます。それに対して過去の自分のビデオを見せたりしているようですが、「もっと良いものが欲しい」、「準備に時間がかかる」という意見もあり、学会員によるビデオ、プリント教材のアーカイブ化によって質の高い講義資料をまず手掛けています。加えてサマースクールや、「毛利ポスターセッション」という学生セッションを学会で設けています。これを真似て欧州の無重力学会も学生セッションをやりだし、この輪がアジアにも広がりつつある状況です。航空機による学生無重力コンテストを共催して普及をさらに進めようとしています。

3つ目は国際協力です。宇宙実験では国際協力の重要性はいくら言っても言い足りないと思います。日本は後発の宇宙実験国でした。それがあるレベルになる過程で、ドイツの研究コミュニティとの交流・協力が非常に大きかったという事実があります。そういった意味で今、アジアは中国、韓国を始めその他の国も宇宙開発に非常に熱心です。科学に国境はない、科学に政治はいらない、ということが原点です。これまで開催してきた日中間のワークショップが高じて、現在7カ国のAsian Microgravity Symposiumという形に拡大、発展しました。それから来年は欧州が始めたISPS(International Symposium on Physical Sciences in Space)という極めて伝統的、権威のある微小重力学会の第6回目を京都で開催します。我々は、学んだものをアジアにつなげるような場を作っていきたい、できればアジアの学生を引き込むような教育プログラム、場合によっては「きぼう」の中で出来るようなプログラムを育てることを願っています。

(横山) 続きましてイノベーションを創出するための政策的な取り組みに関して、JST大竹理事より紹介して頂ければと思います。
(大竹)

まずJSTは「科学技術基本計画の中核的実施機関」です。イノベーション創出は、実際は社会や企業で行われますが、そこで実装できるところまでをJSTで実施したいと考えています。我々はファンディング・エージェンシーとして研究費を出していますが、我々自身は「バーチャル・ネットワーク型研究経営による成果の最大化」として、仮想型ではありますが、自身を研究機関と考え、成果を最大化します。他に「科学技術イノベーションの加速に向けた我が国の科学技術基盤の整備」というミッションもあり、たとえば科学技術情報の提供などを行っています。

イノベーションに関しては、フェーズごとにいろいろな定義付けを行っています。基礎的な部分は「戦略的創造基礎研究」と称して、出口を見据えた形で行っています。次の「イノベーション型研究」が重要で、ここがないと基礎研究だけに終わって企業化開発につながりません。かといって、競争ばかりだと基礎研究が落ちていってしまいますので、「ACCEL」というプロジェクトで良い基礎研究をやっている方を加速(Acceleration)して企業化開発まで行ってもらうようにしています。従って「イノベーション型研究」では競争はありません。

次に「目利き」です。技術の目利きというのは、どういう技術が良いか、技術の可能性や将来性を評価します。これはかなり世の中に知られています。2つ目に重要な「企業」の目利きがあります。せっかく良い技術、シーズがあってもそれを実用化してくれるかどうか、企業の能力・実力を評価します。そして、3つ目に「市場」という問題があって、イノベーションを社会実装しなければどうにもなりませんので「市場性の評価」をします。JSTは、「技術」は二重丸(◎)、「企業」については丸(○)でまだ体系的ではないのですが企業と話をしたりしております。問題は「市場」で、これはとてもJSTの中ではできません。基礎研究はJSTの職員が目利きをして、どういう有望な人がいるかをもって公募対象を立てています。基本的に事前にどういうことをやったらよいかを考えて、「作り込み」をしています。「市場」に関しては、今、外部のベンチャーキャピタルなどとの協力でやろうとしています。全体としての「作り込み」が大切ですので、我々としてもISSの利用などについてJAXAと協力していきたいと思っています。

「ISSの利用の標準化と適時性の向上」ということは、絶対に必要なことだと思います。学術研究は無限の対象について、無限の時間をかけてやっていますが、企業は5年待っていたら潰れてしまいます。そこで「ユーザーがサンプルを提供すれば、実験が出来、データ等成果が得られるようなメニュー化」が必要となります。たとえば溶融炉で出来て来たものを、SPring-8と協力してSPring-8にかけて、最後はデータとして出します、もってきて頂ければ半年でやります、そういうことが必要だと思います。また時間の短縮が必要で「3年待って下さい」では企業は来ないと思います。

もう1つ別な話で、「科学的評価の共通化」として、「他のプログラムの中にISS利用ができるものはないか」ということがあります。無重力での実験を含む研究が他のプログラム(例えばJSTのプログラム)で評価されたら、ISSで自動的に実施できないかというもので、これについては我々だけでなくNEDO、NICT、農業研究機構などといろいろ議論しています。

(横山) 貴重なお話ありがとうございました。今の目利きの話ですが、加藤先生この点はいかがでしょうか。企業側からみたらどのような視点が必要でしょうか。
(加藤)

民間企業では、定量的とはいかなくても成果らしきものをきちんと謳って取り組む、というのが当たり前です。

先ほどもちょっと触れた成果を見せる工夫が必要です。数年前のJAXAの資料を見ると、金魚のウロコを培養した実験と成果の報告がありました。その後、それとどういう関係があるか分からないのですが、メダカの話があり、実験内容と成果があり骨にこう結びつきます、とあります。しかし、宇宙だけでなく、地上での膨大なバックアップがあってはじめて宇宙の成果が生きてくるわけで、「きぼう」の成果というのは地上も含めての成果として訴求すべきだと思います。ISSの作業の部分だけのPRしかしていない、そこにフォーカスした取り組みになっているように見えます。一連の流れの中で、その先には人間のこういうことにつながります、というシナリオが常に見える工夫が絶対に必要だと思います。個別の実験という点を線に、そして面に見えるような工夫をされたら良いのではないかと思います。

あともう1つ、民間企業の資金を集めるため、民間企業を勧誘しなければなりません。微小重力の実験ができますよ、だけでは前に進みません。新しいお客さんを集める場合は、どう訴えるのか、何を分かってもらうのか、どうすれば来てもらえるのか、という工夫が必要です。

(横山) 浅島先生、イノベーションと基礎研究の接続部分についてご意見を頂けるでしょうか。
(浅島) ウロコの研究に関連して、我々の身体は60兆個の細胞からできていますが、1秒間に1億個の細胞が入れ替わります。たとえば、骨が壊されているとき、どのような酵素が働き、どういうシステムで壊されているかを知ることによって新しい薬ができます。ウロコの研究は実は最もシンプルな骨の理解なのです。積み重ねがあるから良い結果が出ます。これから「見せ方」というのは重要だと思っています。マウスのデータは世界中にたくさんあります。データを製薬会社も、研究者も皆が見れば、そこに凄い知財ができます。宇宙実験で得られた成果を多くの人たちが活用できるような仕組みが必要であると思っています。

質疑応答

(横山) ここですでに皆様方から頂いているご質問の中からお答えしたいと思います。日本はISSを2020年まで、米国は2024年までやると言っております。奥村理事長からは2020年より前に成果を出していかなければならないというお話もあり、時間軸の制約はかなり厳しいものになっております。「米国が2024年と提示したことで日本側はどのような影響を利用者として受ける可能性があるか?」という質問を受けています。まず長谷川理事にお答えいただき、その後皆様からもご意見を頂きたいと思います。
(長谷川) 2020年までISSを使い尽くして成果を上げましょう、というのが今の状況です。2021年以降どうするかについては、JAXAは実施機関ですから政府と相談していくことになります。どのような成果、実績を上げ、それがどう役立つかということをきちんと表明して進めましょう、というのが現在の状態です。従って利用者においては、できるだけ成果をあげ、産業、社会に大きな影響のあるものになっていることを、時間軸を踏まえて表明して頂くことが一番大事です。
(石川) 短期に成果を出す方法に関し、さきほど宇宙で溶融したサンプルをSPring-8で評価するということがありました。こういった宇宙と地上の連携というのは、是非、やっていただきたいと思います。サービスのパッケージ化というのは解りやすいし、過去の宇宙実験を見ても材料革新に対する期待が高いです。溶融炉がすでに上がっておりますので、これを使った連携は非常に早いと思います。サンプル輸送の問題は、是非、JAXAのほうで解決して頂きたいと思います。
(浅島) 1つはJAXAに蓄えられたデータを、皆に使ってもらうことです。2つ目にマウスの装置ですが、日本の技術でマウスを健康な状態で宇宙に持っていき、どういうことが起きるかを見せたとき、世界の人々が日本の科学技術力は素晴らしいと思います。いままで、マウスを宇宙にもっていった時には、マウスが死亡してしまうなど、必ずしも完璧な装置ではありませんでした。技術に加えて、そこから得られたデータと、今地上にあるデータが組み合わされ、これらを多くの研究者がつかえるようになれば世界の知財になります。
(大竹) 2020年までということはあまり猶予がありません。民間企業はすぐに手が出せないかもしれません。出口志向を持っている研究者を口説いたらどうでしょうか。その人たちがやってきたことは評価されているので、成果があがると、それをサポートする民間企業が追従します。まず「作り込み」をネームバリューのある人とやってみたらどうでしょうか。
(加藤) ISSは手段の提供であってそれが目的ではありません。2020年までに何をやるかではなく、2020年およびその後にどういうことを実現したいのかという志をはっきりさせることが重要だと思います。そこを疎かにすると対症療法だけに終わらないかという心配がでます。
(横山) ここで会場の皆様からご質問を頂きたいと思います。
(会場) 今後マウスを打ち上げるという話ですが、マウス以外を打ち上げて実験しようということはないのでしょうか。
(浅島) 専門家、企業が参加し、JAXAが中心となって何を次に打ち上げようかと考えた時、「きぼう」という制約の中で、なおかつ日本にとって何が一番良いかと考えて、マウスになりました。日本が強い分野で地上に膨大なデータがあり、なおかつ研究者人口が多く、誰でも参入できるような対象ということで、安全性や匹数も考慮してマウスになりました。
(横山) 頂いている質問からもう1つ、「すでに蓄積したデータをどのようにして継承、発展につなげていくか」ということで、先ほど人材育成、継承の紹介がありましたが他の違った取り組みもあると思いますが、いかがでしょうか。
(石川) 私は大学の先生方が、研究予算を取るために宇宙実験をやるという側面がなきにしもあらずと思います。これは基本的に成り立ちませんし、大学も研究者も競争環境に置かれていますので、我々の意識の変革が非常に必要だと思います。理研では野依理事長より「研究者は営業しないといけない」と言われています。税金を頂いて、それを使った研究の成果が出たら、こんな風に使えるのですよ、と無理にでも訪問して売り込む、というのを理研はやっております。それが敷居を低くする方策であると信じており、研究者が自らの言葉でこれはこういう風に使えると語る、基礎研究というのは形になっておりませんので、それを分からせるためには実施した本人が熱意をもって伝えることがとても重要です。
(横山) 最後に、分野に関係なく、こうした点がさらに議論が必要ではないかという点に関してご意見を頂きたいと思います。
(浅島) マウスを安全に、かつ健康に宇宙に持って行く装置は、産官学が一緒にならないとできません。単なる1回の宇宙実験でなく、その装置がプロトタイプとなって、多くのところで飼育ができるようになる可能性があります。我々が行っている実験は、ある意味では種をまきながら世の中に広めて行くということであると思います。
(長谷川)

マウスの件は、現在地上でやっておられる先生方のコミュニティがあり、相談して選びました。地上で十分研究が進んでいる分野で、宇宙での知識やユニークさでそれを加速させます。実際にはとても難しい技術ですが、チャレンジをしながら進めています。

それから技術やデータを広く展開する件ですが、宇宙以外でユニークさが分からない方々にご理解いただけるよう、製薬会社などへ出向いています。それがうまくファンディング等につながるようにさらに加速しなければいけないと今日思いました。

また、宇宙での特有な状態で免疫性がどのような状態か知りたいという会社が多くあります。ここでも宇宙にどのような意味、価値があるかを話していますが、もっと専門家、ファンディング機関と相談しながら進めて行く必要があると思いました。

(大竹) 研究現場で「こういう良い技術があるから使えばいいじゃないか」という研究者が多くおられますが、それでは成功確率は高くありません。たとえば産学連携するなら、企業が何が必要か明確に言うとともに、学の方もそれに対して何ができるか言うことが重要だと思います。それから研究なり開発なりの流れの中での1つの技術ですから、独り立ちできないと使ってもらえないと思います。
(横山) 新しい方向の中で、早いうちの意見交換と言うのが非常に重要かと思います。情報の流通を密にしていただき、手を合わせて良い成果が出るように応援しています。どうもありがとうございました。

講演一覧

これまでに得られた成果
  • 生命科学分野
    高橋秀幸(日本宇宙生物科学会 理事長、東北大学 教授)
  • 宇宙医学分野
    岩崎賢一(日本宇宙航空環境医学会 理事長代行、日本大学 教授)
  • 物質・物理科学分野
    石川正道(日本マイクログラビティ応用学会 会長、理化学研究所 室長)
宇宙実験の成果を地上へ
JAXAの目指す方針
全体討論:「イノベーション創出に向けて」
閉会挨拶
  • 長谷川義幸(宇宙航空研究開発機構 理事)
 
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