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シンポジウム・ワークショップ

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用シンポジウム

宇宙飛行士に学ぶ寝たきりにならない方法 ~骨粗しょう症治療薬を使った宇宙での骨密度減少への予防効果~

最終更新日:2014年1月31日

松本俊夫氏

岩本幸英氏

講演:松本俊夫(徳島大学教授)
ディスカッション:岩本幸英(日本整形外科学会理事長、九州大学教授)

講演資料 [PDF:1.6MB]

骨は常に古い部分、痛んだ部分を溶かしては作り直するというリモデリングを繰り返しています。健康な人では失った部分と作られる部分との間でほぼバランスがとれていますが、物理的な負荷が減るような場合、つまり微小重力や寝たきりの環境では、失う部分が大きい一方、作られる量がそれに足りなくなります。その典型的な例が宇宙飛行で、宇宙では機械器具を使って運動しても、宇宙飛行士の約半数の骨は6カ月で9%以上、つまり1カ月で1.5%減ってしまいます。骨がたくさん溶けることによって尿中のカルシウム排泄が増加し尿路結石の問題も起こります。

そこで、JAXAとNASAで、骨減少を防止するための、薬剤を使った共同研究を行いました。骨吸収を抑制する薬(ビスフォスフォネート)を搭乗の3週間前から週2回服用してもらい、骨密度、骨代謝マーカー、尿路結石の測定を飛行前後に行いました。ビスフォスフォネートを服用した7名の宇宙飛行士のデータを、運動を行ったのみで服薬していない宇宙飛行士と比べたところ、薬を飲んでおくと、むしろ飛行前よりも骨吸収が抑制されていました。骨形成の低下には両群の間に余り相違がなかったので、服薬した飛行士では両者のバランスが保たれていたと思われます。一方、運動しているだけの人は、骨吸収が大きく高まり、バランスが崩れていました。尿中カルシウムは、運動しているだけでは大きく増加していて、尿路結石の強いリスクになっていましたが、ビスフォスフォネートを服用した人は、尿中カルシウムも抑制されていました。

次に3次元で骨を計測する装置で、骨が歪んだときの反応から骨の強度を推定しました。その結果、骨の強度はビスフォスフォネートを服用した人では保たれていましたが、運動しただけでは10%くらい落ちていました。従って服薬によって骨の強度も保たれたことになります。

地上で長い間寝たきりではどうでしょうか。大腿骨の負荷が一番少ない、頭を6度下げたベッドに横たわるモデルで調べました。これはJAXAとESA(欧州宇宙機関)の共同研究で行いました。寝たきりだと3カ月で6%の骨減少が起こりましたが、ビスフォスフォネートを使った場合は3ヶ月経っても骨減少は見られませんでした。地上で運動負荷をかけている骨は、負荷を取り去るとアンバランスが非常に強くなりますが、もともと負荷のかかっていない頭蓋骨などは、負荷の影響を受けません。そういう骨を観察すると、寝たきりの人は一時的に骨の量が増えているのが分かりました。これは、荷重骨から失われたカルシウムをできるだけ体外に出さないように、そのカルシウムを頭蓋骨などに保持しておこうという変化が起きているものと思います。薬剤によって少なくとも6か月くらいの間は地上でも尿路結石のリスクを押え、骨減少も防げることが分かりました。しかし、骨は壊されては作られるということを繰り返していますので、何年にもわたってこの治療法で健康な骨を維持できるのか、ということは今後の課題です。

ディスカッション

(岩本) 私たち日本整形外科学会は、ロコモティブ・シンドロームという運動器の障害による寝たきりを予防するキャンペーンを行っています。日本が高齢化社会を迎え、運動器、骨や関節、筋肉の障害によって寝たきりや介護状態になる国民が非常に増えており、予防のために2007年に我々がこの概念を打ち出しました。原因は、骨粗しょう症関連骨折・変形性関節症・変形性脊椎症などいろいろな運動器の病気、加齢に伴う筋力の低下、バランス能力の低下の3つです。骨粗しょう症の予防については松本先生が述べられました。あと筋力、バランス低下は、トレーニングである程度予防できると考えています。 我々の取組みはまさに宇宙医学と関連します。地上で我々が直面している問題と宇宙空間の問題が非常に似通っていると思いました。宇宙と地上で同一のところと相違点があると思いますが、程度が相当違うと考えてよいでしょうか。
(松本) 一番骨減少が強い場所では、地上でも宇宙と同じくらい減るのですが、地上の場合、あるところは負荷がかかったりしますので、宇宙ほど全身の骨に及ぶということはありません。寝たきりの場合は、やはり大腿骨、骨盤の負荷が取れてしまうので、そういう部分については宇宙と同じくらいの減り方です。
(岩本) 動かないことによる骨量減少や筋力低下のメカニズムはずいぶん研究されていると思うのですが、まだ完全には解っていません。たとえば将来、マウスなど実験動物を宇宙に持ち込み、それを地上で生かせないかと期待していますが、いかがでしょうか。
(松本) 地上では負荷に伴っていろいろな遺伝子が動くので、遺伝子をノックアウトした際の反応などを見ていますが、主要なメカニズムまでは絞られていません。小動物が宇宙に上がるということは画期的なことだと思います。マウスが打ち上がり、負荷のとれた筋肉等の遺伝子の発現状態のチェックを網羅的にやれば研究が一気に進み、予防的な方法ができるかもしれません。
(岩本) ビスフォスフォネートの成果についてですが、そのまま地上でまったく同じように適応できるものでしょうか。
(松本) ビスフォスフォネートは非常に飲みにくい薬で、経口薬は朝食前にたくさんの水で起きたまま飲んでもらうので寝たきりの人や脳卒中で起きれない人には、実は使えません。ところが今では6カ月に1回の皮下注射でも効く薬や、月に1回の注射薬が開発されています。ベストな方法を探っていく必要があります。
(岩本) 今回の宇宙での成果の国民の皆様へのメッセージですが、私がショッキングだったことは、若い宇宙飛行士が宇宙から帰ってきて立つことも困難になっていたことです。若い人でも運動習慣と健康に関する関心を持つことがいかに重要かという警鐘になったと思います。

講演一覧

これまでに得られた成果
  • 生命科学分野
    高橋秀幸(日本宇宙生物科学会 理事長、東北大学 教授)
  • 宇宙医学分野
    岩崎賢一(日本宇宙航空環境医学会 理事長代行、日本大学 教授)
  • 物質・物理科学分野
    石川正道(日本マイクログラビティ応用学会 会長、理化学研究所 室長)
宇宙実験の成果を地上へ
JAXAの目指す方針
全体討論:「イノベーション創出に向けて」
閉会挨拶
  • 長谷川義幸(宇宙航空研究開発機構 理事)
 
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