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共同研究について


ミール

 STS-91のプロジェクトサイエンティストのNASDA宇宙環境利用研究センターの中野副主任開発部員にお話を伺いました。中野さんは本プロジェクトだけではなく、STS-79、84、89と全ての宇宙放射線環境計測計画に関与しています。また、1997年2月と8月に実施したミール利用宇宙実験も担当しました。これらの全ての実験は宇宙放射線をテーマとするものです。この分野の研究について、主として国際協力の視点からお話を伺いました。

Q1.プロジェクトサイエンティストとはどのようなお仕事なのですか。
A1.科学実験の担当責任者といったらよろしいでしょうか。
 それぞれの科学実験を実施する研究者とNASDAとのコンタクトポイントの役割を果たすと共に、実験についてNASAの関係者やクルーに説明したりもします。ミッション中に実験の変更等が発生した場合、対処方針の決定を日本の研究者に代わって行うこともその業務の一つです。

Q2. どのような経緯で、NASAと共同してSTS-79から今回のSTS-91に至る4回の実験に日本が参加することになったのですか。
A2. 宇宙ステーションの建設と運用にあたって考えられる色々なリスクをできるだけ回避するための技術開発や、飛行実験による検証を参加国で共同して行うというNASAから呼びかけがありました。宇宙放射線に関する健康管理をテーマとした共同研究をしようというものでした。先ずSTS-79と84へのよびかけがあって、その後STS-89とSTS-91へのよびかけがあったわけです。

Q3. 共同研究で、日本はどのようなことをすることになったのですか。
A3. 宇宙放射線環境を計測する技術の開発と、宇宙放射線による生物影響の研究、ならびに宇宙天気予報(宇宙放射線環境の予測)の実現をテーマとしました。

宇宙ステーション

Q4. 共同研究といいますと、具体的にはどのように進めるのでしょうか。
A4. ミッションを共同で行うことを前提として、その中身の実験についても実験試料やテーマの重複をなるべく避けて、それぞれの得意なものを持ち寄っていくことにしています。また、実験結果の比較をしたり、論文を共著にすることもあります。

Q5. 日本独自の技術としてはどのようなものがありますか。
A5. 放射線の研究方法にはアクティブなものとパッシブなものがあります。パッシブな方法は線量計を設置し、後日解析するもので、広く採用されていますが、この特徴は実験期間中の総被曝量を計測することにあります。一方アクティブな方法は、被曝状況を電気的に変換してリアルタイムで観測するもので、日本独特のものです。このための実験装置を、実時間放射線計測装置(RRMD)と云います。これは被曝状況を時系列で把握できるので、環境条件と被曝量の関連を知ることができ、また時間的な推定(予報)が可能となるという利点があります。もう一つ、中性子モニタ装置(BBND)があります。本格的に宇宙船内の中性子を観測するのはこの装置が初めてです。また、蚕(かいこ)の卵も利用しました。蚕について日本はその遺伝に係わるしっかりしたデータを持っていますので、放射線が蚕の遺伝に与える影響を研究するための下地が出来ているのです。その他、将来の個人用線量計の開発にも力を入れています。宇宙飛行士各個人の被曝量を正確に把握し、健康管理に活用するために、幅広いレンジの放射線を測定できる小型で軽い携帯型線量計が必要なのですが、理想的な性 能特性を実現するためにはどのような放射線検出物質を組み合わせるのが最適かを探ろうとしていまして、日本が力を入れているところです。

Q6. 実験を進めるために、ロシアのデータなどは参考にしていますか。
A6. はい。ロシアのデータはパッシブなものですが、参考になります。これまでの共同実験成果から、ロシアのデータに限らず米国のものも傾向は一致したものが得られていまして、測定結果は国際間で矛盾はないことが判りました。日本はさらにアクティブな方法で時系列のデータに挑戦しているわけです。

Q7. 研究の成果は宇宙ステーション計画にどのように反映されるのでしょうか。
A7. 国内的には,放射線被曝に対する健康管理基準を策定するためにも活用されます。また各国の専門家から成る委員会の場に成果をNASDAから提出し、今後の調整材料になっていきます。

中野副主任開発部員

Q8. ロシアとの共同プロジェクトについて教えて下さい。
A8. 1997年2月と8月に、ロシアの宇宙ステーション"ミール"で宇宙実験をしています。宇宙放射線に関する研究と、軌道上で長期運用されている世界で唯一のミール船内の微生物に関する採取、分析を行いました。微生物研究につきましては,2月の実験で病原性のものは見つからなかったということと、放射線耐性を持つ微生物(好気性シュードモナス)がその種としては初めて見つかったということ、また、まだ未同定だった微生物が多種みつかったことなどが挙げられます。今後の展開として、放射線障害に耐性な原因としてのDNA修復メカニズムの分子レベルの研究に進み、それが後に癌治療の研究にも役立つものと期待されます。

Q9. 今後の計画はありますか。
A9. ロシア側からの働きかけもありまして、今後とも共同宇宙実験などの協力を続けることになるでしょう。宇宙飛行士の訓練などのために日本人が常駐するようになるかも知れません。

Q10. 苦労した点はありますか。
A10. ロシア側との調整は、アメリカとの場合と比べ、より人間関係が大事になってきます。つまり、個人と個人の信頼関係ができないと、本当の意味での協力は難しい文化、精神風土であることが折にふれ、痛感しました。


 STS-91の打上げが数日後に迫ったお忙しい最中に急にお話を伺うことになり、快く対応していただきました。そしてお話が終わるや否やこれから明日ヒューストンに出発するため荷物を鞄に詰め込むんですといわれ、席を立たれました。
 お忙しい中ご協力有り難うございました。


Last Updated : 1998. 6. 8


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