2.3 スペースシャトルの主要システムの概要

2.3.1 推進系システム

 スペースシャトルには、打上げ時に使用するSSME、SRBと軌道上での軌道変更、軌道離脱に使う軌道制御システム(Orbital Maneuvering System:OMS)、姿勢制御に使用するRCSエンジンがあります。

 表2-1 にスペースシャトルの推進系システムの主要諸元を示します。

 

表2-1 スペースシャトルの推進系システムの主要諸元

注)SRB:Solid Rocket Booster

  SSME:Space Shuttle Main Engine

  OMS:Orbital Maneuvering System

  RCS:Reaction Control System

 

2.3.2 オービタの操縦システム

 オービタの操縦システムは飛行機のように滑空中の操縦も必要なため従来型ロケットに比べ非常に複雑です。三角翼の後縁に昇降舵と補助翼を兼ねたエレボンという装置がついていますが、エレボンは外舵エレボンと内舵エレボンに分かれており、飛行機と同じように速度の大きい場合は、内側だけが作動し、速度が遅くなると両方が作動します。これは、昇降舵を兼ねているので、上面にも下面にも動きます。(図2-3 オービタ エレボン)

 飛行機の場合、揚力を増すため主翼のフラップを用いますが、オービタでは胴体の後縁にあるボディーフラップを用いています。

 方向舵(ラダー)は飛行機と同様、尾翼には方向舵が取り付けられています。      

 一方、打ち上げ時の制御としては、SSME、SRB共にエンジンの首振りが可能であり推力方向制御を行っています。

 軌道上での姿勢制御は、オービタの前方および後方にあるRCSエンジンを使って変更します。このRCSは、再突入後の大気が薄く舵による空力制御がきかない間の制御にも使われます。

 外部タンクに取り付けられた固体ロケットブースタは、打上げ上昇中の推力の大半を受け持っていますが、推力方向を変えるため、可動ノズルが採用されています。

 固体ロケットブースタを両脇に抱えた外部タンクは、100 トンもあるオービタを背負った形となっていますが、重心は外部タンクの中心線上にもオービタの中心線上にもなく、中間の位置に来ます。

図2-3 オービタ エルボン

 

2.3.3 環境制御・生命維持システム

(ア)環境制御・生命維持システムには、以下のような目的があります。

      *キャビンエアーの浄化

      *新鮮なエアーの追加

      *圧力を1気圧に保持

      *キャビン内の温/湿度制御

      *飲料水や手洗い水の供給

      *トイレの作動

      *火気の検出・消火

(イ)環境制御・生命維持システム装置は、操縦席の下の階(ミッドデッキ)に収納されています。

(ウ)2台のファンにより、キャビン内エアーの循環を行い空気を水酸化リチウムを含んだキャニスター(二酸化炭素を除却すると共に、活性炭により臭気も除却する)に送り込みます。飛行中、キャニスターは定期的に交換する必要があります。

(エ)飛行中の廃熱の主な処理方法には、以下のような方法を用います。

・ペイロードベイドア内側に取り付けられている放射パネルより、ペイロードベイ内部の熱を放出します。

・フラッシュエバポレータという装置により、環境制御・生命維持システムから発生した熱を気化することにより除去します。

(オ)ペイロードベイを閉めた状態では、熱制御上の問題により標準的なミッションに於いて、運用時間は8時間程です。このため、オービタはミッションの種類にかかわらず、軌道上では直ちにペイロードベイドアを開けることになっています。

 

2.3.4 緊急脱出システム

 オービタの緊急脱出システムには、以下のようなものがあります。

(ア)射点上で固体ロケットブースタ(SRB)の点火前に緊急事態が発生した場合には、アクセスアームがオービタのハッチに再接続され、クルーはスライドワイヤーでつられた緊急脱出用バスケットにより支援塔から脱出することになっています。

(イ)打上げ後にメインエンジン等に不具合が発生し、飛行継続が不可能な場合は、KSCに戻る(RTLS)、大西洋横断後にスペインまたはアフリカの西海岸に着陸(TAL)、地球をほぼ一周して着陸する(AOA)等のケースが想定されています。

(ウ)飛行中に火災、または空気汚染等が発生した場合は、打上げ/帰還時に着用する与圧服を着用し、緊急事態がおさまるのを待つことになります。

(エ)緊急着陸等で問題が発生した場合は、クルーはミッドデッキの左舷クルーハッチから脱出することになっています。ここが開かない場合は、フライトデッキの天井ハッチからロープを使用して脱出します。

(オ)大気圏内での滑空中に緊急事態が発生した場合には、ミッドデッキのハッチよりポールが伸展し、クルーはオービタ本体に衝突しないようポールにガイドされながら脱出しパラシュートで降下します。脱出時の高度、速度につきましては、高度9,000m以下、大気速度約555km/h以下となっています。

       注)RTLS:Return To Launch Site

         TAL:Trans Atlantic Landing

         AOA:Abort Once Around

 

2.3.5 キャビンの構造

 オービタのキャビンの構造を図2-4 に示します。

 

図2-4 キャビンの構造