1.2 ミッション

1.2.1 第5次船外活動開発飛行試験(EDFT-05:EVA Development Flight Test-05 )

 1998年より開始が予定されている国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station )の組立には、多数の船外活動による組立作業が必要となります。

 NASAは、EVAミッションによる国際宇宙ステーションの組立作業を開始するにあたり、国際宇宙ステーション組立に使用する機器の開発/手順書の作成に着手しており、EDFT−05については軌道上で実施される検証試験となります。

 EDFT-05では土井MS(EV2:Extravehicular Activity 2 )とスコットMS(EV1)の2名がEVAを行い、船内からはチャウラMSが支援して検証試験を実施します。

 また、国際宇宙ステーション組立時に向けてのリスク軽減実験の一環として宇宙服内での血液の超音波ドップラー計測実験(In-suit Doppler Experiment)と自律型船外ロボットカメラ(AERCam / Sprint)実験も実施されます。

 

(1)EDFT概要

 EDFT-05では国際宇宙ステーションの軌道上交換ユニット(ORU:Orbital Replacement Unit)運搬用に開発したEVAクレーンを用いて作業を行い、主にEVAクレーンの機能・性能を検証します。

 大型ORUはバッテリORU模擬ユニット、小型ORUはケーブル・キャディを用いて検証試験及び各種EVAツールの操作性についての検証試験も行います。

 

 (2)検証機器及び使用機器

a. EVAクレーン(EVA Crane)

 EVAクレーンは国際宇宙ステーション上で装置の交換等を宇宙飛行士がEVAで実施する時に使用する運搬用の装置です。

 EVAクレーン(図1-1 参照)は、約272kg までのペイロード運搬が可能であり、約5.3m まで伸縮可能なブームを持っています。伸縮ブームは、パワー・ツール(モータにより回転駆動する工具)を用いるか、手動操作によって駆動されます。またEVAクレーンは、装着したペイロードの操作ハンドルを手動で回転させることによりピッチ(上下方向)/ヨー(左右方向)軸回りに回転させる機構を持ちます。

 EVAクレーンは今回が初フライトであり、本フライト終了後、改修を行って2001年には宇宙ステーション用として実際に打ち上げられる予定です。EVAクレーンの製造メーカーは Lockheed Martin Missile and Space 社です。

 EVAクレーンの主要諸元等を表1-2 に示します。

 

図1-1 EVAクレーンの概要

 

表1-2 EVAクレーンの主要諸元など


b. バッテリORU模擬ユニット

 バッテリORU(軌道上交換ユニット)模擬ユニットは、宇宙ステーションで使用する、交換可能型バッテリの外形、重量を模擬したものであり、EVAクレーンで把持することによりEVAクレーンの操作性評価に使われます。

 バッテリORU模擬ユニットの主要諸元などを表1-3 に示します。

 

表1-3 バッテリORU模擬ユニットの主要諸元など

 

c. ケーブル・キャディ(Cable Caddy)

 ケーブル・キャディは、国際宇宙ステーションでのケーブル交換時に使用されるものであり、重量は約22.7Kgあります。

 

d. その他のEDFT-05使用機器

(a)宇宙飛行士身体固定用テザー(BRT:Body Restraint Tether)

 BRT(図1-2参照)は、船外作業の際に宇宙飛行士の身体にBRTの一端をとりつけ、他端をバンドレールに固定することにより、両手を自由に作業に使えるようにするためのツールです。

 BRTの評価試験は、既にSTS-69、STS-72でも実施されています。

 

図1-2 BRT(Body Restraint Tether)

 

(b)汎用テザー(MUT:Multi-Use Tether)

 MUT(図1-3参照)は、BRTをベースに開発されたものです。先端の把持部を、EVA中に交換することができるので、BRTよりも多くの用途に使用することができます。

 MUTは、STS-76で、評価試験が行われています。

 

図1-3 MUT(Multi-Use Tether)

 

(c)ピストル型パワー・ツール(PGT:Pistol Grip Tool)

 PGT(図1-4参照)は、バッテリ駆動方式のパワー・ツールであり、ネジ、ボルトの締め付け、ゆるめ作業(注:強いトルクを必要としない作業)に使用できます。

 PGTは、STS-80で船内評価試験が実施され、STS-82(ハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッション)で、実際の作業用ツールとして使用されています。

 

図1-4 PGT(Pistol Grip Tool)

 

(d)ポータブル・フット・レストレイント(PFR:Portable Foot Restraint),PFR取り付け装置(PAD:PFR Attachment Device)

 PFRはEVA作業時のEVAクルーの足を固定するための足場として使用されます。PFRは、シャトルのロボットアーム(RMS)の先端に取り付け、移動可能な足場とするために使われます。

 なお、これらの機器はEDFT-05の評価用に使われるのではなく、これまでも何度かシャトルで使われています。

 PFRおよびPADを図1-5に示します。

 

図1-5 PFRおよびPAD

(出典:EVA checklist STS-87(JSC-48024-87))

 

(e)その他

 上記で示した以外にもORUテザー(ORUを接続したり、つなぎとめたりしておくためのツール)、ORUハンドリングツール(ORUを運搬するために取り付けるハンドル)等、各種EVA工具の操作性評価が行われます。

 

(3)EVAサマリ・タイムライン

表1-4 EVAサマリ・タイムライン
EVA
経過時間
EV1(スコットMS)作業 Task
Time
EV2(土井MS) 作業 Task
Time
0:00-0:05 エアロック減圧 0:05 エアロック減圧 0:05
0:05-0:15 エアロックより船外へ 0:10 エアロックより船外へ 0:10
0:15-0:25 貨物室内の往復(体の基本的な動かし方になれる為の準備) 0:10 貨物室内の往復(体の基本的な動かし方になれる為の準備) 0:10
0:25-0:55 EVAクレーンの設置 0:30 EVAクレーンの設置 0:30
0:55-1:15 PAD/PFRの準備 0:20 EVAクレーンの点検 0:20
1:15-1:35 EVA機器の準備 0:20 EVA機器の準備 0:20
1:35-2:05 大型ORU運搬装置の取り外し 0:30 大型ORU運搬装置の取り外し 0:30
2:05-3:35 EVAクレーンを使用しての大型ORUの運搬操作 1:30 EV1が実施するEVAクレーン操作の支援 1:30
3:35-4:05 大型ORU運搬装置の取り付け 0:30 大型ORU運搬装置/小型ORUの準備 0:30
4:05-4:35 PAD/PFR上(ロボットアームに足を固定した状態)での大型ORUの運搬操作 0:30 EVAクレーンを使用しての小型ORUの運搬操作 0:30
4:35-5:05 EVAクレーンの収納 0:30 EVAクレーンの収納 0:30
5:05-5:55 AERCam(自律型EVAロボットカメラ)の放出、回収 0:50 EVA機器(BRT/パワーツール)の操作性評価 0:50
5:55-6:15 EVA機器の収納 0:20 EVA機器の収納 0:20
6:15-6:25 エアロックへ戻る 0:10 エアロックへ戻る 0:10
6:25-6:30 エアロック再加圧 0:05 エアロック再加圧 0:05
STS-87 EVA Time line(97年9月10日)より
PFR(Portable Foot Restraint:ポータブル・フット・レストレイント)
PAD(PFR Attachment Device:PFR取り付け装置)
AERCCam(Autonomous EVA Robotic Camera:自律型船外ロボットカメラ)
BRT(Body Restraint Tether:身体固定用テザー)

 

(4)船外活動中に実施されるリスク軽減実験(RME:Risk Mitigation Experiment) 

a. 宇宙服内での超音波ドップラー計測(RME1309 In-suit Doppler Experiment)

 シャトルでの船外活動(EVA)時には、規定されたプレブリーズ(注1)手順を実施することにより、減圧症発生のリスクを抑えることができますが、この手順の実施には長時間を有します。将来、このプレブリーズ時間を短縮することができるか可能性を探るため、本実験を実施します。

 今回の実験では、この装置の開発が遅れたため、基礎的な試験との位置づけに変更し、船内の通常の圧力下で、超音波ドップラー計測装置を胸部に装着し、超音波ドップラーの動作確認テストのみ行います。

 (注1)プレブリーズについては、7.5章のEVA運用概要を参照。

 (注2)通常時の船内気圧  約1気圧

    宇宙服内の気圧   約1/3気圧

 

b. 自律型船外ロボットカメラ(RME1323 AERCam/Sprint)

 NASAでは、スペースシャトルや国際宇宙ステーションでのEVA作業を支援するため、あるいは、船外の状況をEVAを実施することなく確認するため、船外を自由に飛行できるロボットカメラAERCam(Autonomous EVA Robotic Camera)の開発プロジェクト(AERCamプロジェクト)を進行中です。Sprintは、そのための初期段階の実験機であり、今後徐々に高度な自動化機能を付加する予定です。

 このAERCam/Sprint(図1-6参照)は、EVAクルーによって放出/回収され、放出中は船内のクルーによって操作されます。Sprintの主要諸元を表1-5に、ペイロードベイ(貨物室)内想像図を図1-7に示します。

 

表1-5 Sprintの主要諸元

 

図1-6 AERCam/Sprintの内部構造(クッションを除いた状態)

 

図1-7 AERCam/Sprintペイロードベイ内想像図

出展:http://ranier.oact.hq.nasa.gov/feleroboticspage/photos

 

(5)過去のEDFTのミッション

 EDFTはこれまでにEDFT-01〜EDFT-04の計4回実施されています。表1-6に過去のEDFTミッションの主要な作業項目を示します。

 

表1-6 過去のEDFTミッション

MEEP(Mir Environmental Effects Payload)
PWP(Portable Work Platform)