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国際宇宙ステーション(ISS)

免疫変化の早期発見で宇宙と地上で激しい痛みを伴う帯状疱疹を防ぐ*1

*1 出典:「NASA Technology Innovation Vol.15; 3, 2010; NP-2010-06-658-HQ」
サティッシュ・メータPh.D. シニアサイエンティスト、エンタープライズアドバイザリーサービス
デュアン・ピアーソンPh.D. チーフマイクロバイオロジスト
マーク・オットPh.D. シニアマイクロバイオロジスト
NASAジョンソン宇宙センター(JSC)

宇宙飛行に伴う生理的、感情的、精神的なストレスは免疫低下につながり、それが痛みを伴って皮膚が病変する帯状疱疹を引き起こすウイルスを活性化させることがあります。NASA は、痛みを伴う皮膚の病変が宇宙飛行士や地上の人びとに現れる前に治療を始めるべく、早期に免疫の変化を検出する技術を開発しました。この早期発見と治療によって、病気の期間が短くなり、長期的な影響を少なくします。


ヘルペスウイルス由来多核性巨細胞を示すVZV 感染MeWO 細胞。培養細胞は、細胞質の中にあるRNA(赤)を識別するためacrydine オレンジで染色されています。(出典:NASA)

ヘルペスウイルス由来多核性巨細胞を示すVZV 感染MeWO 細胞。培養細胞は、細胞質の中にあるRNA(赤)を識別するためacrydine オレンジで染色されています。(出典:NASA)

宇宙飛行によって人の免疫系の一部が変わります。宇宙飛行士の体内では、ウイルスなどの感染源に対する初期の防御線である先天性免疫、細胞性免疫の一部の機能が低下します。短期の宇宙飛行では宇宙飛行士の感染症の罹患率が増加したり重症化することはありませんが、探査ミッションでの長期宇宙滞在で免疫系がどのように変化するかをNASA の科学者は懸念しています。

健康な個人の免疫バイオマーカー(生体指標)を選ぶことは難しいですが、主として宇宙飛行士に対する研究に基づいて、「ヘルペスウイルス」が免疫系変化の早期発見に役立つ手段となりました。人の体内には8 種類のヘルペスウイルスが生息しており、事実上、私たち全員がこれらのウイルスの1 つ以上に感染しています。ヘルペスウイルスには、一般的な「発熱性水泡」(単純ヘルペスウイルスHSV)、感染性単核球増加症(エプスタインバーウイルスEBV)、水ぼうそうや帯状疱疹(水痘帯状疱疹ウイルスVZV)などがあります。免疫力が低下した人では、ヘルペスウイルスは上皮性悪性腫瘍やリンパ増殖性疾患など、数種類の癌を引き起こす場合があります。

アメリカ疾病管理予防センターによれば、米国では年間100 万例の帯状疱疹が発生し、そのう ち、10 万~ 20 万例は特に痛みの激しい症状に発展し、時には帯状疱疹後神経痛(Post Herpetic Neuralgia: PHN)と呼ばれる衰弱状態に陥り、この症状は数か月から数年にまでおよぶことがあります。その他7 種類のヘルペスウイルスも、VZV(水痘帯状疱疹ウイルス)のようにさまざまな体細胞内に不活性状態で存在し、同じように、免疫力が低下している間に再活性化して、病気を引き起こすことがあります。

免疫低下の最も一般的な原因は加齢によるものですが、慢性的なストレスも免疫の低下につながり、VZV に起因する帯状疱疹などの二次疾患のリスクが高まります。化学療法、臓器移植およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの感染症も免疫低下を引き起こします。このため、ウイルスの再活性化は、臨床的に関連した免疫変化の重要な指標とみなされるようになりました。免疫が低下した人の研究で、これらの患者の唾液に排出されるEBV(エプスタインバーウイルス)は健康な人の90 倍も多いことがわかっています。

ヘルペスウイルスは、世界中の一般成人の少なくとも95% に存在し、宇宙飛行士の体内にも存在しています。したがって、宇宙飛行士の体液中のヘルペスウイルスの発現を測定することは、大いに望まれた免疫バイオマーカーとなります。宇宙飛行に関連したさまざまなストレス要因が、宇宙飛行士にみられる免疫低下の原因だと広く信じられています。NASA のジョンソン宇宙センターの研究者達は、宇宙飛行の際に4 種類のヘルペスウイルスが体液内で活性化して発現したことを突き止めました。細胞の免疫低下により、これらのウイルスは不活性状態から活発な感染体になることができます。増殖ウイルスが唾液、尿または血液中に出て、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析により、特定のウイルスごとに検出し定量化することができます。PCR 分析はウイルスのDNA を検出して、非常に感度がよく特定でき、利用者が選択的にウイルスDNA 配列を複製することを可能にします。宇宙飛行士の唾液にVZV を発見したのが、発症していない人においてVZV が活性化して排出されたケースの最初の報告でした。その後に、宇宙飛行士の唾液に排出されたVZV は完全な形態で感染性があり、発症していない人に病気を引き起こすリスクがあることがわかりました。

PCR 技術は一般人の患者のVZV に起因する帯状疱疹の研究にも利用されました。このヒューストンにあるテキサス大学健康科学センター(University of Texas Health Science Center)の医 師とジョンソン宇宙センターの科学者の経験を合わせて行われた研究において、54 名の帯状疱疹患者のいずれからも治療を開始した日に唾液中にVZV が見つかりました。抗ウイルス治療後に痛みと皮膚の病変は減り、VZV のレベルも低下しました。治療前の帯状疱疹患者群のVZV の複製の低レベル領域が、宇宙飛行士のVZV の高レベル領域に重なっており、宇宙でVZV の再活性化によ る帯状疱疹が発症する潜在的リスクを示唆しています。

この早期発見技術は、21 才の帯状疱疹患者の初期の診断に使われ、早期の医療処置につながりました。この迅速な対応のおかげで、皮膚が病変することなく、急性疾患による痛みの持続時間も短縮されました。別のNASA の研究では、宇宙飛行のPCR 技術によって、25 名の帯状疱疹患者すべてで血清と末梢血液単核細胞内のVZV 検出に利用され、ウイルス血症(血液中のウイルス)が帯状疱疹に共通で見られることを初めて示しました。しかしながら、PCR 分析には大型で複雑な装置が必要で、宇宙飛行には実際的ではありません。

宇宙飛行士でのウイルス再活性化を調査する試みでこの障害を克服するために、NASA は体液内のVZV を短時間で検出する方法を開発し、その特許は審査中です。この新技術には少量の唾液標本が必要で、これを特殊な試薬と混ぜると、VZV が存在する場合にのみ赤色になります。この技術により、皮膚の病変が出る前の早期発見が可能になります。早期発見により、抗ウイルス療法の早期管理が可能になり、神経の損傷を抑えて、病気の発症を防ぐことができます。帯状疱疹後神経痛を防ぐためには、迅速な治療が必要です。この器具は、医師の診察室または宇宙船内で使用できるように設計されており、唾液、尿、血液および髄液内の他のウイルスでも利用できるように容易に変更できます。その感度や識別能力は、抗原抗体反応によって決まります。

別の共同研究では、NASA とコロラド大学健康科学センター(デンバー)の研究者達がスペースシャトル飛行中の唾液ストレスホルモンを評価するために採取器具を開発しました。唾液標本は個別の細長い濾紙に採取し、乾燥させます。乾燥した標本は室温で6 か月間、安定状態を保ち、地上に戻ってから検査ができます。この検査では、二つの重要なストレスおよび免疫調整ホルモンである、コルチゾールとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)が測定されます。濾紙は、唾液中のタンパク質やその他の検査対象分子にも使用できます。これらの濾紙の束は現在、大学や政府の研究所で遠隔地の唾液の収集用に使用されています。

これらの研究は、米国だけでも毎年百万人に達する患者の痛みや衰弱状態を防ぐ技術を一般市民にもたらすことができるという潜在的価値を示しています。



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