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国際宇宙ステーション(ISS)

国際宇宙ステーションが、ワクチン開発に役立つ

タラ・ラットリーPh.D.
NASA アソシエートISSプログラムサイエンティスト

ひどい食中毒に苦しめられている最中に、「どうしてこれまで誰も食中毒の治療法や確実な予防法を発見していないのだろう」と思ったことはありませんか。ときには、あなたや知り合いが強力な細菌性ブドウ球菌に感染してしまい、その菌が医療専門家が使用するほとんど全ての抗生物質に耐性を示すこともあります。さまざまな病原菌に対するワクチンの開発は、つい20 世紀の初めまでは想像もしえなかった方法で世界の人々の健康維持に貢献してきましたが、防御しなければならない病原菌がまだたくさんあります。今、ワクチン開発は国際宇宙ステーション(ISS)の微小重力環境のおかげで効率化されようとしています。

アリゾナ州立大学バイオデザイン研究所のシェリル・ニッカーソン(出典:Nick Meck)

アリゾナ州立大学バイオデザイン研究所のシェリル・ニッカーソン(出典:Nick Meck)

ダラム復員軍人援護局医療センター(Durham Veterans Affairs Medical Center)のティモ シー・ハモンド博士とアリゾナ州立大学のシェリル・ニッカーソン医学博士の2 人の研究者は、微小重力を使ってサルモネラ菌に対する治療薬やワクチンの研究を行いました。サルモネラ菌への感染は米国において最もありがちな食中毒の1 つです。世界的にみて、サルモネラ菌による下痢は、依然として乳児死亡率の上位3 つの原因の1 つであり、そのワクチン開発は発展途上国の健康を劇的に改善する可能性があります。宇宙環境は、微生物の成長速度、抗生物質への耐性、宿主組織への微生物侵入、微生物の毒性(微生物が病気を引き起こす影響力)の変化、微生物内の遺伝子の変化など、感染病に直接関連する微生物細胞の働きに大きな変化を誘発することが示されました。この一連の研究で、微小重力環境下ではサルモネラ菌の毒性が強まることがわかりました。このような微小重力によって誘発される変化を、ワクチンなどを含めた新しい治療法の開発や既存の治療法の改良、さらには病原菌の根絶を目標とする生物製剤や医薬品の開発に利用していくことを目標としています。

微小重力下でのワクチン開発研究の基礎を築いた初期の研究は、サルモネラ菌の微小重力に対する反応を理解するためにNASA が資金を出し、1998 年にニッカーソン博士によって始まりました。これは、このチームが宇宙での微小重力と地上での疑似微小重力環境で成長したサルモネラ菌について行った最初のもので、後に様々な研究に発展しました。

スペースシャトル「ディスカバリー号」の中央デッキで MRSA の実験を行うジョン・フィリップス宇宙飛行士(STS-119ミッション)(出典:NASA)

スペースシャトル「ディスカバリー号」の中央デッキで MRSA の実験を行うジョン・フィリップス宇宙飛行士(STS-119ミッション)(出典:NASA)

その後、スペースシャトルで行われた実験では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) およびその他の微生物の毒性を調べました。MRSAは、特定のβラクタム系抗生物質に対して耐性 を示すブドウ球菌の一種です。このような抗生物質には、メチシリン、ペニシリン、アモキシリンなどがあります。より深刻な、場合によっては生命を脅かす恐れのあるMRSA 感染は医療現場 の患者の間で最も頻繁に発生しています。MRSAは、一般の人よりも感染リスクが高い傷をおっている患者や侵襲性器具を利用する患者、免疫系の弱まった患者がいる病院では特に厄介です。

宇宙でのサルモネラ菌とMRSA 菌の研究は、米国が国際宇宙ステーションを商業的研究開発に用いることが出来ることを示す、米国立共同研究施設先導プログラム(National Lab)の一環で す。この先駆的な研究のアプローチでは、一連の宇宙実験において、宇宙で毒性を増加させる有 機体の構成物質を識別し、この情報を使ってワクチンなどの抗菌治療法の標的物質を特定します。菌の成長と毒性に関わる要因が見つかれば、ワクチンなどの新しい治療法の開発に役立ちます。実際に、営利企業である Astrogenetix 社の宇宙でのサルモネラ菌研究の結果、この病原菌のワクチン候補が見つかり、現在、審査および商業開発の計画段階にあります。

培養した人の細胞に侵入するサルモネラ菌の例(出典:Rocky Mountain Laboratories)、NIAID、NIH)

培養した人の細胞に侵入するサルモネラ菌の例(出典:Rocky Mountain Laboratories)、NIAID、NIH)

さらに最近では、ニッカーソン博士とロイ・カーチスIII 世医学博士が率いるアリゾナ州立大学の2 つのチームが、共同でワクチンのサンプルをスペースシャトル(STS-135)に載せて国際宇宙ステーションに打ち上げました。この研究では、肺炎、髄膜炎、菌血症などの生命を脅かす病気を引き起こす細菌である肺炎連鎖球菌に対する既存のワクチンを改良しようとしています。この菌は年間1,000 万人以上の死亡の原因で、注射によって投与されている従来の抗肺炎球菌ワクチンに対する反応が低い新生児や高齢者にとっては特に危険な菌です。組換え体減衰サルモネラワクチン(Recombinant Attenuated Salmonella Vaccine: RASV)の名前で知られる経口ワクチンは現在臨床試験中で、アリゾナ州立大学の研究チームは、防御免疫反応を引き起こす能力を最大化してこのワクチンの抗肺炎球菌効果を高めようとしています。ニッカーソン博士は、「我々は、世界中に壊滅的な影響を与える病気を撲滅する可能性のある新しい治療法を研究開発するために、他に類例のない場として宇宙飛行を利用する機会を得ました。」と述べています。国際宇宙ステーションに送られたのは、肺炎連鎖球菌に対する防御抗原を運ぶサルモネラ菌の遺伝子組換え種でした。

この研究で分かった標的分子群は、一般市民の、感染を防ぐ種や、組換え体減衰サルモネラワクチン(RASV)への移行を期待させるものです。さらに、RASV は多様な病原菌に対して生成できるので、この研究の成果は肺炎の他にも多くの病気に対するワクチンの開発に貢献します。

この宇宙を拠点とした研究は、国際宇宙ステーションが国立共同研究施設(National Laboratory)として、地球の利益のために利用できる貴重な資源であることを示しています。 MRSA およびサルモネラ菌感染の治療の標的分子の発見は、微小重力環境を使用して新しい医薬 品を開発する試みの例であり、組立完了が近づくにつれて国際宇宙ステーションを新薬発見の場として利用するこのような機会は増えるでしょう。これらの結果は、微小重力によって期待される将来の発見のほんの一部にすぎません。これらの研究に携わる科学者たちは、継続的な一連の実験を国際宇宙ステーションで実施することを計画しており、効率的な実験機会提供によって様々な救命ワクチンの進歩を加速させることができます。


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