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国際宇宙ステーション(ISS)

「きぼう」での高品質タンパク質結晶生成実験

正木 美佳
JAXA宇宙環境利用センター

広大な宇宙と私たちの体を形作るタンパク質は一見無関係にみえますが、「結晶」がこの2 つをつなぐ鍵となります。タンパク質は立体的で複雑な構造をしていて、構造によってそれぞれのタンパク質の機能が決まります。この構造を研究するためにうってつけの環境が宇宙の微小重力環境です。国際宇宙ステーション計画に基づく日本の最近の研究により、今後、疾病治療に有効な医薬品が開発される可能性があります。

宇宙では、溶液を密度の違いによって上下左右に流れさせる対流や、重いものを沈下させる沈降がありません。このため、タンパク質の分子が規則正しく並び、タンパク質の構造を研究するために役立つ高品質な結晶が生成されます。今までに、宇宙という特殊な環境でさまざまな結晶が生成されてきました。

セルユニット

図1 セルユニット
セルユニット内には最大144 種類のタンパク質試料を搭載できます。宇宙ステーションに搭載されたタンパク質結晶生成装置(PCRF)に設置されて温度コントロールされます。(©JAXA)


タンパク質結晶生成装置(PCRF)

図2 タンパク質結晶生成装置
タンパク質結晶生成装置(PCRF)は、タンパク質結晶生成実験に使用される実験装置で、温度を管理して、内部に6 個のセルユニットを設置できるようになっています。(©JAXA)

宇宙航空研究開発機構(JAXA: Japan Aerospace Exploration Agency)では、国際宇宙ステーションのロシアのサービスモジュールを利用して、2003 年から計9 回のタンパク質結晶生成実験を行い、宇宙で高品質なタンパク質結晶を生成する技術の開発を進めてきました。この技術に基づいて、「きぼう」日本実験棟で2009 年7 月から6 回の計画で実験が開始されました。ロシア連邦宇宙局(Federal Space Agency of Russia)の協力のもと、セルユニット(図1)に入れたタンパク質試料がプログレス補給船に搭載されて宇宙ステーションに打ち上げられました。ドッキング後すぐに試料は「きぼう」に持ち込まれて、タンパク質結晶生成装置(PCRF)に設置され、20℃の安定した温度条件下で約1.5 ~ 4 ヶ月の期間、結晶生成が行われます(図2)。結晶生成には、液液拡散法の一つであるカウンターディフュージョン法が使用されます。この方法では、ポリエチレングリコール(PEG)や塩などの結晶化溶液と、ガラスキャピラリーの中に充填されているタンパク質溶液がゲルを通して徐々に拡散し、タンパク質溶液内の結晶化溶液が徐々に凝縮して、最終的にタンパク質結晶生成の条件を満たします(図3)。

JAXA Crystallization Box(JCB)


図3 JAXA 結晶生成セル(JCB)
内部に12 種類のタンパク質溶液を充填できる「JCB:JAXA Crystallization Box」と呼ばれる結晶生成セルは、シンプルで経済的な結晶生成ツールです。このセルを使えば、宇宙飛行士の軌道上での操作はごくわずかで済むため、宇宙実験に適しています。(©JAXA)


タンパク質結晶生成実験の主な目的の1 つは新しい医薬品の開発に貢献することです。疾病の 原因となるタンパク質とそれらを抑える医薬品との関係は、「鍵」と「鍵穴」の関係に例えられます。タンパク質の構造を調べることによって鍵穴の形状がわかれば、そこにぴったりと結合する鍵、つまり治療に適合した副作用の少ない医薬品を設計することができます(図4)。JAXA では宇宙実験を通して、難病とされている病気に対しても積極的に研究を進め、医薬品開発に貢献することを目指しています。

図4 宇宙実験のメリット
疾病の原因となるタンパク質の構造(鍵穴)は、地上で結晶を生成した場合には形状がはっきりしないため、鍵、つまり、治療用の薬剤候補化合物の形状を判別できません。しかし、宇宙実験によって疾病の原因となるタンパク質の構造を見つけることができ、治療に適した薬剤(鍵穴に合う鍵)を開発することができます。(©JAXA)


宇宙で結晶生成に成功したタンパク質のひとつは、造血器型プロスタグランジン(PG)D 合成酵素(H-PGDS)です。H-PGDS は、マスト細胞、抗原提示細胞およびTh2 リンパ球で、炎症反応やアレルギーの原因となるPGD2 の産生を触媒する酵素です。近年、大阪バイオサイエンス研究所(OBI:Osaka Bioscience Institute)の研究チームが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD:Duchenne muscular dystrophy)患者の壊死した筋繊維にH-PGDS が増加していることを報告しました。DMD は筋萎縮を引き起こし、筋力低下の進行を早める遺伝性筋疾患で、様々な筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、人種に関係なく約3500 人に1 人の男児に発症しています。現在までに根本的な治療法がまだ見つかっていない難病のため、H-PGDS の阻害剤が筋ジストロフィーに有効な薬剤になると期待されています。

OBI の研究チームは、H-PGDS とそのプロトタイプの阻害薬の複合体の結晶化を宇宙で行うことで、活性部位の詳細な立体構造を明らかにしました。さらに、より効果的な阻害薬を開発するために微小重力環境で複数回結晶化を行い、X 線を使用した回折実験の結果、H-PGDS 阻害薬複合体の高品質な結晶において1.0 ~ 1.5Å の高分解能で構造データを取得することに成功し、プロトタイプよりも数百倍強力な阻害薬を発見しました(図5)。現在は動物による有効性や毒性の評価を実施し、実用に向けて研究が進められています(図6)。

タンパク質はヒトの体の中だけでも10 万種類以上、自然界には約100 億種類も存在しています。それぞれ異なった構造には、私たちの健康や地球環境に関わる重要な情報が含まれています。タンパク質の構造を解明するために、宇宙は生物医学研究の最新の場として活用され、地上で行うことがきわめて困難な実験を行っています。国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟では、高品質なタンパク質の結晶を生成するさまざまな実験によって、新たな可能性の扉を開いています。タンパク質の構造の解明は生命のメカニズムを理解するために役立ちます。

図5 H-PGDS 阻害薬複合体
宇宙実験によって、筋ジストロフィー関連のタンパク質の詳細な構造が明らかになりました。(© 大阪バイオサイエンス研究所/丸和栄養食品)



図6 筋ジストロフィーの治療のイメージ
有効な薬剤候補化合物によって、筋ジストロフィーの進行を抑えられます。
(© 大阪バイオサイエンス研究所)


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