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実験の背景


自動車や飛行機など多くの乗り物の燃料として液体燃料が利用されています。 それらのエンジンでは、ノズルから燃料を噴射して霧状にし(噴霧)、微粒化された液滴の燃焼により発生する熱エネルギーが乗り物を動かす動力になります。このような燃焼方式を噴霧燃焼と言います。

噴霧された液体燃料が連続的に安定して燃焼するためには、燃えている液滴(燃焼液滴)から燃えていない液滴(未燃液滴)への火炎の“燃え広がり”および噴霧液滴全体が燃焼する“群燃焼”という過程が必要です(図1)。 しかし、液滴間の火炎の“燃え広がり”を経て“群燃焼”が起こるメカニズムについては十分解明が進んでいません。エンジンの開発においては燃焼過程の数値シミュレーションが重要度を増しつつありますが、液滴間の火炎の燃え広がりや群燃焼の発生過程を適切に 取扱うことのできるモデルの構築が求められています。


実験の目的


燃料液滴の燃焼メカニズムについては、これまでも地上での短時間微小重力実験等により調べられてきました。 1個の液滴(単一液滴)の燃焼実験で得られた知見を基に、液滴列のように少数の液滴が隣接して燃焼する場合の燃焼メカニズムの解明も進んできました。

今回の宇宙実験では、数個の液滴を平面上に配置した液滴群(少数液滴群)、さらに100個以上の液滴を配置したランダム分散液滴群の燃焼過程を詳しく調べ、液滴間の火炎の燃え広がりと群燃焼が起こるメカニズムを解明することを目的としています(図2)。

微小重力環境で燃焼実験を行う最大のメリットは、自然対流が起きないことです。高温の火炎と空気との温度差のため、地上の通常重力環境では強い自然対流の発生が避けられません。自然対流が起きない微小重力環境では、火炎に大きな影響を及ぼす対流がなくなり、燃焼という現象そのものに注目して詳細に観察することができます(図3)。



実験内容


液滴間の燃え広がりが起こる距離には限界があり、燃え広がり限界距離は干渉し合いながら燃焼している複数液滴の影響を受けて変化し、燃え広がり方向により変化すると予想されています。 地上で行った燃焼実験では、図4のように配置した少数液滴群を燃やし、燃え広がっていく様子(図5)を観察しました。 その結果、直前の液滴からの距離が同じでも、Y軸方向の液滴がX軸方向の液滴より先に着火することが分かりました。

宇宙実験では、少数液滴群の燃え広がり限界距離の方向による変化を詳しく調べたうえで、燃え広がりに関する法則を100個以上の多数の液滴から構成されるランダム分散液滴群でも検証します。図6にはランダム分散液滴群の生成パターンの例を示しています。極細(直径約14μm)のSiCファイバを4mm間隔で縦横30本張り、その交点に燃料液滴(デカン)を生成した後、端の液滴を着火させて火炎の燃え広がり挙動を観察します。



ココがポイント!


本実験は、「きぼう」で行われるはじめての燃焼実験です。 この実験によって、これまでの短時間微小重力実験で得られた少数液滴燃焼に関する知見と液滴群燃焼を理論的に結び付けることができると考えられています。 また、群燃焼の発生メカニズムが解明されることにより、噴霧燃焼の数値シミュレーションの高度化が可能となるため、高効率で環境にやさしいエンジンの開発にも大きく寄与するものと期待されています。


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