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実験の背景


植物が陸上の1 gの重力の下で生きていくためには、重力に耐える体を作る必要があります。水の中で誕生した植物は、陸上へ進出した際に、このような体を作るしくみを進化させました。こうした、「重力に耐える体を作る」という反応は古くから知られていましたが、呼び名もなく、その性質やしくみは調べられていませんでした。そこで、私たちは、この反応を「抗重力」(gravity resistance)と名づけ、その性質やしくみを過重力(1 gより大きな重力)環境での植物の反応を調べることで解析してきました。その結果、重力の大きさの対数に応じて、茎を太く短くすることが植物の重力に対抗するしくみのひとつであることがわかりました(図1)。

茎の形態は、茎を作る細胞の形によって決まります。また、細胞の形は、細胞膜直下に存在する植物固有の構造である表層微小管の向きによって決まります(図2)。 さらに、表層微小管の向きは、微小管結合タンパク質の働きによって調節されています。過重力環境で育てた植物の表層微小管を調べたところ、重力が大きくなるにつれて、縦向きの表層微小管を持つ細胞が増えることがわかりました(図1)。また、この表層微小管の変化は、MAP65などの微小管結合タンパク質の量が変わることによって起こっていることが明らかになりました。つまり、過重力環境では、微小管結合タンパク質の働きによって、表層微小管が縦向きになり、その結果、細胞が横方向に成長することによって、茎が太く短くなり、重力の力に対抗していることがわかりました。

写真:リゾチーム結晶

図1 過重力環境で育てたアズキ芽ばえのようす

写真:リゾチーム結晶

図2 表層微小管の向きと細胞の成長方向

実験の目的


植物が重力に耐える体を作るしくみを調べるためには、植物を育てる環境の重力の大きさを変えて、その時の反応を調べることが大事です。そのため、私たちは、遠心分離機を使って、1 gより大きな重力環境である過重力環境を作り、過重力環境での植物の反応を解析してきました。その結果、植物は、過重力環境では、表層微小管を縦向きにすることにより、茎を太く短くし、重力の力に対抗していることがわかりました。しかし、過重力環境は植物にとってあくまで人工的な重力環境なので、宇宙の微小重力環境での植物の体作りを調べることができて初めて、植物が重力に耐える体を作るしくみの全容が明らかになります。この実験の目的は、宇宙で育てた植物の体作りを、植物の細胞が伸びる方向を決める「表層微小管」に注目して調べることによって、植物が重力に耐える体を作るしくみを明らかにすることです。

実験内容


地上での過重力の実験では、おもにアズキを用いていましたが、この宇宙実験ではシロイヌナズナを用います。シロイヌナズナは、非常に小さく、栽培した容器のままで、直接、顕微鏡観察を行うことができます。また、シロイヌナズナでは、遺伝子組換えを比較的容易に行うことができるので、観察したいものに蛍光タンパク質を融合させ、目印を付けることができます。この実験では、表層微小管を構成するチューブリンや微小管結合タンパク質に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合させた遺伝子組換えシロイヌナズナを用います。アズキが宇宙でどのように育つかは、曽我先生も関わっているアジアの種子2013実験で調べられます。

シロイヌナズナの種子を、地上で容器に植え、種子島から「こうのとり」で「きぼう」船内に運びます。種子に水を与えて、4日間冷蔵保存し、発芽の準備をさせた後に、3日間育てます(図3)。胚軸(茎)の細胞と表層微小管の写真を蛍光顕微鏡を用いて撮ります(図4)。顕微鏡写真は、プログラムに従って自動的に撮られた後、地上に送られてきます。地上の1 gや過重力の下で育てたシロイヌナズナの細胞の形や表層微小管の様子と比較することで、植物が重力に耐える体を作るしくみを調べます。この宇宙実験では、コストのかかる植物の地上への回収は行わず、宇宙で撮影した顕微鏡写真のみを取得します。

写真:リゾチーム結晶

図3 顕微鏡観察容器内で育てたシロイヌナズナの芽ばえ

写真:リゾチーム結晶

図4 顕微鏡観察容器と「きぼう」船内の蛍光顕微鏡

ココがポイント!


重力に対抗する体を作る反応である抗重力反応は、植物の祖先が水の中から陸に上がって以来、数億年におよぶ陸上植物としての進化と繁栄を支えてきたと考えられています。この実験は、植物の非常に重要な重力反応である抗重力反応のしくみを宇宙の微小重力環境を利用して、解明しようとするものです。抗重力反応のしくみがわかれば、そのしくみを利用して植物の形をコントロールすることができ、地球上での植物の効率的な生産が可能になると期待されています。さらに、将来の宇宙における植物栽培にも大いに役立つと思われます。


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