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最終更新日:2012年11月21日

実験の背景


ヒトの筋肉や骨は、負荷をかけていないとどんどん小さくなり、次第に機能しなくなる“萎縮”という現象が起きることが知られています。これは、重力負荷がない宇宙に長期間滞在する宇宙飛行士の、大きな問題のひとつとなっています。例えば、6か月の国際宇宙ステーション(ISS)滞在で、腓腹筋(ひふくきん:ふくらはぎ部分の筋肉)やヒラメ筋(ふくらはぎの奥の筋肉)では、32%も萎縮するという事例報告があります。


志波直人先生の研究グループは、小型の装置で簡易に効率よく、筋肉や骨を維持するための「ハイブリッドトレーニング」を開発しました。これは、例えば、肘を伸ばす運動を行う際に、同時に肘を曲げるための反対の筋肉側に電気刺激を加え、伸ばす運動の抵抗にする、という原理のコンパクトな装置です。曲げる運動ではこの逆となります(図1, 2)。

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図1:ハイブリッドトレーニング原理。肘を伸ばす際の例。肘を曲げる時はこの逆になる。

 

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図2a:ハイブリッドトレーニング用電気刺激装置

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図2b:ハイブリッドトレーニング上肢用サポータ


筋肉が縮みながら長さが短くなる状態を求心性収縮(物を持ち上げるときに働く筋肉の状態)、縮む筋肉が重力や外からの力で引き伸ばされる状態を遠心性収縮(物をゆっくり下ろす時に働く筋肉の状態)、さらに筋肉が収縮して一定の姿勢を保つ状態を等尺性収縮(物を持ち上げた状態を保つときに働く筋肉の状態)と言います。


電気刺激による筋収縮のなかでは、等尺性や求心性に比べて、遠心性では30%から50%ほど大きな力を発生します。ハイブリッドトレーニングでは、その電気刺激による遠心性収縮を用いているので、従来の電気刺激による等尺性や求心性収縮を用いたトレーニング法に比べると、同じ電気刺激でより大きな力を利用でき、効果が大きいと言えます。そのため、電気刺激の強さを低くすることができ、電気刺激による不快感や痛みを低く抑えることができます。


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ハイブリッドトレーニングについては、これまで、さまざまな地上実験、臨床実験が実施されています。例えば、人工膝関節手術後の早い段階からハイブリッドトレーニングを行い、安全に術後の筋萎縮を抑え、筋力増強効果を得た結果があります(図3)。

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図3a:人工膝関節手術後約10日目から開始

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図3b:膝関節のハイブリッドトレーニング効果。膝関節伸展筋力(膝を伸ばす力)は、これまでのリハビリテーションの内容のControl群では手術後6週目で低下しましたが、ハイブリッドトレーニングを用いたHybrid群では低下を抑えることができました。膝関節屈曲筋力(膝を曲げる力)は、Control群で低下傾向でしたが、Hybrid群で6週目に18.7%増加し、3か月目でさらに増加していました。


これまでの地上での実験結果から、長期宇宙滞在の宇宙飛行士に対して実施すれば、効率のよい筋力や筋量維持が期待できます。また、小型なので、普段使われているISS内の大きな運動装置(図4)の故障時のバックアップや、月や火星など、将来の小型宇宙船でも、有用な装置となると考えています。

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図4:これまでスペースシャトルやISSで使用されたトレーニング用の装置。

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