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成果


1. 宇宙放射線によるDNAの損傷を見る

図1 DSBの可視化。a, 宇宙飛行試料;b, 地上試料;c,赤枠の拡大図;d, X線照射;e, 鉄線照射。

これまでヒトの生きた細胞では宇宙放射線によって生じる遺伝子の傷を見ることができませんでした。私達は、重粒子線(重い粒子の放射線)によるヒト培養細胞のDNA二本鎖切断(DSB)の可視化に地上で成功していました(図1e)。X線は散乱状(d)の点となりますが、重粒子線は連続的な飛跡のような点を残します(e)。地上対照実験ではほとんど点は観察されませんでした(b)が、宇宙実験をした細胞では飛跡状の点が観察されました(aとc)。世界で初めて、ヒトの生きた細胞で宇宙放射線が起こしたDNA二本鎖切断を可視化できました。なお、DNA二本鎖切断の生成頻度から計算した133日間の宇宙飛行での宇宙放射線による被ばく線量は約94.5mSv(ミリシーベルト)、つまり、1日あたり約0.7mSvでした。

2. 無重力が宇宙放射線による遺伝子の働きに相乗的に影響

宇宙飛行させたラットの筋肉・皮膚にP53タンパク質が蓄積されることがこれまでに分かっていました。今回、宇宙で培養された細胞を地上に回収した後、宇宙の無重力環境で培養した細胞、人工重力下で培養した細胞、そして地上で培養した細胞をそれぞれ比較し、p53遺伝子に関係していて、かつ環境の違いで現れ方の差が大きい遺伝子を調べました(図2)。その結果、宇宙放射線による効果に、無重力環境による効果が相乗的に加わって働く量が増えた遺伝子が実に209もあることがわかりました。


図2 宇宙空間で培養された細胞でp53依存的に発現誘導された遺伝子群。図中の数は誘導された遺伝子数を、英語名は最近報告された遺伝子名を示す。

3. p53依存的に宇宙空間で増減したタンパク質

宇宙空間で9日間培養されたタンパク質の合成された量を測定し、p53の有無に影響を受けて、宇宙放射線、無重力、宇宙環境によって増加あるいは減少するタンパク質を明らかにしました。これは世界で初めての報告です。

4. 細胞は宇宙放射線に適応する

あらかじめ少ない線量の放射線を被ばくしていると次にくる大きな線量の急激な放射線による影響が軽減されるという放射線適応応答が地上では知られています。凍結状態で宇宙飛行させた細胞を帰還後に培養し、さらにX線を急照射したところ、宇宙放射線の被ばくによって、急照射された放射線の影響が抑えられることがわかりました(図3)。このことから、ISS船内での被ばく量は、地上で放射線適応応答が見られた低線量の範囲であったことを細胞で生物学的に証明しました。

これらの実験により、宇宙放射線環境を生物細胞を用いて測定する技術を確立するとともに、宇宙環境におけるp53がん抑制遺伝子の働きを明らかにしました。

図3 放射線適応応答: 地上回収後2GyのX線を照射し、培養後にその放射線影響を測定した。矢印は宇宙飛行すれば抑制されることを表す。*は顕著差を示す。


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