サイトマップ

宇宙実験サクッと解説:氷の結晶成長実験編

【第1回】これはどんな実験ですか?


宇宙実験調査団のピカルが氷の実験を大調査!

実験提案者の北海道大学古川義純教授とも
仲良しの物知りハカセに突撃取材です。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ハカセ、早速ですが、これは雪の実験なんですよね?雪の結晶ってどうして六角形なんですか?

ハカセ:

待て待て、あわてるでない。 一つずつ片付けよう。 まず、雪と氷は似たようなものなのじゃ。 雪は、水の蒸気が空気中で凍った結晶であり、氷は水の分子が水中でそのまま凍った結晶なんじゃ。 つまり、どっちも水の結晶じゃな。 今回の実験では、水を満たした容器の中で氷の結晶を育てていくので、雪の実験ではなくて、氷の実験ということになるんじゃな。

ピカル:

なるほど、氷の結晶も六角形なんですか?

ハカセ:

うん、これは単純ながらいい質問であるぞ。 雪も氷も、ゆっくりと成長させると六角形(6方向対称)になるんじゃ。 結晶というのは、分子が規則正しく並んでくっついたものなんじゃが、水の分子は六角に並ぶときが一番安定で落ち着くんじゃの。



水分子が結合している様子(模式図)

実際にどのような形の結晶になるかは、結晶が成長するときの温度や、どの成長方向の結合が強いかなんかによって決まるので簡単ではないんじゃが、水の場合は、分子が六角形に結合するという性質が一番の理由じゃ。 つまり、結晶の形というのは分子の形や性質、そして成長するときの条件によって決まるものなんじゃ。

ピカル:

でもハカセ、うちの冷凍庫の中の氷は六角形じゃなくて、いつも製氷器の形になってますよ。

ハカセ:

君はなかなか鋭いのう。 残念ながら、製氷器の場合は、最初からかなり温度が低いため、一気にあっちこっちから凍ってしまうんじゃ。 製氷器のあっちこっちからばらばらに凍り始めた氷が最後は全部合体してしまうために、結晶の形が分かりにくくなってしまうんじゃ。 じゃが、この写真をみてごらん。



樹枝状結晶の写真

ピカル:

あっ、雪の結晶みたい! きれいですね。

ハカセ:

じゃろう(自慢げ)。 これは、今回の実験で使う容器で作った氷の結晶なのじゃ。 木の枝みたいに見えるんで、樹枝状結晶と呼ぶ。

ピカル:

へえー、すごいなあ。 これがどんなふうに成長するかを宇宙で調べるんですか?

ハカセ:

うむ、実は、樹枝状結晶がどんな条件でどんな風に成長するかはかなり分かっておるんじゃ。 宇宙実験だって行われておるしな。 今回やりたいのは、6本に分かれるきっかけを調べることなんじゃよ。

ピカル:

えっ・・・ということは、六角形は最初から六角形じゃないってことですか? 最初はどんな形なんですか?

ハカセ:

最初はなあ、円盤みたいな形なんじゃ。 この写真をみてごらん。



円盤状結晶の写真

ピカル:

丸いですね。 これが氷の結晶の最初の姿?

ハカセ:

そうじゃよ。 水の温度をぎりぎりまで上げて結晶をうんとゆっくり育てると、この円盤状結晶が見えるサイズまで大きくなる。 この円盤状の結晶がどういう厚みや直径になったときに六角形に分かれていくのか、それを詳しく調べたいんじゃ。 そのときの円盤の周りの温度も詳しく調べたい。 そうすれば今まで誰も分からなかった、「六角形になるきっかけ」が分かるんじゃ。

ピカル:

そうだったんですか! 誰も調べたことがないってことは、これは地上では調べられないんですか?

ハカセ:

うむ、君、マランゴニ実験の突撃取材で河村先生にお会いしたとき、地上だと熱い水は軽いので浮いて、冷たい水は重いので沈むってのを習っただろ?

ピカル:

あ、はい。それで地上だと対流が起きるって。 (詳しくはこちら→宇宙実験サクッと解説:マランゴニ対流編

ハカセ:

そうじゃ。 地上だと対流が起こるために、結晶の周りの、温度の異なる水が変なふうに混ざることになる。 ところが宇宙では混ざらないので、結晶の周りの温度を正確に測ることができる。 ま、そういうことじゃ。

ピカル:

ハカセ、待ってください。 氷を成長させる容器の中に、温度の差があるんですか?

ハカセ:

おっと、これは失礼した。 君はなかなか目のつけ所がいいのう。 実は、氷が成長するときは熱がでるんじゃ。 この熱のために温度差が生じてしまう。 これは「潜熱(せんねつ)」とか「凝固熱」とかいわれちょる。

ピカル:

えーっ? 凍るときに熱くなるなんて変ですよ。

ハカセ:

まあ待ちなされ。 液体の水ってのは、水分子たちがのんびり遊びまわっているような状態のことだ。 ときどき手をつないだりもするがね。 これが、結晶、つまり固体になるのはどういうことかっていうと、水分子たちが「気をつけ」をしてきっちり整列している状態だ。




ピカル:

う〜ん。

ハカセ:

液体中の水分子の方が、固体中の水分子よりも元気、つまりエネルギーを多く持っておる。 つまり、「気をつけ」をするためには、その余分なエネルギーを吐き出してしまわなければならんことになる。 この吐き出すエネルギーが潜熱なのじゃ。

ピカル:

なんとなくイメージがわいてきました。

ハカセ:

つまり、結晶が成長するときに出る熱によって温度差が出来て、地上では対流が起こる。 そして、対流のせいで、円盤の形をした結晶から枝が出始めて、六角形になるときの結晶周辺の温度を正確に調べることができない。 だから宇宙で、対流のない条件できちんと実験したい、ということなんじゃ。(注1)

ピカル:

宇宙は理想的な環境だから、そこで世界初の実験をして真理を明らかにしようってことですね。

ハカセ:

そうじゃ。 そのとおりじゃ。 君はなかなか飲み込みが早いわい。

ピカル:

ところでハカセ、氷の結晶成長の仕組みが分かると、どんなことに役に立ちますか?

ハカセ:

うむ、何と言っても水は地球上にたくさん存在する生命の源じゃな。 だから、その大切な水という物質について、とことん調べるのがわしらのやりたいことじゃ。 で、氷の結晶成長の研究が何の役に立つかじゃが、これは意外なところでわしらの生活に関係があるんじゃ。 君は冷凍食品を買ったりするだろ? 凍らせ方によって食品のおいしさや品質が全く変わることは知っておるか? これは食品の中の氷の出来具合が違うからじゃ。 あと、臓器移植のための臓器の保存なんかにも冷凍技術は重要じゃ。 いずれも、氷の結晶成長の知識があればいろいろな場面で役に立つ。

ピカル:

なるほど!

ハカセ:

それだけじゃないぞ。 君は深海の地層中に存在する、クラスレート・ハイドレートってのを知っておるかね?

ピカル:

いいえ、初耳です。

ハカセ:

水分子でできた結晶の中にガスが入っているもので、メタンやら二酸化炭素やらが含まれておる。 最近話題になっている温室効果ガスである反面、未来のエネルギー源とも言われておる。 氷の結晶成長を調べることで、クラスレート・ハイドレートのできる仕組みを理解することにもゆくゆくは役に立つんじゃ。 それから、南極や北極で海氷が出来ると、地球規模で海水の流れが変化して、気候変動などを引き起こしているともいわれておる。 氷の結晶成長は地球の未来を握っておると言っても過言ではないのじゃ。

ピカル:

スケールの大きな話になってきましたね。 宇宙での実験がますます楽しみになってきました。 今日はどうもありがとうございました!

注1

実は、今回の実験で用いる試料は、普通の水H2Oではなく、「重水」というものです。 重水は、水分子を構成する水素の中性子が1つ多く、化学式はD2Oと書きます。 重水の場合、密度は12℃で最大となるため、3℃くらいの溶液中で潜熱が放出されると密度は増加します(一般的な物質の密度は、温度が上昇すると小さくなるので、通常とは逆の現象です)。 そのため、地上では潜熱により、容器の下のほうに熱い重い水がたまることになります。 なお、重水を用いる理由は、融点が3.82℃と水に比べて高いので、冷却水がそれほど冷えていなくても結晶化しやすいこと、観測したい3〜4℃付近での屈折率変化が大きいことが挙げられます。


第2回の解説は「干渉計って何?」です。

文責:

氷結晶成長実験コーディネーター

吉崎 泉 (よしざき いずみ)
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 ISS科学プロジェクト室
主任研究員


Ice Crystal トップページへ | 「きぼう」での実験ページへ | ISS科学プロジェクト室ページへ

 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency サイトポリシー・利用規約  ヘルプ