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「きぼう」での実験

新奇機能性非平衡酸化物創製に向けた高温酸化物融体のフラジリティーの起源の解明

The origin of fragility in high-temperature oxide liquids - towards fabrication of novel non-equilibrium oxide materials:Fragility
最終更新日:2018年11月 8日

実験の背景

高温液体の性質(物性)、特に「構造」と「粘性」の相関や、フラジリティー(ガラスへのなりやすさの指標)は、例えば、地震/火山噴火の予測につながるマグマの構造・物性研究への波及など極めて重要なテーマです。しかし、高温での測定が非常に困難であることから、ほとんど明らかにされていません。

実験の目的

本実験は、「きぼう」日本実験棟の静電浮遊炉を用いて、高温液体、とりわけ、波及効果が高く、かつ、静電浮遊炉でしか測定できない酸化物の物性(特に粘性と密度)を精密測定することを目的とします。この測定結果と高輝度放射光・高強度パルス中性子で測定する構造データを計算機シミュレーションで解析し、データ科学の援用により、新しい学理創製、新奇ガラス材料などの非平衡材料創製へのフィードバックを目標とします。

計画全体の概要

計画全体の概要

宇宙実験

静電浮遊炉を取り付ける様子
宇宙飛行士が「きぼう」日本実験棟の多目的実験ラック2号機に静電浮遊炉を取り付ける様子
本実験で使用する静電浮遊炉(ELF)は実験試料を容器に入れずに溶解・凝固させることができる装置です。右図の装置で実験試料を静電気の原理を使い浮遊させ、金属から非金属まで幅広い物質にレーザーを使い、最大3000℃まで加熱し溶解させます。

宇宙空間で実験をする

「きぼう」での実験の概要

「きぼう」での実験の概要

宇宙で実験をする理由
地上と宇宙

本実験テーマでは、酸化物融体の密度と粘度を融点以上の高温から深い過冷却に至るまで幅広い温度範囲で高精度に取得します。
地上で材料を作るには、まず材料の物質をるつぼと呼ばれる容器に入れ、るつぼごと加熱して融かし、冷やして固めます。しかし、2,000℃を超えるような高温で物質を融かそうとすると、融体となった材料とるつぼの材料が反応し、るつぼから溶けた物質が不純物として混ざってしまいます。
一方、宇宙では容易に液体を浮かせることが可能なので、容器を用いる必要がありません。そのため、容器からの汚染のない無容器状態で物質の性質を測定できます。容器と接触しないため、高温まで加熱しても不純物の混入を防げる他、核発生が抑制された過冷却状態をつくることができます。
静電浮遊炉を使用すれば、帯電しやすい材料(金属、合金など)であれば、地上でも浮かせることが可能です。しかし、酸化物や半導体などは帯電しにくく、地上で浮かせることは困難なため、宇宙で実験をする必要があります。

地上で実験する

地上からの遠隔操作

地上からの実験実施

地上から静電浮遊炉の実験を実施する様子

「きぼう」日本実験棟での実験は、試料ホルダの交換などの作業は宇宙飛行士が行いますが、その後の静電浮遊炉の起動や試料の浮遊・位置制御、レーザーによる加熱などの操作は筑波宇宙センターにある運用管制室から遠隔で実施します。
「きぼう」日本実験棟からは人工衛星を使った通信回線を経由して、リアルタイムで画像やデータが送信されてきます。地上でこれらのデータを見ながら、実験がうまく行くように静電浮遊炉を遠隔操作します。

比較実験

本実験テーマでは、「きぼう」日本実験棟での宇宙実験だけでなく、地上の大型実験施設を利用した実験も実施します。兵庫県にある大型放射光施設SPring-8でX線回折実験を、米国オークリッジ国立研究所では中性子回折実験を行い、液体及びその液体を固化させたガラスの構造データを取得します。


画像提供:理化学研究所

画像提供:高輝度光科学研究センター
尾原 幸治氏

画像提供:物質・材料研究機構
小原 真司氏

解析

解析データの例

放射光 X線回折実験及びMD(Molecular Dynamics:分子動力学)シミュレーションから得られた、ガラスになる物質であるシリカ(SiO2)液体(黒線)とガラスにならないジルコニア(ZrO2)液体(赤線)の密度ゆらぎ部分構造因子SNN(Q)を示します。
ガラスになるシリカ液体には液体であってもガラスに類似した秩序が存在することを示す鋭いピークQ1に加えて、Q2 、Q3の3つのピークが存在することがわかります。
一方で、ガラスにならないジルコニア液体にはQ1は観測されず、シリカ液体のような強い化学結合は存在しないと予想されております。
今後、放射光・中性子を用いた実験および計算機実験よりISSで測定した密度・粘性といった物性の理解が深まると期待されております。

ここがポイント!

将来の応用のために

成果の活用、目指すビジョン

機能性酸化物ガラスの創製
窓ガラスやファイバーなど人類の日常生活に不可欠になりつつある酸化物ガラスの新奇創製につながる重要な物性データを取得します。

地球科学への貢献
地球内部の高温・高圧下の珪酸塩酸化物マグマの性質を明らかにし、地球誕生のメカニズムの解明に貢献します。

代表研究者コメント
この研究は国際宇宙ステーションISSの静電浮遊炉(ELF)や、地上の最先端の大型実験施設、さらにはスーパーコンピューターを利用し、多くの研究者が力を合わせて初めて成し遂げられるものです。超高温の液体やマグマには未だにわからない謎が多く、なぜガラスができるかに対する明確な答えも出ていません。この研究プロジェクトによりその謎が1つでも解ければ、基礎科学の大きな進歩につながると考えています。

参考資料

参考文献

  1. S. Kohara, K. Ohara, T. Ishikawa, H. Tamaru and R. Weber, Investigation of structure and dynamics in disordered materials using containerless techniques with in-situ quantum beam and thermophysical property measurements, Quantum Beam Sci., 2, 5-23 (2018).
  2. S. Kohara, J. Akola, L. Patrikeev, M. Ropo, K. Ohara, M. Itou, A. Fujiwara, J. Yahiro, J. T. Okada, T. Ishikawa, A. Mizuno, A. Masuno, Y. Watanabe and T. Usuki, Atomic and electronic structures of an extremely fragile liquid, Nat. Commun., 5, 5892-8 (2014).
  3. J. Akola, S. Kohara, K. Ohara, A. Fujiwara, Y. Watanabe, A. Masuno, T. Usuki, T. Kubo, A. Nakahira, K. Nitta, T. Uruga, J. K. R. Weber and C. J. Benmore, Network topology for the formation of solvated electrons in binary CaO-Al2O3 composition glasses, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 110, 10129-10134 (2013).
  4. S. Kohara, J. Akola, H. Morita, K. Suzuya, J. K. R. Weber, M. C. Wilding and C. J. Benmore, Relationship between topological order and glass forming ability in densely packed enstatite and forsterite composition glasses, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 108, 14780-14785 (2011).
  5. 小原真司, 鈴谷賢太郎, ブッカーズ編,「過冷却液体からの新規酸化物ガラスの創製とその機能および構造」, 機能性ガラス・ナノガラスの最新技術, エヌ・ティー・エス, 東京, 2006, pp. 159-174.
  6. S. Kohara, K. Suzuya, K. Takeuchi, C.-K. Loong, M. Grimsditch, J. K. R. Weber, J. A. Tangeman and T. S. Key, Glass formation at the limit of insufficient network formers, Science, 303, 1649-1652 (2004).
 
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