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「きぼう」での実験

沸騰・二相流体ループを用いた気液界面形成と熱伝達特性(Two-Phase Flow: TPF)

“Interfacial Behaviors and Heat Transfer Characteristics in Boiling Two-Phase Flow”
最終更新日:2017年03月16日
代表研究者:大田 治彦(九州大学)
共同研究者:浅野 等   (神戸大学)
河南 治   (兵庫県立大学)
今井 良二(室蘭工業大学)
鈴木 康一(東京理科大学)
新本 康久(九州大学)

要旨

Two-Phase Flow(TPF)ミッションは、無重力で液体を沸騰させ、熱の伝わりやすさを調べる実験です。

地上では液体を沸騰させると浮力で気泡が加熱面から移動しますが、宇宙で液体を沸騰させると、出てくる気泡は動かずに大きくなり、熱が伝わりにくくなると言われています。しかし、無重力で沸騰気泡がどのように振る舞い、熱がどれくらい伝わりにくいか、よく分かっていません。

TPF実験では、国際宇宙ステーション「きぼう」で、沸騰による熱の伝わる様子をしっかりと調べ、重力の影響を世界に先駆けて明らかにします。

この成果は、宇宙機を冷却するための将来技術として活用されます。また、地上においても電気自動車のモーターや電力機器の冷却に応用されることが期待されます。

実験の概要

Two-Phase Flow(TPF)実験は、国際宇宙ステーション「きぼう」内の微小重力環境を利用して、沸騰・二相流の実験を行うミッションです。宇宙機の高度化・大型化に伴い、機器冷却の高効率化およびラジエータへの熱輸送が必要となっています。沸騰を使った冷却では、気化熱により多くの熱を奪い輸送することができ、冷却システムのコンパクト化と省電力化を可能にします。このことから、今後の宇宙機に適用すべき重要な要素技術として期待されています。

TPF実験では、液体を円管内に流し、高温にした加熱部で沸騰させ、そこでの熱の伝わり方を解明し、微小重力の沸騰現象への影響を世界に先駆けて明らかにします。また、TPFにより宇宙での強制流動沸騰による冷却システムの成立性を実証します。この実験により、高性能でコンパクトな熱制御システムの設計に役立つデータを取得し、将来の革新的な宇宙機への展開を目指します。

沸騰・二相流の研究では、微小重力下で液体が沸騰し、蒸気に変わる際の熱伝達特性を調べます。二相流とは、蒸気(気体)と液体の2つの状態(相)が共存して流れることです。これに対して、気体あるいは液体だけの流れは単相流といいます。二相流では、蒸気と液体の界面が流れの状態や重力の影響で自由に変形しますから、その形状と熱移動への影響を明らかにする必要があります。
透明な加熱管を備えた循環ループを使用して、流量、加熱に必要な電力、全流量に対する蒸気の比率、および異なる条件下での様々な影響を調査します。

これらは、液体と蒸気の挙動のより詳細な理解、微小重力環境下における伝熱メカニズムに関する基礎的な理解を深めるのに役立つと考えられます。

沸騰部では、加熱された表面で液体を蒸気に変えること(沸騰)によって熱を取り除きます。冷却装置は、蒸気を冷却して結露させる凝縮器を使用し、蒸気を連続的に液体に戻します。
沸騰・二相流システムでは、液体が沸騰して蒸発することで熱が除去され、高性能な熱の移動が行われます。

しかし、液体と気泡が混合した状態は、微小重力環境では地上とは全く異なる挙動をします。

地上では、沸騰によって生成された気泡は、液体より約1000倍も密度が低いため浮力が発生し液体表面から離れていきます(図1)。
微小重力下では、浮力は無くなり気泡は液体から離れて行きません。そのため気泡は断熱層となり熱伝達を大きく減少させる可能性があります。

図1 沸騰により発生する気泡は、地上では浮力が働くが、宇宙での無重力環境では浮力が作用しないため、気泡が加熱面で大きくなり、熱伝達も大きく変わるものと予測されている

実験装置

装置概要

「きぼう」でのTPF実験のために、沸騰・二相流実験装置を開発しました。装置は、縦 67 cm、横 81 cm、高さ 51 cm 、質量 135 kgで、「きぼう」内では最も大きな実験装置の1つです(図2)。宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機(HTV6)に搭載され、2016年12月9日に打ち上げられました(図3、図4)。

図2 沸騰・二相流実験装置外観写真


図3 「コウノトリ」6号機を打上げるH-IIBロケット(出典:三菱重工/JAXA)


図4 沸騰・二相流実験装置を乗せた「こうのとり」がISSのロボットアームにより把持された様子(出典:JAXA/NASA)


装置の構成

装置は主に以下の部品から構成されています(図5)。

  • 配管
  • ポンプ
  • 流量計
  • 予熱器
  • テストセクション
  • 凝縮器
  • アキュムレータ
  • 電源ボックス
  • 安全化ボックス
  • 制御装置

図5 沸騰・二相流実験供試体の概略図


実験装置内部は、円管でつながった循環ループとなっています(図6)。配管内に詰めた液体をポンプで循環させます。液体はパーフルオロヘキサンを使います。これは、これは,沸騰冷却の実験流体として国際的に広く使われています。沸点は約57℃です。ポンプで圧送された液体は、予熱器で所定の液温まで温められ、テストセクションに導入されます。加熱部テストセクションでさらに加熱することで沸騰が起こり、沸騰蒸気と液体の二相状態で流れます。

加熱部テストセクションには透明伝熱管と金属伝熱管があり、流路を切り替えてそれぞれの実験ができるようになっています。また、加熱部テストセクションの下流には非加熱の透明な樹脂管による観察部が設けられ、高速度カメラにより蒸気と液体の界面の形状を詳細に観察することができます。テストセクションでは沸騰の状態を、温度/圧力センサやカメラにより観測します。そのデータを解析することで、無重力環境下での沸騰では熱の伝わりが低下する原因を突き止めます。 気体と液体の二相状態になった二相流体は、凝縮器で冷却され再び液体だけの単相に戻され、ポンプに返送されます。


図6 供試体ループ概要


TPF実験装置は、「きぼう」内に組み込まれた多目的実験ラックのワークボリューム内に宇宙飛行士によって設置されます(図7)。多目的実験ラックから、電源、冷却水、通信、画像処理などが提供され、実験装置は動きます。筑波宇宙センターからのコマンドにより実験装置が制御され、流量やヒータへの電力を変えながら実験が進められます。


フライトモデル

正面(パネル無し)

背面(パネル無し)

MSPRグランドモデル


図7 多目的実験ラックに設置される沸騰二相流実験装置

装置の主要構成品

沸騰・二相流実験装置は、3つのテストセクション(透明伝熱管、金属伝熱管、観察部)、凝縮器、電源装置、制御装置から構成されています。


  • (1) 加熱部テストセクション(透明伝熱管)(図8)
    透明伝熱管はガラス管の内面に金が非常に薄く(0.01~0.1ミクロン)コーティングしてあり、電流を流すことで加熱するとともに、抵抗値をモニタすることで内壁面の温度を計測することが出来ます。また、透明であることからカメラにより沸騰の様子が直接観察できます(動画1)。

図8 透明伝熱管


動画1 透明伝熱管の観察動画(地上で取得)(mp4:6.3 MB)


  • (2) 加熱部テストセクション(金属伝熱管)(図9)
    金属伝熱管は銅管の外部に巻き付けられたヒータに通電することで、管内部の試験流体を加熱するとともに、銅管に等間隔に埋め込んだ10本の熱電対を用いて、管軸方向の温度分布を計測することができます。また、金属伝熱管では通常の加熱条件に加えて、液体が殆ど蒸発して加熱面が乾くような過酷な条件(ドライアウトといいます)での実験も行うことができます。

図9 金属伝熱管


  • (3) 非加熱テストセクション(観察部)(図10)
    観察部は透明な樹脂ブロックに流路を加工したものであり、高速度カメラにより管内部の気液界面挙動の詳細を観測し、沸騰様式の特定や液膜厚さの計測を行います。1台のカメラで2方向から同時に撮影すること(ステレオ撮影)ができます。

図10 非加熱テストセクション

動画2 非加熱テストセクションでの観察動画(地上で取得)(mp4:4.3 MB)


  • (4) 凝縮器
    加熱セクションで沸騰したことによる蒸気を冷却し液体に戻してループ内へ再循環させる役割を持っています。凝縮器で徐熱された熱エネルギーは、「きぼう」の中温冷却系に排熱されます。 この二相流体ループの排熱部としての機能に加えて、微小重力環境下ではまだほとんど解明されていない凝縮時の圧力損失や熱伝達係数の計測を行います。

  • (5) 電源装置
    多目的実験ラックからの受電/配電を行う電源ボックス(図11)と、ヒータの過加熱防止のためにヒータへの電力を遮断する安全化ボックス(図12)から構成されます。

図11 電源ボックス

図12 安全化ボックス


  • (6) 制御/データ収集装置(図13)
    コントローラーと搭載ソフトウエアによって、TPFの構成機器を地上から制御することができます。

図13 制御/データ収集装置


主な仕様
項目 仕様
実験装置サイズ W812 x D667 x H507 mm
試験流体 n-パーフルオロヘキサン(沸点 56.9℃@1気圧)
加熱部管内径 φ4 mm
加熱テストセクション長 50 mm×2 および 5 mm×1(透明伝熱管)
368 mm(金属伝熱管)
質量流速 30~600 kg/m2s (平均流速18~360 mm/s)
サブクール度 0~30 K
加熱電力 0~280 W
観察装置(動画) 透明伝熱管 CCDカメラ: 41万画素、30 fps
観測部 高速度カメラ: 131万画素、1000 fps

期待される成果

体系的にデータを取得するTFP実験を通じて、無重力における沸騰冷却に関するデータベースの構築を行います。これにより、将来の宇宙機などの設計基準を提供することを目指しています。(図14)

  • 設計基準の提供は、衛星、宇宙探査機、宇宙基地など広範な排熱システム設計に有用であり、設計期間を大きく短縮することにつながるでしょう。同時に、コンパクトな沸騰冷却を前提とした構造設計は、機能により多くのリソースを割り振ることを可能とし、2030年頃の革新的宇宙機への展開が期待できます。(宇宙機応用)
  • 宇宙機用排熱システムにおいて、単相流などよりも格段に性能が高くコンパクト化できる沸騰二相流体システムの設計基準を得ることで、最適設計による技術的なアドバンテージを築きます。(我が国の優位性確保)
  • 沸騰熱伝達への浮力の効果は、無重力での精緻な熱伝達係数や気泡挙動の観測でしか得られず、沸騰現象を大きく支配する気泡離脱や加熱面への液供給のメカニズム解明に対して多くの知見を与えることできると考えています。(熱工学への貢献)

図14 沸騰・二相流実験(TPF)の基礎研究から宇宙機利用の道筋および地上技術への応用


 
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