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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
サチコの実験日記 Vol.9 宇宙で植物はどうなるの?
皆さんこんにちは。私はJAXAで「きぼう」日本実験棟を使った生命科学実験の担当をしている矢野幸子です。今回は宇宙での植物実験についてご紹介したいと思います。

JAXAは国際宇宙ステーション完成以前から、スペースシャトルを使っての植物実験を実施してきました。特に、向井千秋宇宙飛行士が2回目に搭乗した1998年打ち上げのスペースシャトルディスカバリー号(ミッション名STS-95)では、日本の4つの植物実験が実施されました(コードネームAUXIN、PEGT、RICE、ROOT)。この時はモデル生物として知られているシロイヌナズナをはじめとしてイネ、トウモロコシ、エンドウ、キュウリの芽生えと根を使った実験が行われました。スペースシャトルの7日間の実験で、重力がなくなると植物のかたち、成長方向、細胞壁などが変化することが発見されました。

これらの実験結果をもとに、2008年に国際宇宙ステーションのヨーロッパの植物栽培装置(略称EMCS)を使った日本の実験2テーマ(Cell Wall, Resist Wall)が実施されました。このシロイヌナズナを使った実験は残念ながら給水装置の動作不良でうまくいきませんでしたが、さらなる植物実験として統合され、2009年、国際宇宙ステーションきぼう実験棟の中で栽培実験が実施されました(Space Seed)。そして2010から2011年にかけては3つの植物実験テーマ(Ferulate、Hydro Tropi、CsPINs)が実施され、スペースシャトルで地上に持ち帰られたサンプルを現在、それぞれの研究提案者が解析中です。
今現在も1つのテーマがフライト準備中で(Resist Tubule)、さらに2つの植物実験テーマを計画中です。このように1回の宇宙実験で終わることなく、得られた成果をさらに深める形で繰り返し、科学的に意味のある様々なデータを取得することができています。

さて、地上では植物は根を下の方向に、茎を上の方向に伸ばします。つまり重力に応答することが明らかですが、重力以外にも成長に影響する条件があります。光、水分、接触刺激などです。また植物には細胞壁があり、動物でいう骨のように自分の体を支えています。植物に重力をかけると細胞壁が丈夫になり、反対に無重力で育てると柔らかく、伸びやすくなります。植物も、重力に対抗するために細胞壁の構造を整えて体を支えているのです。

■ 無重力での実験の方法

では宇宙で植物を成長させるとどうなるのでしょうか。
植物を成長させるには、水、光、温度、ガス条件、栄養条件などいくつかの要素が必要です。まずそれらの条件を整えてやることから始めなければなりません。種子の発芽後1週間程度で観察される基本的な現象なら、種子が持つ栄養で成長するので追加で栄養を与えてやらなくても育ちます。また重力に対する成長の方向を見る実験なら、光を当てないほうが条件をそろえる意味で好都合です。最初に水やりをした後に積極的に換気をしない状態でできる実験もあり、実験目的によって必要な条件は様々です。
しかし、花を咲かせて種子を実らせる実験はそういうわけにはいきません。JAXAは富山大学の神阪盛一郎先生をはじめとする植物の研究者チームと協力して、成長に必要な光にLED照明を使用し、苗床の水分を測定する赤外線センサー、給水をコントロールするポンプ、温度・湿度センサー、湿度をコントロールする換気ポンプ、成長の様子を観察するためのCCDカメラなどの機器を収納した装置(植物実験ユニット)を開発しました。これはコンピューターで制御されている一種のミニ植物工場です。以前紹介した細胞培養装置(CBEF)に接続して使います。また、カメラ付き実験ユニットという装置も植物実験に使うことができます。
種子は地上で苗床に接着剤で固定し、宇宙で水をやることで実験スタートです。打ち上げ時の振動でも種子がはずれないように振動試験で確かめておきました。そしてCBEFの人工重力発生装置にも載せて、宇宙で「重力あり」と「重力なし」という宇宙でしかコントロールできない条件で、比較実験を行いました。

■ 宇宙での実験結果

シャトルの実験で持ち帰ったサンプルを解析したところ、植物の成長や形づくりに関して、重力の影響により本来の反応が隠されてしまっていることが分かってきました。細胞壁は伸びやすく、細胞壁を構成する多糖の分子が小さくなりました。細胞壁を分解する酵素の中で、活性が上昇した酵素も見つかりました。
重力も光もないところで育つと、芽が上に、根が下に、という地上の状態とは異なり、根も苗床から上に飛び出してくるという変化が見られました。
地上ではキュウリの根は重力の影響で下に向かって伸びますが、重力がない環境では水分が多い方向に伸びます。普段は重力に邪魔されて観察が難しい性質が宇宙では明瞭に発揮されていました。植物研究の歴史において長年の課題である植物の成長をコントロールするオーキシンという植物ホルモンに着目した分析により、オーキシンが働く場所が明らかになってきました。
そして国際宇宙ステーションでの実験では、シロイヌナズナに種子を実らせることに関して宇宙で重力のありなしを比較する実験ができました。照明装置や観察のカメラなどを装備した植物実験ユニットと宇宙用のインキュベータ(CBEF)があってこその成果です。生育環境を整えてやれば、宇宙でも植物を栽培することはできそうだという手がかりをつかむことができました。

今後、長期の宇宙飛行をするため、例えば遠い火星を目指すためには、宇宙船の中で省スペース省エネでも栄養のあるおいしい穀物や野菜が育てられるか、という研究が必要になるかもしれません。そこで開発された技術は、地上での私たちの生活をも豊かにするものとなるでしょう。そしてさまざまな基礎研究により、植物の成長の秘密を解くカギ、もしかするとこれまでの教科書を書き換えるような科学的成果を手に入れることにつながるでしょう。

各実験の紹介はJAXAウエブサイトで「きぼうでの実験」の「生命科学実験」で見ることができます。
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/field/scientific/#life

生物実験ユニットの紹介のページ
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/equipment/pm/beu/

(2012/01/25)
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