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宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
サチコの実験日記 Vol.4 人類は宇宙で何年も滞在でき子孫を残せるか?
皆さんこんにちは。私はJAXAで「きぼう」日本実験棟を使った実験の担当をしている矢野幸子です。前回は細胞が重力を感じる仕組みについての研究を紹介しました。今回は細胞を凍結したまま宇宙に持っていき、宇宙環境の影響を調べるという研究の話です。人間はどれだけ長期間宇宙で安全に生きていられるのか?また、宇宙でも子孫を残せるのか?という問題に関する基礎研究についてです。

■ 凍結したままでも放射線の影響はある?

宇宙では地上で自然環境から受ける放射線量の半年分を1日で受けると言われています。
現在、国際宇宙ステーションでは常に6人の宇宙飛行士が1回の滞在は6か月程度で交代しながら宇宙で生活しています。宇宙飛行士の様子からは、6か月滞在した後も元気で放射線の影響は少ないようです。しかし宇宙飛行士は確実に宇宙放射線を受けて生活しています。地上ではバンアレン帯と呼ばれる磁気の帯が宇宙放射線を捕まえてくれて地上まで達する放射線の量は少なくなりますが、地上から約400kmの宇宙ステーション程度の高度では、銀河からもエネルギーが高い粒子も飛んできます。さらに、何年にもわたる長期宇宙滞在が安全に行えるか調べることが必要です。また、宇宙飛行士は完成した体を持つ大人ばかりですので、宇宙環境が成長中の子供やお腹の中の赤ちゃんに与える影響はよく分かっていません。
宇宙で子供を作ることができた脊椎動物は、1994年に日本が実施した、スペースシャトルの実験のメダカだけです。そのとき宇宙生まれのメダカの卵は正常に成長して子メダカが生まれましたが、哺乳類の受精卵も宇宙でも正常に発生し、成長するのでしょうか?実は、この実験は非常に重要ですが、実行しようとしてもとても難しいのです。
宇宙放射線にあたっても正常に見えるからといって、宇宙飛行士を実験台にして子供を得る実験をするというのは倫理的に難しいことです。また、ネズミのような哺乳類を長く飼って宇宙で子供を産ませるというのも、飼育装置の開発、つまり餌や糞尿の処理、ネズミを健康に飼育する技術が必要です。そこで、宇宙環境が次世代へ与える影響を評価するために、JAXAは大阪市立大学の森田隆先生と共同で、「ステムセルズ(Stem Cells;幹細胞)」というプロジェクトを立ち上げ、ネズミのES細胞を用いて実験することにしました。ネズミは哺乳類で、人間と基本的に同じ体の仕組みを持っていますから、実験台としては好都合、というわけです。
しかもES細胞とはEmbryo Stem Cellsという万能細胞の一種で、分化する能力をもつという特殊な性質の細胞です。普通、細胞は皮膚なら皮膚、神経なら神経というように、決まった性質を持った状態になってしまったら別の種類の細胞になるということはありません。ところがES細胞はどんな細胞にもなる能力を持つのです。このES細胞を受精卵と混ぜれば、生れてくる子ネズミの体にはES細胞由来の細胞がたくさん含まれているのです。もしES細胞に当たった宇宙放射線の影響が大きい場合には、親ネズミのおなかの中で成長が止まったり、正常なネズミが生まれなかったりすることもあるかもしれません。このようにして次世代への放射線の影響を詳細に調べることができます。もちろんES細胞の染色体の異常を見つけ出し、がんにならないか調べることも重要です。
ES細胞は凍らせたまま宇宙ステーションに運びます。これまでの研究で、細胞は凍っていても放射線の影響を受けることが分かりました。そこでES細胞を宇宙ステーションに3年間程度保管して、地上に持って帰り、長期間宇宙放射線を受けた影響を調べる実験に使うことにしています。
また、別のテーマでは、ネズミの精子を宇宙に持っていく実験を計画中です。理化学研究所の若山照彦先生は、フリーズドライ(凍結乾燥)したネズミの精子を卵細胞に移植することによって受精卵を作り、子を作る技術を持っています。JAXAは若山先生と共同で、フリーズドライの精子を国際宇宙ステーションへ保管して、地上に持ち帰った後に正常に発生するかを調べようとしています。
さらに、宇宙放射線の受精卵への影響について調べることも計画中です。放射線医学総合研究所の柿沼志津子先生との共同実験計画ですが、受精卵自体は通常、液体窒素の中で保存する方法が取られているのに対して、宇宙では液体窒素は使用しにくいので-80℃の冷凍庫を使うことを予定しています。ところが受精卵は-80℃では凍結状態でも長くは保管できないので、うまく凍結する方法と実験計画を現在検討中です。このように、JAXAは各機関と協力してES細胞、精子、受精卵、の3つの材料を使い、宇宙環境が子孫を作るのにどのような影響を及ぼすのかを確かめようとしているのです。
宇宙で生殖細胞がどんな影響を受けるか、ということは大切な課題です。人類が地球上とは異なる環境で長く生存していくことができるかを予想するのに、大切な基礎研究になります。そして人類という種を長く維持できるのかどうか、という大きなテーマにもつながります。そんな大きなテーマに、凍らせた細胞を使って挑む、宇宙実験のアイデアから科学の進歩が導かれそうです。

これまでの宇宙放射線の影響を細胞を用いて実験した研究はこちら
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/radgene/
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/loh/

現在検討中の研究の紹介はこちら
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/application/pm02/Morita_J.pdf
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/application/pm02/Wakayama_J.pdf
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/application/pm02/Kakinuma_J.pdf
(2011/08/25)
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