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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【紀さんの宇宙あれこれ】 Vol.6 ファルコン9ロケットとドラゴン宇宙船(1)
話題の起業家、イーロン・マスク氏
本テーマは先週の予定でしたが、NASAの新超重量級ロケットSLSと欧米の民間企業による共同開発の「リバティロケット」が直前に発表されたためそれを入れたので、今回にずれ込んでしまいました。
先ず、ファルコン9とドラゴン補給船を開発・製造しているスペース・テクノロジー・エクスポラレーション社(Space Technology Exploration Corporation: SpaceX社)をご紹介いたします。

この会社のCEO(最高経営責任者)及びCTO(最高技術責任者)はイーロン・マスク(Elon Muskエロン・ムスクとも表現される)で、社長は技術系の女性で大手の宇宙コンサルティング会社エアロスペース・コーポレーション他での経歴を持つグウィン・ショットウエル(Gwynne Shotwell)です。

イーロン・マスクは、南アフリカ人の技術者の父とカナダ人の母を持つ、1971年南アフリカ生まれで、1989年カナダへ移住し、その後アメリカのペンシルバニア大学で学位を取得しました。その当時、将来は「インターネット」、「クリーンエネルギー」、「宇宙」の3つの分野の仕事をしたいと言っていたそうです。
スタンフォード大学大学院へ進んで2日後には、将来の夢の第一歩として、オンラインコンテンツ出版ソフトを提供するジップツー(Jip2)社を兄と共に起業しました。これをスタートに、インターネットでオンライン取引をする方は知っているペイパル(PayPal)社の社長も務めました、いわゆるネット長者の一人ですね。

テスラロードスター
これらで得られた資金を、自動車好きの方ならご存知のテスラモータ-ズ(Tesla Motors)社に投資し、現在締役会長兼CTOです。テスラモーターズは米国カリフォルニア州パラアルトに本社のある電気自動車の製造・販売を行っている、最近注目を浴びている会社で2008年販売されたテスラロードスターは人気を呼んでいます。 2010年5月にはトヨタ自動車と、電気自動車や部品の開発も含めての業務・資本提携に合意しました。

また、住宅用太陽光発電を進めるソーラーシティ(Solarcity)社の社外会長も務めています。

そして、2002年にロケットや宇宙船を開発・製造するSpaceX社を設立しました。
以上のように、彼は学生時代の将来やりたい3分野の夢を叶えたというより、現在もばく進中の、今年40歳になる気鋭の起業家だと思います。日米では社会、各種法律、制度等の差はありますが、是非日本版イーロン・マスクの出現を私たちも期待したいですね。
そのようなリーダーの下で開発されているのがファルコンロケットファミリーです。

ファルコンファミリーロケット、左から ファルコン1、ファルコン5(計画だけ)、ファルコン9が2種、ファルコンヘビーが2種

私は、昔ロケット開発をやっていた関係もあって、民間が独自でロケット開発をしていること、それもこれから開発するのに酸化剤は液体酸素(LOX)ですが、燃料がケロシン(RP-1)ということで注目していました。ケロシン(RP-1)は石油から分留される灯油の仲間で、ソユーズロケットにも使われていますが、高性能燃料ではありません。
ファルコンロケットの特記すべき点は燃料にケロシン(RP-1)が採用されていることだと言いましたが、少しロケットの燃料について触れてみます。
ロケットの推進薬は酸化剤と燃料で構成されています。ロケットは自分で酸化剤を持って行くのが、大気中の酸素を使う飛行機とは決定的に違いますし、真空の宇宙でも飛べる理由です。
ロケットの推進薬はその特性の違いから化学推進薬と非化学推進薬に分かれ、「はやぶさ」に使われたイオンエンジン(電気推進)は非化学推進薬エンジンになります。
化学推進薬は常温での状態により、固体推進薬、液体推進薬と呼ばれています。それぞれ特徴があり、ロケットの目的によって使い分けられています。ファルコンロケットは2段式の液体ロケットです。 液体ロケットは固体ロケットに比べ、推力中断や推力の大きさ制御が容易に出来ますが、大推力のエンジン開発は大変です。構造も複雑で結果的に打上げ作業も手間がかかります。
イーロン・マスクCEOは過去の多くの開発例の教訓を十分生かし、開発リスクの低減、部品の共通化、組立ての短縮化、安い運用コスト、回収、当然発展性を考えた末、ケロシン(RP-1)を選択してファルコンロケットファミリーを構想したと私は考えています。
技術的に最高のものを探求すると可能な限り高性能エンジンを考え、化学推進薬では液体水素と液体酸素の組合せによる、高い性能を出す高度なエンジンシステムを開発しようとなります。しかし、低廉価で、一般に広く使われることを目的に考えると違う発想が必要になってくる訳です。

ファルコンロケットシリーズは燃料にケロシン(RP-1)を選ぶ事により、米国で十分に実績のある技術を使い、もちろん新エンジンの開発にはトラブルは付き物ですが、1段用に開発するエンジンであるマーリンエンジン(基本型はマーリン1A)に的を絞り徹底的に試験し、改良型として1B、1C、1Dと進められています。そして2段用にはマーリン・バキュームエンジンと効果的に開発を進める方針を貫いていると感じられます。
ロケットの大型化は、先ず小型ロケットのファルコン1(地球低軌道(LEO)への打上げ能力:約0.6トン)を開発し、基本的な技術要素を確認し実績を積み、3号機まで失敗し4号機目で成功しました。次にこのマーリン1Cエンジンを9個束ね1段とした大型ロケットのファルコン9(LEOへ約9トン)へ進み、1号機、2号機と成功しました。特に2号機では試作機ですがドラゴン補給船の回収にも成功しています。そしてより大型のファルコンヘビー(LEOへ約16.5~25トン)は、ファルコン9の両側に補助ロケットとしてファルコン9をつけ、1段のエンジンが27個と発展させるものです。

移動中のファルコン9とイーロン・マスク氏。9個のエンジンノズルが印象的である。
 
打上げ射点上ファルコン9ロケット
 
打上げ直後のファルコン9ロケット

マーリン・バキュームと呼ばれる上段用エンジンは、ファルコン9とファルコンヘビーの第2段で使用するもので、真空中で作動するのでノズル出口径を大きくし、推力を60%から100%の間で変更できる伸展ノズル方式の設計になっています。
第1段ロケットのタンクには、日本のH-ⅡBロケットの第1段タンクにも採用されたアルミニウム合金の摩擦撹拌接合により製造されています。

さて、大分長くなりましたので、今回はこの当たりまでとしたいと思います。
実は、またまたホットな話題として、9月29日に、イーロン・マスクCEOは、ファルコン9の再使用構想を発表しました。これが完成すれば、今までのいわゆる使い捨てロケットの常識を破る革命的なことになります。
是非これも紹介したいので、ドラゴン補給船と併せて次回にさせて頂きます。
(続く)
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