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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【紀さんの宇宙あれこれ】 Vol.16 ランチャーワン 空中発射ロケット(2)
 今回は延び延びになっていた空中発射ロケット「ランチャーワン(Launcher One)」のお話を、No.11の「空中発射ロケット(ペガサスとストラトローンチ)」と比べながらすることにします。

 「ランチャーワン」は昨年(2012年)7月、イギリスファ-ンボロー国際航空ショーで、ヴァージンギャラクティック設立者のリチャード・ブロンソン氏自らにより、宇宙からの恩恵をもっと劇的に多くの人たちが得られるようになる新空中打上システムを開発すると発表されました。同時に、既に4企業(Skybox Imaging、GeoOptics、Spaceflight Services、planetary resources)と打ち上げ契約をしていることも明らかにされました。
 この計画は2008年頃には概念検討がされていたようです。その頃はヴァージンギャラクティックが、民間宇宙船コンテストX Prizeを獲得した「スペースシップ1」を大型化した8人乗り(乗客は6名)のスペースシップ2の開発中で、母機ホワイトナイト2が2008年12月に初飛行に成功しています。
スペースシップ2の窓からランチャーワンの模型を持つリチャード・ブロンソン氏。ファ-ンボロー国際航空ショー2012年7月。(提供ヴァージンギャラクティック)
スペースシップ2の窓からランチャーワンの模型を持つリチャード・ブロンソン氏。ファ-ンボロー国際航空ショー2012年7月。
(提供ヴァージンギャラクティック)
 そして2009年11月10日、英国BBCのウエブ「スペースマン」が、翌月12月に初公開されるスペースシップ2についての記事の中で、ヴァージンギャラクティックの他のプロジェクトということで「ランチャーワン」を紹介していました。その中で有力ユーザーとなる小型衛星の先駆的ベンチャー企業の英国のサリー・サテライト・テクノロジー・リミテッド(SSTL:Surrey Satellite Technology Ltd)と開発資金調達やロケット仕様について調整があったことにも触れていました。
 さて、世界の衛星市場は通信・放送衛星の大型化(打上げ時5トン~7トン)、15年以上の長寿命化へ向かう対極として小型衛星があります。
 小型衛星といってもいくつかに別れSSTLの定義によると、ミニ衛星とは50~500キログラム、マイクロ衛星は10~50キログラム、ナノ衛星は1~10キログラム、ピコ衛星が0.1~1キログラム、フェント衛星が0.1キログラム以下のものとなっています。
 衛星はその大きさに関わらず打上げ手段として、適切なロケットが必要です。特に小型衛星はいくら衛星自体をコンパクトに工夫して、短期間で安く作っても、タイムリーに簡便に打上げてくれるロケットがなければ意味が半減します。もちろん大型ロケットとの相乗り、軍用ミサイル転用のロシアのドニエプルロケット、アメリカの空中発射ロケットペガサスなどはありますが、より使い易いロケットの需要に応えようとしたのが「ランチャーワン」だと思います。
 「ランチャーワン」の最大の“売り”は母機であるホワイトナイト2にあります。と言うのはホワイトナイト2は、本来以前の宇宙あれこれの「スペースシップ2-民間有人宇宙弾道飛行間近!」No.12&No.14で紹介したスペースシップ2の母機です。
 ここでちょっとスペースシップ2を簡単におさらいしますと、アメリカのXプライズ財団が高度100kmへ3人乗りで、1週間以内に2回飛行できるサブオービタル宇宙機を開発した勝者に賞金1,000万ドルのコンテストを発表しました。2004年この賞金レースに勝ったのがスケールドコンポジットのスペースシップ1と母機ホワイトナイトです。これに着目してヴァージンギャラクティックが8人乗り(パイロット2名と乗客6名)に大型化しサブオービタル宇宙旅行を企画しました。その母機がホワイトナイト2でサブオービタル機がスペースシップ2です。
飛行試験中の母機ホワイトナイト2と結合したスペースシップ2。両機の大きさと形状の違いがわかる。衛星打上げでは有人用のスペースシップ2の替わりにランチャーワンが付く。(提供ヴァージンギャラクティック)
飛行試験中の母機ホワイトナイト2と結合したスペースシップ2。両機の大きさと形状の違いがわかる。衛星打上げでは有人用のスペースシップ2の替わりにランチャーワンが付く。
(提供ヴァージンギャラクティック)
母機ホワイトナイト2単独飛行。単独の機体だけの印象は細っそり感じる。(提供ヴァージンギャラクティック)
母機ホワイトナイト2単独飛行。単独の機体だけの印象は細っそり感じる。
(提供ヴァージンギャラクティック)
 ホワイトナイト2は元来スペースシップ2を運ぶために設計された構造がオール複合材料で製造された航空機です。ホワイトナイト2は有人飛行用の母機なので、当然ながら安全性を最重要視し、1号機のホワイトナイト2EVEは既に100回以上の厳しい飛行テストが行われ、これからスペースシップ2のハイブリッドエンジンを燃焼させる、いわゆるパワードフライトの試験飛行段階に移り早ければ今年後半に営業飛行に入る予定です。またホワイトナイト2は緊急打上げ要求に対して、24時間のターンアランド(再発進)に対応できることを実証しています。
 ホワイトナイト2の母港は米国オクラホマ州に新たに建設された「スペースポート・アメリカ」ですが、アメリカ以外のアブ・ダビ宇宙港(アラブ首長国連邦の首長国)などの外国宇宙港でも発着できるように、多種のレギレーションライセンスが準備されています。
ホワイトナイト2とランチャーワンの結合飛行前の最終チェック、人間の大きさと下方からの状況がわかる。(提供ヴァージンギャラクティック)
ホワイトナイト2とランチャーワンの結合飛行前の最終チェック、人間の大きさと下方からの状況がわかる。
(提供ヴァージンギャラクティック)
ホワイトナイト2とランチャーワンの結合飛行。上方からの状況がわかる。(提供ヴァージンギャラクティック)
ホワイトナイト2とランチャーワンの結合飛行。上方からの状況がわかる。
(提供ヴァージンギャラクティック)
ホワイトナイト2からランチャーワンが分離し自由落下中。1段ロケット点火直前。(提供ヴァージンギャラクティック)
ホワイトナイト2からランチャーワンが分離し自由落下中。1段ロケット点火直前。
(提供ヴァージンギャラクティック)
 以下に「ランチャーワン」についてヴァージンギャラクティックのホームページも参考にして紹介します。

 前述したように有人宇宙飛行をするスペースシップ2の母機として営業運用移行直前のホワイトナイト2を母機として使うのが「ランチャーワン」の最大の有利さです。
 ホワイトナイト2は飛行機ですので、利用者は個々の衛星の特有なミッションに合わせて打上げ射点を設定し、その衛星の性能を最適化出来、特徴を最大限引き出せる打上げ計画を企画できることになります。利用者の望む打上げ施設(主に飛行場)へ飛んでいき、そこで打上げの準備作業と打上げ(離陸)が行われます。これによって小型衛星ユーザーは2次的なペイロードとしての扱い、専用打上げの場合の多額な打上費の支払い、遠い外国の射場への輸出管理の煩雑な手続きや海外への輸送が無くなることになります。このことは「ランチャーワン」がカスタマーにとって最少の地上施設・設備と打上げ費用で使えるという利点につながります。
 打上げコストは1フライトに付き1,000万ドル(9億円@1ドル=90円)と発表されています。
 「ランチャーワン」の製造は社内と社外に分かれています。各段構造、エンジン、衛星フェアリング、機体とのインターフェース構造が ヴァージンギャラクティックが設立したザ・スペースシップ・カンパニー(TSC)の製造・試験施設(FAITH)で内製されます。アヴィオニクス、2次サブシステム等は世界の供給元から製造施設へ供給されます。
 大まかな組み立て工程は、ミッション要求にもよりますが、先ず1段と2段が組み立てられ、チェックアウト後最終組み立て場所へ移動され、アヴィオニクス系用のフル充電されたバッテリーとともに保管されます。 ホワイトナイト2と衛星が到着するまで「ランチャーワン」は燃料を入れない状態で保管されます。衛星の搭載はそのケースによって、例えばFAITHのようなヴァージンギャラクティックの主施設で組み込まれたり、空港の離陸前に打上げ射場で結合されることもあります。
「ランチャーワン」の衛星搭載可能な容積は直径1m、高さ77cmの円筒形とその上の円錐型の衛星フェアリング(カバー)の中になります。推進系は、母機から高度約15kmで分離後、空中で点火される液体燃料の2段式ロケットで、既存技術をベースとした酸化剤は液体酸素、燃料はケロシンとして設計され開発中です。現在スペースシップ2に使われているハイブリッドロケットではありません。
ランチャーワンに点火直後でまだ水平飛行。この後機首を上に向け上昇する。(提供ヴァージンギャラクティック)
ランチャーワンに点火直後でまだ水平飛行。この後機首を上に向け上昇する。
(提供ヴァージンギャラクティック)
ランチャーワンの1段ロケットの燃焼が終了し、分離した2段ロケットが点火され飛行開始し衛星軌道投入に向かう。(提供ヴァージンギャラクティック)
ランチャーワンの1段ロケットの燃焼が終了し、分離した2段ロケットが点火され飛行開始し衛星軌道投入に向かう。
(提供ヴァージンギャラクティック)
 標準的な「ランチャーワン」の打上能力は低軌道LEO(Low Earth Orbit)に225キログラム、LEO太陽同期軌道に100キログラムです。
 なお、ヴァージンギャラクティックはDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国防総省内の研究開発部門の高等研究計画局 )の100ポンド(約45キログラム)の小型衛星を100万ドル(約9,000万円@1ドル=90円)で打上げる航空機による空中発射方式ALASA(Airborne Launch Assist Space Access)の契約を受託しています。
 「ランチャーワン」詳しい情報は近々「ランチャーワン ペーイロード ユーザーガイド」として発表されるとのことです。

 現在、空中発射ロケットの検討や研究開発は外国(アメリカ、ロシア、フランス、ドイツ、スペイン、中国、ウクライナ、イスラエル等)でも、それぞれ自国の特徴を生かした技術をベースに検討が進められています。
 我が国でも、経済産業省が小型衛星産業育成を目指し、打上げ手段として空中発射ロケットの検討、研究開発が実施されています。またJAXA宇宙科学研究所では既存の固体ロケットを基本にした研究が行われています。
「ランチャーワン」は初飛行が2015年、商業飛行が2016年に予定されています。これが実現すると小型衛星の利用はもちろん、宇宙ビジネスの展開が拡大すると期待されますが、我が国がこのような流れに乗れるのか非常に懸念されるところです。

 参考までに、以前の宇宙あれこれで紹介した、代表的な空中発射ロケット、ペガサス、ストラトローンチと「ランチャーワン」を簡単に比較した表を載せておきます。

 表:空中発射ロケット比較表(ペガサス以外の各質量は予想値)
名称 母機 ロケット
質量(t)
衛星質量
(kg:LEO)
備考
ランチャーワン ホワイトナイト2 15 225 開発中
ペガサス ロッキードL1011 23 450 運用中
ストラトロ-ンチ 超大型ジェット 220 6,100 開発中

ペガサス:ロッキードL1011ジェットを改造したスターゲイザーの腹の部分に4段式固体燃料のペガサスロケット(23トン)を抱えて飛行場を飛び立ち、高度約12kmで分離し、約450kgの衛星を地球低軌道(LEO)に打ち上げます。

スロラトロ-ンチ:ジャンボジェットのエンジン6基を持つ新開発の超大型ジェット機で、離陸時の質量は540tで、衛星打上げ最大質量はペガサスの10倍以上の6, 100kgあります。
母機ロッキードL1011ジェットとペガサスロケット。(提供OSC)
母機ロッキードL1011ジェットとペガサスロケット。
(提供OSC)
格納庫から出てくる母機と中央に取付けられている大型空中発射ロケット想像図。(提供ストラトローンチ システムズ)
格納庫から出てくる母機と中央に取付けられている大型空中発射ロケット想像図。
(提供ストラトローンチ システムズ)
 次回はXCOR Aerospace社のリンクス宇宙船を紹介したいと思います。
(続く)
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