このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。

<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。

サイトマップ

宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センタートップページ
  • Menu01
  • Menu02
  • Menu03
  • Menu04
  • Menu05
  • Menu06
  • Menu07

JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2012年10月22日

今回のNOLS訓練は、アラスカの海をカヤックで旅するというものでした。以前、この訓練に参加した方々からは、「気候もいいし、楽しい訓練だよ!」などと言われていたので楽しみにしていたのですが…そう、これまでの方々は、6~8月に参加していて、NASAが9月にこの訓練を実施するのは今回が初めてだったのです!

9月のアラスカは寒い!ヒューストンで連日37℃の経験をしていた私にとっては、5℃しかも冷たい雨が連日降り注ぐ天気は、真冬のように感じました(実際、海には氷がプカプカ浮いています)。海も大荒れの日が多く、カヤックの訓練が出来たのは、ほんの数日です。しかし、幸運なことにカヤックで長距離(約20km)移動する日に、グループのリーダーをさせて頂く事が出来ました。今回は、そこで学んだことについて少し書かせて頂きます。

私がリーダーをしたのは、次の日にボートの迎えがくるという、実質訓練最終日でした。これまで荒天の為、終日カヤックの訓練をできたのは、1日だけという状況です。前日に天気予報を確認すると、最終日は一時的に天気が回復するということでしたので、少しばかり期待しながら眠りについたのですが…朝、目覚めてみると強い雨がまだ降っています…皆より早く起きてラジオの天気予報を確認すると、天気予報では回復が遅れているだけで、やはり天気は一時的に回復するとの事…「本当かな?」と思いつつも、皆を予定どおりの時間に起こすことにしました。ただ、天気予報の詳細を知らない皆は、この天気で遠出が出来るとは思っていなかったようで、明らかに士気が低い感じです。天候が回復しても一時的で、その隙をついて移動する必要があるため、皆に次の集合時間と個人の出発準備をそれまでに完了させることを指示しました。

写真:こんなに良い天気ばかりだったら良かったのに…でも、それでは、訓練効果がありません!本当は、困難に直面したら、「困難を与えて下さって有難うございます!」と感謝しなければいけませんね。

こんなに良い天気ばかりだったら良かったのに…でも、それでは、訓練効果がありません!本当は、困難に直面したら、「困難を与えて下さって有難うございます!」と感謝しなければいけませんね。

そして、いよいよ、皆を集めて「予定どおり移動するか?」或いは「この場に留まるか?」の意思決定のミーティングです。グループの意思決定にはいろいろな手段がありますが、今回のように、皆が実施すべきことをしっかり理解している場合は、それぞれの意見を聞き、同意を得ながら意思決定をしたいと考えていました。私は、本日の天気予報と予定されている行程、天候悪化時の代替プランなどを説明した上で、述べました。

「今は雨が降っていますが、天気予報と海上を観察した結果、予定どおりの行程を進むことは可能であると思われる。しかし、私が見たところ皆の士気は現在あまり高いとは言えない。長距離の移動になる上、不確定要素も多いので、士気が低いと別の危険を誘発する恐れがある。予定どおり移動するべきか、この場にとどまるべきか、皆の率直な意見が聞きたい。」

案の定意見はバラバラで、なかなか決着しそうにありません。「今回の訓練では、チームワークを向上させるのが目的なのであるから、これまでどおり、この場で他の活動をしながらチームワークを向上させることもできるのではないか?」という意見もありました。私も、リーダーとして一日を過ごす上では、この場に留まる方が判断事項も少なく、正直そちらの方が楽です。しかし、あるクルーが言います。「我々は、カヤックの訓練を通じてチームワークを向上させるためにここに来ているのであって、テントで話をしながら過ごすことでチームワークを向上させるのではない!」と。確かにそのとおり!その意見以降、徐々に移動に積極的な意見が増え始め、意見が出切った所で、皆が私の顔を見ています。私は意を決して「それでは、困難にチャレンジしましょう!荷物の積込み開始は0930!」と言い、最終準備を開始させました。

ただ、出発の直前にも、天候は思ったほど回復はしておらず、逆に風が強まっていました。皆も少し不安そうな顔をしていたので、「天気予報とは、状況が異なるものの、危険な程海が荒れているわけではありません。まずは、行けるところまで行ってみましょう。代替プランは、沢山ありますから!」と皆に告げ出発です(実は私も不安なのですが、それを顔に出さずに明るく言う事が大切です)。

写真:いつも、びしょ濡れでしたが、気持ち次第で楽しくも、みすぼらしくもなります。ということで、笑顔!

いつも、びしょ濡れでしたが、気持ち次第で楽しくも、みすぼらしくもなります。ということで、笑顔!

ここまで来ると、さすがにこれまで修羅場をくぐり抜けてきた方ばかりですから、士気は大いにあがり、私をいろいろな面で助けながら積極的に指示に従ってくれます。地図の判読、休憩の指示、低体温症対策、移動隊形の指示、次のキャンプ地の決定など、リーダーとしてやるべきことは山ほどありましたが、それほど困難を感じることなく、無事に計画通りの場所に、しかも予定よりも早く到着する事が出来ました(それでも、その日約4~5時間カヤックを漕ぎました)。

この一日で、私は本当に多くのことを学びました。最も興味深い経験は、私達でも、時に本来の目的を忘れ、安易な道を取りそうになる事があるという事です。「これまでと同じことを継続する」、「何かと理由をつけて安易な道を選択することを正当化する」といった傾向が人間にはあるのかもしれませんね。そのような中で、その流れを変えるような発言や決定をする事は非常に難しいことです。しかし、困難の後には、それに見あった収穫があるのも事実です。実際、この日を境に、皆が私を見る目が変わったのを感じましたし、皆もやり遂げた充実感を味わっているようでした。

私は、「困難は人を成長させる。選択に迷ったら厳しい道を選択すること!」と日頃講演で述べていますが、今回の訓練でも自らその言葉を実践し、結果を残せた事に充実感を感じると共に、少しホッとしています。私は、講演でもツイッターでも、僭越であると思いつつも、いつも偉そうな事ばかり言っています。でも言葉だけで、私自身の行動が伴わないと何にもなりませんし、他の人からも信頼されないですからね。

写真:今度の訓練では、イーグルが会いに来てくれました!(NEEMOの時は、海亀でしたね)私も、遠い昔に、イーグル・ドライバーと呼ばれていた時代がありました…

今度の訓練では、イーグルが会いに来てくれました!(NEEMOの時は、海亀でしたね)

私も、遠い昔に、イーグル・ドライバーと呼ばれていた時代がありました…

※写真の出典はJAXA



≫バックナンバー一覧へ戻る

 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約