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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2013年12月20日

人の一生の間で、「人生を変える1本の電話」と呼べるものはそうそう多くはないでしょう。私にとって、それはこれまでの37年間のなかで3度ありました。

1度目は大学4年の時、前職の会社の人事担当者から受けた、パイロット訓練生としての採用内定の連絡。2度目は2009年の2月、JAXA宇宙飛行士候補者選抜試験担当者からの、宇宙飛行士候補者としての採用決定の電話でした。

そして3度目の電話は、つい先日アメリカ時間11月28日の朝、現在の上司である宇宙飛行士運用技術部長からの電話でした。

「2016年に予定されている第48/49次長期滞在クルーとして、大西さんの国際宇宙ステーション(ISS)搭乗が国際間で正式に承認されました」

という連絡です。

JAXAに入社してから4年半、ずっとISS長期滞在を目標に訓練してきたわけですから、今回の電話はある意味、人生の同じベクトルの線上にあると言えます。そういう意味では、ベクトルの方向自体を大きく変えた前の2本の電話と比べると、少し性質は異なるかもしれませんが、これまで漠然としていた未来が具体的な形を成したという点で、やはり私にとって大きな意味があります。

具体的な目標が定まってやるべきことがはっきりした分、これまでよりもシンプルな生活が待っていることでしょう。

この場をお借りして、これまで公私にわたり私の訓練・生活を支えてきて下さった方々にお礼申し上げます。今回の搭乗決定は自分ひとりの努力でなし得るものでは到底ありません。訓練で指導して下さったインストラクターの方々、国際間の調整に奔走して下さった多くの方々、日頃からJAXAを応援して下さっている皆様、本当にありがとうございます。将来のミッションでISSの利用成果拡大のために少しでも良い仕事が出来るよう、今後の訓練も引き続きがんばります!

さて、今月は他にももう一つ書いておきたいことがあります。それは現在ISSで起こっているある問題についてです。既に報道されているので、ご存知の方も多いかもしれません。

12月11日、ISSの2つある外部冷却システムのうちの1つが停止しました。停止した原因は、システム内のアンモニアの温度が低くなりすぎた為です。

この問題について語る前に、ISSにおける冷却システムの重要性について多少説明しておく必要があるでしょう。ISSは巨大なシステムの集合ですが、その中でも重要なシステムが3つあります。すなわち、生命維持システム、電力システム、冷却システムです。

生命維持システムは、私たち宇宙飛行士がISSに居住し活動できるように、空気を循環させたり、温度を調節したり、酸素を作り出したり、空気中の二酸化炭素を取り除いたりしています。文字通り、人間が生きていく為に必要なシステムです。

そしてそれらの装置や、実験に使用される装置、その他ありとあらゆる機器が作動する為には、当然電力が必要になり、それを供給するのが電力システムになります。ISSではこの為に、巨大な太陽電池パネルが使用されています。皆さんもご家庭で電気を使われているでしょうから、電力システムの重要性はイメージしやすいかと思います。

ISSにおいて、この電力システムと切っても切り離せない関係なのが、実は残る冷却システムなのです。なぜなら、電気を発生させたり電気を使用したりといった過程で、必ず熱が生じます。そしてその熱を適切に排熱してやらないと、その機器はオーバーヒートしてしまうからです。

電力システムと冷却システムは表裏一体で、お互いが正常に作動する為には、お互いの存在が欠かせません。冷却装置がないと電気機器は故障してしまいますし、そもそも電気がないと冷却装置も動かせません。

ISSを支えるこの2つの根幹システムには、当然のことながら多重のバックアップが備えられています。その為、ISSには2つの独立した外部冷却システムがあるのです。ここで「外部」と書いてあるのは、ISSの外部に設置されている機器を冷やしているシステムだからです。当然、内部冷却システムというものがあり、こちらはISSの内部の機器を冷やしています。

内部冷却システムで集められた熱は、熱交換器によって外部冷却システムに受け渡され、宇宙空間に張り出したラジエーターパネル(放熱板)から宇宙空間へと「捨てられる」わけです。

外部冷却システムにはアンモニアが使用されています。水などと比べて、効率的に熱を運べる半面、人体には有害な物質になります。そのアンモニアの温度が低くなりすぎた為に、システム自体が自動的に停止したというのが12月11日に起きた事象になります。この1冷却システムの停止自体によって宇宙飛行士に危険が及ぶことはありませんが、ISSのシステムに対しては大きな影響があります。その為、地上の管制官の訓練では定番中の定番とも言える不具合で、その対処方法については日頃から訓練が積まれており、今回の不具合発生時も決められた手順に従って地上の管制チームによってすぐに停止した冷却システムの再起動が行われたのでした。

実際、再起動は成功しました。

しかし、アンモニアの温度は依然として低いままだったのです。このままでは、外部冷却システムと内部冷却システムの間で熱を交換することが出来ません。内部冷却システムには人体への安全性を考慮してアンモニアの代わりに水が使用されており、極低温のアンモニアによってその冷却水が凍結してしまう恐れがあるからです。

NASAの技術者たちによって原因が調べられ、その結果、アンモニアを循環させるポンプ装置に不具合があることがわかりました。より具体的に言うと、その装置の中の1つのバルブが、指示された通りの動きをしていないというものでした。このバルブは、わかりやすく言うとラジエーターパネルに流れ込むアンモニアの量をコントロールしています。それによって放熱される熱量をコントロール、つまりシステム全体のアンモニアの温度をコントロールしているのですが、そのバルブがある一定以上閉じられなくなっているのでした。それによって必要以上のアンモニアがラジエーターに流れ込み、必要以上の放熱を行っているという状況になります。

原因が判明してから、それを解消する為の方法について膨大な議論が行われました。しかし残念ながら、バルブ自体の動作を修正する方法はなく、代わりに他のバルブの開度を調節することによってアンモニアの温度をコントロールしようという案が出され、試行錯誤を繰り返したのですが、いかんせん本来そのような役目を負っていないバルブなので、状況を打開するには至っていません。

NASAは問題の発生当初から、システムを復旧出来ない場合はポンプ装置自体を船外活動で交換することを想定し、不具合の対策と並行して準備を進めてきました。また同時に、残されたもう一方の冷却システムが停止した場合の最悪の事態に備え、その対処法についても議論が重ねられました。

そうして12月17日火曜日、ISSプログラムはポンプ装置を交換する為に船外活動を実施することを決定しました。現時点では3回、作業の進捗状況によっては2回の船外活動が必要と見られており、最初の船外活動は今のところ21日土曜日に実施されることになっています。

船外活動は2名のアメリカ人飛行士によって行われますが、若田飛行士はロボットアームのスペシャリストとして、船内からこの船外活動を支援することになっています。また地上の管制チームの中には、星出飛行士もISSとの交信役として参加することが予定されており、この事態の解決に向けて2名の日本人宇宙飛行士の活躍が期待されます。

船外活動の模様は、NASAのウェブサイト上で中継されると思いますので、ご興味のある方はこちらからご覧下さい。(このコラムの公開が20日なので、見逃された方はごめんなさい)

ISSは人間の科学技術の結晶とも言える巨大なシステムですが、人間が作り出したものである以上、不具合とは無縁ではいられません。今回の不具合が発生したことは残念ではありますが、この経験から私たちは多くのことを学べるはずです。それらがこれから先の新しいシステムの設計に反映され、将来の宇宙開発に生かされるものと信じています。

写真

船外活動に備え、船外活動服の点検を行っているRick Mastracchio飛行士

※写真の出典はJAXA/NASA


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