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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2013年5月22日

去る4月20日、少し肌寒い中、筑波宇宙センターの特別公開にお越し下さった方々、どうもありがとうございました!

今回、ちょうど「きぼう」のロボットアームと実験装置に関する訓練のための帰国と重なり、講演をさせて頂く機会に恵まれたのですが、実はまだまだ講演というものに慣れておらず、とても緊張しました。というのも、これまでは大体新人宇宙飛行士3人で揃ってイベントに参加していたので、1人でやるという機会がほとんどなかったからです。言ってみればずっとバンドで活動してきたミュージシャンが、ソロ活動を開始するといったところでしょうか。その心細さたるや、相当なものがあります。

当日のスケジュールも、3回の講演に加えていくつかの取材や他のイベントへの参加など、終日分刻みのスケジュールになっていて、当初予定表を頂いた時には思わず目が点になってしまいました。

とまあかなり不安な気持ちで始まった特別公開だったのですが、いざイベントが始まるとこれが楽しいのなんの。やっぱり実際に皆さんと直接お話ができる機会は良いな、と思いました。

Q&Aコーナーでは、皆さんが抱いている様々な疑問に私なりにお答えすることが出来て嬉しかったです。特に、お子さんたちの質問は時としてとてもユニークで、こちらまで楽しくなってしまいます。

写真:質問コーナーの様子

このQ&Aというのは答える側からすると結構大変なもので、頭の中で瞬時に答えをまとめなければいけないのですが、難しい質問になると時には話を始めつつ頭の中はフル回転で並行して自分の考えを整理していくといったことをやったりします。そうすると、言葉がカミカミになってしまったり、要領を得ない支離滅裂な回答になってしまったりして、後で反省することもしきりです。日頃から自分の意見を整理しておくというのは、とても大事なことだと感じました。

ところで、今回の講演で最も冷や汗をかいた瞬間は次のようなものでした。

あれは確か3回目の講演だったと思いますが、Q&Aコーナーで皆さんからの質問を受けている時に、一人の男の子が手を挙げました。

その男の子は、自分が当てられたと知ると、少し緊張してもじもじしながらやがて口を開きました。

「宇宙で、おならをするとどうなりますか?」

・・・私は完全に意表をつかれました。

『宇宙』というスケールの大きな科学的な言葉と、『おなら』という私たち人間のある意味ユーモラスな生理的現象とのギャップが私の意表をついたのです。

子供らしい、素朴な疑問なのですが、実際に宇宙に滞在したことのまだない私にとっては、難しい問題です。何しろ、訓練でそんなこと誰も教えてくれません。なのでここは私の知っている知識を使って答えるしかありません。私は必死で頭の中で考えました。

この時、私は『おなら=臭い』であると考え、この質問を「宇宙では臭いはどうなるか?」という質問に置き換えることにしたのです(この間、約5秒)。

そうするとこの子供らしい疑問が、実は宇宙での無重力状態での生活の特徴を鋭く突いていると思えてきたのです。

地上では、私たちの周りの空気は絶えず動いています。その理由の1つは、温かい空気は軽いので上へ、冷たい空気は重いので下の方へと動く熱対流が存在するからです。これは重力によるものです。無重力状態では、この熱対流が働かない為、空気の循環は地上よりも少なくなります。極端な話、ずっと一箇所に留まっていると、自分の吐く二酸化炭素が周りに溜まっていって酸素が薄くなっていくようなことになります。

その為、宇宙ステーションには空気を強制的に循環させるファン(扇風機のようなもの)がいくつも設置されています。空気の循環というものは、無重力空間では非常に大切なものなのです。

男の子がそういった知識をもった上でその質問をしてくれたのかはわかりません。けれども、子供らしい無邪気な質問が、ある物事の本質を突いていたことは確かです。私は宇宙ステーションにおける空気の循環システムの重要性について触れ、宇宙では地上よりも臭いが留まりやすいので、臭いが拡散するまで十分気をつけて!といった回答をその男の子にしたのでした。・・・内心冷や汗をかきながら。

講演は無事終わりましたが、この話にはまだ続きがあります。

日本での訓練とイベントを終えて、ヒューストンに帰る飛行機の中、私は特別公開のことを振り返っていました。そうして、例の男の子からの質問について思い出した時、私は自分がとんでもない思い違いをしていた可能性に気付いたのです。

その思い違いというのは、『おなら=臭い』と考えたことです。

でも『おなら』を物理的視点で考える時、忘れてはいけない側面があります。それは、『おなら=体内からのガスの噴射』という点です。

そのことに気付いたとき、私は愕然としました。ひょっとしたら、あの男の子は無重力空間でおならをすると、その反作用で体が進むか?ということが聞きたかったのではないだろうか!?

よくギャグ漫画などで、おならを推進力に空を飛んだりするあのイメージです。

男の子の質問の真意がどこにあったのか、今となっては知ることは出来ませんが、私はこの問題についてもっと深く考えなくてはならないと思いました。

理論的には、何らかのガスが噴射される以上、反作用は生じるはずです。ただ、そのガス(おなら)の噴射ベクトルを、体の重心方向とそれに直角な方向成分に分解してやる必要がありそうです。その場合、重心方向の成分が実際の推進力に、もう1つの成分は重心を中心に体を回転させるモーメントを生じさせることになるのでしょうか。となると、最も効率的に推進力を得るには、体の重心から真っ直ぐ遠ざかる方向へおならを噴射する必要が・・・(以下、略)。

うーむ、これだけでも論文が1本くらい書けそうです。私が途方にくれていたある日、運動用のジムで先輩の古川飛行士にお会いしたので、思い切って聞いてみることにしました。

私「古川さん、ちょっと変なことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

古川さん「(笑顔で)ええ、どうぞどうぞ、何でも聞いて下さい」

私「あの、先日の特別公開でかくかくしかじかで、こういった質問を受けたのですが、宇宙でおならをすると、体が動いたりするのでしょうか?」

古川さん「(笑顔で)ああ~、それですか。前に計算したことがあるんですが(エッ!?)、かなり大きいおならをしないと無理そうですね。実際には体感できるような反動はないんです」

私「はあ~、やっぱりそうですか。体とおならの質量の差が大きすぎるからでしょうか」

古川さん「そうなんです。意外と体を動かすのは大変で、例えば空中で一生懸命平泳ぎのように空気をかいても、本当にゆっくりとしか進まないんですよ」

私「なるほど。疑問が解けました、どうもありがとうございました!」

どうやら理論的には間違っていなさそうですが、いかんせんおならの質量が小さ過ぎて、実際に体感できるような推力は発生しないようですね。(古川さん、急な質問にも快く答えて下さり、どうもありがとうございました)

いかがですか?子供ならではの視点、大人も学べることが多いと思いませんか?

※写真の出典はJAXA



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