サイトマップ

宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センタートップページ
  • Menu01
  • Menu02
  • Menu03
  • Menu04
  • Menu05
  • Menu06
  • Menu07

JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2012年12月20日

みなさま、こんにちは。JAXA宇宙飛行士で、"もぐり"の医者の金井宣茂です。・・・といっても、宇宙飛行士になるかわりに医師免許が失効したとか、そういうわけではありません。

JAXAに入社する前は、海上自衛隊で潜水員の健康管理をしていました。これを潜水医官と呼びます。つまり"潜り"の医者、というわけで、業界で良く使われるジョークでした。おやじギャグとシラけてしまったら、すみません。

医学のマイナーな一分野として、異常環境医学、中でも潜水医学という特殊な分野があります。ここでは、潜水に関わる様々な健康障害を予防したり、治療を行ったりしています。

海上自衛隊に勤務する医官の半数は、外科とか内科とか耳鼻科といった自分の専門に加えて、この潜水医学の勉強をして、「潜水医官(ダイビング・メディカル・オフィサー)」としての資格を取得します(ちなみに残りの半数は、航空自衛隊の医官とともに「航空医官(フライトサージャン)」としての訓練を受けます)。

潜水医官は、さまざまな種類の潜水器具を体験するために海に潜る訓練も受けますが、主たる活躍の場は、ダイビング船の甲板の上か、病院や医務室などの医療施設です。潜水病治療のために設置されている高気圧酸素治療装置を操作したり、実際に治療を受ける患者さんに付き添って加圧されることもあり、海の中だけでなく、水の外でも(=高圧チャンバーの中で)ダイビングを行います。

潜水具を使って水の中で作業をするのは、何も海上自衛隊だけではありません。民間の事業者がサルベージや採掘作業、建設作業などを水中で行うこともありますし、レジャーダイビングもごく一般的で、多くの人がレジャーとして水の中の活動を楽しんでいます。

ダイビングは健康な人ならば誰でもが楽しめる安全なスポーツですが、そもそも人間は潜水器の助けなくしては水中で長く過ごすことができませんので、当然リスクもあります。

ダイビング・ライセンスを持っている方はご存じかもしれませんが、ダイビングのやり方によっては、潜水病という病気を起こす可能性があるため、水の中に潜っていられる時間や深さ、潜水を終えてから次の潜水を行うまでの休息時間など、細かなルールが設けられています。

民間・自衛隊に関わらず、潜水医学に携わる医師や医療職は、なぜ潜水病が起こるのか、どうしたら防げるのか、万一病気になった場合はどのように治療するのが良いのかということを、日々勉強を重ねつつ、日ごろの診療に携わっているのです。

さて、表題にも書きましたが、実は宇宙でも潜水病を起こしてしまう可能性があります。原因はいろいろありうるのですが、先月のコラムに書かせていただいた船外活動(われわれは、Extra Vehicular Activity、略してEVAと呼びます)もその一つです。

そもそも潜水病はどうして起こるのでしょうか?例として、海の底でスクーバ潜水具を使ってダイビングすることを考えましょう。

水の中では地上にいるときと比べて余分の圧力(水圧)がかかっていますので、潜水器で呼吸する空気も地上よりも加圧されています。イメージするのが難しいかもしれませんが、一回の呼吸に含まれる空気の量も、体積の上では地上にいるときと変わりませんが、実際には含まれる酸素分子などの量は周囲の圧力に応じて多く含まれています。例をあげてみると、水深10メートルの海底では、人間の体には2気圧の圧力がかかっており、呼吸する空気の中には、実に地上の2倍の酸素や窒素が含まれることになります。

そして、魚を見たり写真を撮ったりと、海の底で楽しく過ごす時間に応じて、呼吸している加圧空気に含まれる窒素が、徐々に人間の体内に溶け込んで行くのです。

この状態で、水面に(すなわち1気圧の状態)戻ってくると、体にかかる圧力が低くなるにつれて、体内に溶けていた窒素は、肺を通して体の外にゆっくり排出されます。

ダイビングのルールをきちんと守ることで、この過程が滞りなく行われれば何も問題はなく、健康上の影響もありません。しかし、例えば、水中に長く居過ぎて体に溜まった窒素が多すぎるとか、浮上するための時間が早過ぎて窒素の排出が間に合わないというようなことがあると、圧力によって体に溶け込んでいた窒素がうまく処理できず、体に溶けきれなくなり、体の中(特に血管の中)で気泡化してしまいます。この気泡が、血液の流れを止めてしまうことで、さまざまな健康障害を起こす原因となるのです。これが潜水病です。

同様の現象が、理論的には宇宙船の中でも起こりえます。例えば、船外活動(EVA)のことを考えてみましょう。宇宙ステーションの中は、地球上と同じ1気圧にコントロールされています。宇宙服に着替えて外に出るのですが、宇宙ステーションの外は真空(すなわち0気圧)です。宇宙服を着た飛行士は、エアロックという特別な部屋に入り、エアロックの空気を抜いた上で、ハッチを開けて宇宙に出て行きます。

先月のコラムにも書かせていただきましたが、宇宙服の中は、だいたい0.3~0.4気圧ほどの酸素で満たされています。これより気圧が低いと、酸素濃度が低すぎて肉体労働をするには体が辛くなりますし、かといって圧力が高過ぎると、宇宙服がパンパンに膨らんでしまい、動くことができなくなってしまいます。

そこで、宇宙服を着こんだ飛行士は、エアロックの中で、1気圧から0.3~0.4気圧に徐々に減圧をするのですが、この過程は、あたかも水中で加圧空気を吸ったダイバーが、1気圧の水面に戻ってくるのと同じ状況なのです。

もちろん、今まさに船外活動に出かけようとする宇宙飛行士が潜水病になってしまっては困りますから、潜水医学の知識を駆使して、さまざまな予防策が取られます。キャンプアウトといって、エアロックの中の気圧を少し下げた状態に維持したまま、宇宙飛行士が一晩その中で過ごすことにより体を慣らしたり、あるいは酸素マスクをつけて一定時間エアロバイクで運動することで強制的に体内の窒素を排出させたりする方法などがあります。最近では、酸素吸入と軽い運動を組み合わせる、より短時間で安全に体を慣らすための方法も開発されつつあります。

宇宙飛行士を医学面からサポートするため、地上の管制センターには、宇宙医学を専門とする医師(フライトサージャンと呼ばれます)や、衛生員(Biomedical Engineer、略してBMEと言われます)が24時間体制で待機していますので、かれらの指示により、安全かつ効率的な減圧を行うことができます。

もちろん船外活動中も、宇宙飛行士の心電図や宇宙服のデータ、宇宙飛行士同士の会話が常に管制室でモニターされていますので、健康管理という点では、これ以上望めない万全の体制でのサポートを受けることができます。

それでも万一、宇宙で潜水病が起きてしまったらどうするのでしょうか?

地球上では、潜水病の患者さんが発生した場合は、特別な施設で高気圧酸素治療を行います。宇宙ステーションには、治療用施設は備え付けていませんが、代わりに、宇宙服の中に患者を入れて、酸素で加圧することになっています。高い圧力がかかった宇宙服はその後使うことはできなくなりますが、これにより潜水病治療を施すことが可能です。宇宙服を、潜水病の治療装置変わりに使えるように設計してあるなんて、さすがだなぁと感心してしまいます。

なお、船外活動のように危険を伴う作業の場合は、フライトサージャンやEVA専門家などによる特別サポートがありますので、幸いなことに、これまで船外活動に関連して潜水病が起こったという報告はないそうです。みなさま、ご安心ください。

写真:船外活動中の星出宇宙飛行士

船外活動中の星出宇宙飛行士

先日地球に帰還した星出彰彦宇宙飛行士が行った船外活動など、宇宙ステーションで実際に行っている船外活動のデータは逐一記録が残され、今後、さらに安全で効率的な作業方法が開発される資料になっていきます。

こういったデータが増えていけば、逆に地球上での作業に活用することで、より安全で効率的なダイビング・潜水活動などができるようになるかもしれませんね。

※写真の出典はJAXA/NASA


≫バックナンバー一覧へ戻る

 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency サイトポリシー・利用規約