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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2012年11月16日

地球に帰還する直前になりますが、星出宇宙飛行士が、相棒のウィリアムズ飛行士とともに、3回目の船外活動(EVA)を大成功させたという嬉しいニュースがありました。故障があったのは、宇宙ステーションの電力をまかなう太陽電池パネルの、とても大切な部分で、地上から作業をサポートしていた宇宙飛行士だけでなく、管制官、技術者、EVA担当者、プロジェクトマネージャーたちがかたずを飲んで見守る作業でした。船外活動が無事に終了した後は、ヒューストンのジョンソン宇宙センターの関係者は大興奮で、ちょっとしたお祭りさわぎでした。地上にいるときから入念に計画されていて、十分に訓練を行ってきた1回目、2回目の船外活動と異なり、突然の不具合に対して急に計画された作業を、安全確実に遂行することができたのも、2人の飛行士の豊富な経験と訓練とが生かされた結果だと思います。

今回は、この「船外活動」について触れてみたいと思います。宇宙ステーションの組み立てに際して、スペースシャトルで輸送した「きぼう」などの新しい部屋(モジュールと呼びます)を取り付けて稼働させたり、新しい部品や実験機器を宇宙ステーションの外側に取り付けたりするために、あるいは今回のように、故障した部品を取り換えたり修理したりするために、宇宙飛行士が宇宙服を着て、宇宙ステーションの外に出て作業を行うことがあります。これをわれわれは「船外活動」と呼んでいます。

でも、「船外活動」って、難しい言葉ですね。英語の「Extra Vehicular Activity」を略して「EVA」と呼んだりします。英語では、もっと一般的な用語として「Space Walk」などと言われ、同じようなニュアンスで、日本語にも「宇宙遊泳」という言葉があります。「Space Walk」にしても、「宇宙遊泳」にしても、無重力の空間をフワフワ漂うイメージで、何となく優雅にも思えるのですが、実際にはどうなのでしょうか?わたし自身、宇宙に行ったこともないですし、当然船外活動をしたこともないので、機会があったら、星出飛行士に、ぜひ話を聞きたいと思っています。

写真

しかし、わたしがこれまで地上で訓練を受けた限りでは、とても優雅とは程遠い、過酷な作業であるというのが、正直な感想です。ところで、今、「地上」での訓練と書きましたが、これは「宇宙ではなく、地球上で」という程度の意味です。重力のある地球上で、無重力環境を模擬するために、正確に言うと、水の中に潜って、浮力を使って訓練を行っています。ヒューストンにあるジョンソン宇宙センターには、Neutral Buoyancy Lab(無重量環境訓練施設、通称:NBL)という長さ100メートル、深さ10メートル以上の巨大なプールがあり、宇宙飛行士の訓練のために、実物大の宇宙ステーションの模型(モックアップといいます)が沈められています。宇宙飛行士は、水中作業用に改造された宇宙服に身を包み、二人一組となって、宇宙ステーションでの様々な作業について練習を繰り返します。

写真:NASAでのプールを使用した船外活動訓練の様子

実際の宇宙での作業もそうなのですが、お昼になったからといって気軽に宇宙ステーションの中に戻って休憩を取るわけにはいきません。一回作業が始まると、6時間くらい連続して作業を行います。宇宙服の中には、ストロー付きの水袋が備え付けてあるので、少しずつ喉をうるおすことはできますが、食事は作業が終わるまでは食べられません(このため訓練の朝はしっかりとした朝食を食べていくのが大切です)。また、トイレに行くこともできないので、宇宙飛行士は必ずオムツをつけて訓練に(そして実際の宇宙での作業に)臨みます。

ところで、実際の宇宙では、宇宙服の外は真空の宇宙空間です。当然、そのままで人間が生きることはできませんので宇宙服の中に酸素を満たし、宇宙飛行士が活動できるための環境を人工的に保っています。それ自体が小さな宇宙船とも言える宇宙服の、多彩な機能について語り出すとキリがないのですが、ここで注目したいのは、宇宙服の内と外の圧力の違いです。真空の外側と比べ、宇宙服の中はだいたい0.3~0.4気圧ほど高い圧力になっています。これはプールでの訓練でも一緒で、外から受ける水圧よりも常に0.3~0.4気圧ほど高い圧力を一定に保つように常に空気が供給され続けています。

言ってみれば、宇宙飛行士はパンパンに膨らませた風船(=宇宙服)の中にいるようなものなのです。この空気で膨らんだ宇宙服を着て作業しようとすると、圧力に抗して腕を曲げ伸ばししたり、手を握ったりしなければなりません。作業に際しては、宇宙ステーションの外壁に備え付けられたハンドレールを伝って、ゆっくりと移動するのですが、見た目とは違って、実は、握力トレーニングのためのハンドグリップを繰り返し握るような負荷がかかっています。

安全索をかけたり外したり、道具箱から様々な道具を取り出したりしまったり、作業のためにネジまわしのドリルをまわしたり、故障した装置を取り付けたり、取り外したり、別の場所に運んだりと、6時間の作業は休む間もなく続けられます。その都度、体の姿勢を変えたり、腕を曲げたり、伸ばしたり、手を握ったりしていますので、その間、いわばずっと筋肉トレーニングを続けるようなものなのです。

訓練が始まってしばらくは元気でも、時間とともに疲れてくると、握力がなくなって、単純な作業でさえ難しくなってきます。ましてや複雑で難しい作業は、何度トライしてもうまくいかないこともあり、つらい姿勢で長時間何度も同じことを繰り返さないといけません。恥ずかしながら自分のことを正直に告白すると、疲労が増してくるに従って、訓練の途中で不機嫌になってイライラしたり、自分に腹立たしくなってしまうこともよくあります。また、作業中は、パートナーの宇宙飛行士や、サポート役のエンジニア(訓練では、プールの外のインストラクター)と常に無線交信を続けないといけないのですが、これもだんだん言葉が少なくなったり、英語の使い方が正確ではなくなったりしてきます。

写真:NASAでのプールを使用した船外活動訓練の様子

宇宙飛行士候補者として初めて宇宙服を着てプールに潜ったときには、最初の一、二時間で体力が尽きてしまったり、与えられた作業を全てこなせずに訓練時間が終わってしまったりと、悔しい思いを何度も繰り返してきました。実は、星出宇宙飛行士の3回目の船外活動の数日前に、たまたま古川飛行士とペアを組んでEVA訓練を行う機会があったのですが、いつまでも働き続ける体力、一発で作業を成功させる正確性、訓練後半になっても衰えない周囲の気配りなど、とてもかなわないと感じさせられました。古川飛行士以外にも、日本人、アメリカ人を問わず先輩のベテラン宇宙飛行士と何回も一緒に訓練させていただいていますが、最初の頃は、技術の違い、体力の違い、経験の違いがあるからしょうがないと、単に実力の違いとあきらめているところがありました。

しかし、訓練のなかでいろいろ失敗して反省を重ねるうちに、「セルフ・アセスメント」がキーとなるのではないかと、最近、思い始めています。どんなに体力のある人でも、人間ですから、長時間作業していれば疲れるのは当たり前です。大切なのは、自分の状態を客観的に評価しつつ、いかに与えられた任務をこなすかという点です。難しい作業を一人で行ってうまくいかなければ、パートナーに助けを求める必要があるかもしれません。疲れてイライラしているなら、目の前の作業を一時中断して、冷静さを取り戻す必要があります。訓練も後半に入ってきて疲労が増していると思えば、努めて元気な声を出し、パートナー同士で気遣うことを心がけないといけないですし、ときにはジョークを飛ばし合って、明るい雰囲気を保つことも大切かもしれません。自分がパーフェクトではないという現実を受け入れて、その上で行動を選択することが、結果的には最良の結果が得られるのではないかと、最近になって考えるようになってきました。

先輩方のように上手にはできないかもしれませんが、自分の能力を過大評価して、重要な作業を失敗したり、宇宙ステーションに取り付ける貴重なスペアの機器を壊しては元も子もありません。刻々と変わりゆく状況に対応しながら、今の自分に何ができて、何ができないのかを冷静に判断し、作業の目的をもっとも効率的に達成するためにはどうするべきかに知恵を絞ります。体力だけでなく、判断力や頭の回転が試される作業でもあり、訓練を繰り返して興味が尽きません。

「船外活動」訓練の面白さは、何も訓練の内容そのものだけではありません。わたしが宇宙飛行士になる前の仕事は、海上自衛隊で潜水作業をするダイバーの健康管理をすることでした。宇宙服を着て宇宙に出るのと、潜水器をつけて海に潜るのと、不思議な類似性があります。

・・・と、さらに船外活動の話は続くのですが、掲載する紙面をすでに大幅にオーバーしてしまいましたので、続きは次の機会にさせていただきたいと思います。

※写真の出典はJAXA/NASA


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