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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポート 2013年8月

最終更新日:2013年9月24日

JAXA宇宙飛行士の2013年8月の活動状況についてご紹介します。

若田宇宙飛行士、緊急事態を想定した訓練などを実施

国際宇宙ステーション(ISS)の第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、8月前半はロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)で、8月後半は米国のNASAジョンソン宇宙センター(JSC)でISS長期滞在に向けた訓練を行いました。

GCTCでは、ISS長期滞在をともにするロシアのミハイル・チューリン宇宙飛行士と、NASAのリチャード・マストラキオ宇宙飛行士と一緒に、ISSのロシアモジュールやソユーズ宇宙船の運用において火災や急減圧などの緊急事態が発生した場合に備えた訓練を行いました。

火災に見立てた煙が立ち込める中、冷静に対処にあたる若田宇宙飛行士らクルー(出典:JAXA/GCTC)

ロシアモジュールで火災が発生したことを想定したシミュレーションでは、実物大のロシアモジュールの訓練施設を使用し、コマンダーである若田宇宙飛行士の指揮の下、3人で協力しながら対処にあたる訓練を行いました。クルーは、消火活動の手順や、鎮火できなかった場合にソユーズ宇宙船に退避してISSから緊急帰還する手順を実習し、緊急事態の対処手順の理解やチームワークをより一層深めました。この訓練の模様は報道関係者に公開されました。同日に行われた記者会見では、ミッションに向けた準備が順調に整ってきていることを若田宇宙飛行士が報道関係者に報告しました。

若田宇宙飛行士はこの他に、ロシアモジュールで急減圧が発生したことを想定した対処訓練や、ソユーズ宇宙船が弾道モードで帰還する際にクルーが体感する重力を遠心加速器で模擬し、8~9Gの加速度が身体にかかる環境の中でソユーズ宇宙船の機器を操作する訓練などを行いました。

船外活動の準備手順を訓練する若田(右)、マストラキオ(左)両宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)

JSCでは、船外活動に関連する訓練や、ISS滞在中に行う実験とISSのシステムに関連する作業について打ち合わせを行いました。また、ISSの「きぼう」日本実験棟や、米国、ヨーロッパ側の各モジュールで火災や急減圧、有毒物質漏れなどの緊急事態が発生したことを想定した訓練も実施し、報道関係者にこの模様を公開しました。8月28日には、第38次/第39次長期滞在クルー3名が揃って記者会見に参加し、飛行準備が万全であることやミッションの抱負などを集まった報道関係者に語りました。

油井宇宙飛行士はISS長期滞在に向けた訓練を継続

国際宇宙ステーション(ISS)の第44次/第45次長期滞在クルーである油井宇宙飛行士は、8月上旬はNASAジョンソン宇宙センター(JSC)で訓練を行い、8月後半はロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)で訓練を行いました。

訓練用の宇宙服をNBLのプール脇で着用する油井宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)

JSCでは、船外活動を模擬した訓練や、船外活動で着用する船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit: EMU)についての講義を受けました。船外活動を模擬した訓練は無重量環境訓練施設(Neutral Buoyancy Laboratory: NBL)で行われ、油井宇宙飛行士は、自身と同じく第44次/第45次長期滞在クルーに任命されているNASAのチェル・リングリン宇宙飛行士と一緒に、ISSの実物大の訓練施設が沈められているプールに訓練用の宇宙服を着て潜り、ISSの船外機器のメンテナンス作業に必要となる技術を学びました。船外活動に関連する訓練以外に、ISS船内での運用に関わる訓練を行い、実験機器やシステム機器が搭載されたラックを移動する方法や、ISSの各モジュールの結合部に備えられているハッチが故障した場合の対処法などを確認しました。

GCTCでは、ソユーズ宇宙船のドッキングシステムや姿勢制御システム、帰還時の降下を制御するシステムなどについて講義を受け、シミュレータを使用して実習しました。

野口宇宙飛行士、SEATEST訓練の事前準備に参加

野口宇宙飛行士は、9月から始まるNASAのSEATEST訓練(Space Environment Analog for Testing EVA Systems & Training)に備えて、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)で、SEATEST訓練の概要や、5日間にわたり滞在することになる海底実験施設(アクエリアス)について講義を受けました。

SEATEST訓練は、NASA極限環境ミッション運用(NASA Extreme Environment Mission Operations: NEEMO)訓練で使用しているアクエリアスを用いて、将来の有人宇宙探査等における船外活動に向けた技術評価等の実施を目的にするとともに、このような活動を宇宙ミッションに類似した極限環境下で行うことを通じて、国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在に必要なチームワークの向上を目指すものです。

「こうのとり」4号機(HTV4)ミッションを支えたJAXA宇宙飛行士の活動

8月4日午前4時48分、国際宇宙ステーション(ISS)の補給物資を搭載した宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機が、種子島宇宙センターから打ち上げられました。

「こうのとり」4号機の打上げに合わせて、事前に古川宇宙飛行士が現地入りし、打上げの取材に訪れた報道関係者に対して「こうのとり」の国際貢献に関する解説を行ったほか、打上げ直前の状況をレポートするなどの広報対応にあたりました。また、「こうのとり」の愛称を提案した一般の方を打上げ見学に招待するイベントにおいては、JAXAを代表して古川宇宙飛行士が一般の方に記念品を贈呈しました。

CAPCOMを務める大西宇宙飛行士(奥)(出典:JAXA/NASA)

「こうのとり」が打ち上げられてからおよそ6日後、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)では、ISSのロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System: SSRMS)に把持された「こうのとり」4号機をISSに結合させる運用を行う時間帯に、大西宇宙飛行士が、NASAの飛行管制官の一員として軌道上のクルーとの交信担当(CAPCOM)を務めました。大西宇宙飛行士はISS長期滞在に向けた訓練をJSCで行う傍ら、NASA宇宙飛行士室の業務の一環でISSとの交信担当を務めています。大西宇宙飛行士は、NASAの飛行管制官とISSに滞在するクルーのコミュニケーションの窓口を務め、「こうのとり」4号機ミッションの成功に貢献しました。


油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」

※金井宇宙飛行士の「宇宙飛行士・修行日誌」は、今月は休載いたします。

皆さんいつも私達の日記を読んでいただき、どうも有難うございます。

ツイッターを読んでくださっている方は「ロシアでのとっておきの話題とは一体何だろう?」と少し期待してくださっているかもしれませんね。また、私はロシアの事を書くことが多いと思われる方も多いかもしれません。実は、その通りで、少し意図的にロシアについての日記を多く書く事にしているのです。それは、日本に住んでいる皆様には、アメリカの情報よりも、ロシアの情報の方が入りづらくて、貴重ではないかと思っているからなのです。

予告したとっておきの話題とは、モスクワで行われたあるイベントについてです。今回の訓練期間中、私は幸運にもМАКС(マックス)と呼ばれる国際航空見本市を見学する事が出来ました。車に興味のある方は、モーターショーに行く事もあるかと思いますが、その航空宇宙版といった感じのイベントです。また、自衛隊の航空祭的な面もあり、沢山の航空機の飛行展示も行われます。勿論、私の訪問の主目的は、ヨーロッパの宇宙機関であるESAとロシアの宇宙協力について学んだり、ロシアの次期宇宙船を見学したりすることでした。でも、ついつい航空機に目が行ってしまうのは、きっと私の前職のせいでしょうね。首から下げた一眼レフカメラで、一心不乱に航空機やその装備品の写真を撮る日本人の姿は、きっとかなり怪しかったのではないでしょうか(笑)?

写真:お天気は、最高でした!この他の日は、天気が悪かった様です。本当に幸運でした!

お天気は、最高でした!この他の日は、天気が悪かった様です。本当に幸運でした!

私が今から約20年前に初めて渡米した際に感じたのは、日本を圧倒する国力でした。(米国は、多くの国々の軍から留学生を招待していました。その直接的な目的は、勿論、米軍の戦略・戦術或いは、航空機の操縦等の知識・技能を学んでもらい、お互いに協力して仕事をしやすくする事だとおもいます。でも、それ以上に、将来各国の軍で重要な地位を占める人材を米国で育成すると共に、その人達に米国の圧倒的な国力を見せつけて、米国と戦う気を削ぎ、味方にする事では無いかと思ったものです。)

そして、今、ロシアでも同様の印象を受けます。ロシアの国力は強力です。それを、このМАКСで垣間見ることが出来ました。戦闘機をはじめとする兵器の性能は、圧倒的に日本に優っています。その性能を実際に目にしてしまうと、やはり日本の事が少し心配になってしまいます。しかし私は現在、国際宇宙ステーションに携わる一員として、日々ロシアで訓練を受けています。そして、その訓練を受ける中で、ロシアの方々と直接触れあい、ロシアの宇宙開発だけでなく、文化や歴史も同時に学んでいます。さらに訓練に全力を尽くすことで、私を通じて日本人の気質や国民性を、ロシアの方々に理解して頂こうと努力しています。前回の日記にも書きましたが、その様な相互理解の努力を行うことにより、日本・世界の平和と安全を高めていければ良いと思いながら、頑張っているのです。

さて、難しい話は少しまた後にするとして、今回の見本市で私が具体的に何を見学したか、もう少しお話しましょう。見本市の会場はとても広くて、とても一日で全てを見学できるようなイベントではありませんでした!ですから、興味のある装備品を優先的に一生懸命見学させて頂きました。前職が戦闘機乗りで、テストパイロットですから、装備品を見る目もどうしても専門的になってしまうのです。特に、ミグ、スホーイ、ツポレフ、カモフの戦闘機、爆撃機、ヘリコプター等は、以前から見学したかった航空機ですから、つい細かいところまで分析してしまいます(苦笑)。「これが、○○だな。性能は、○○と聞いていたが…」「ここにその装備品が、ついているといる理由はきっと○○だな。でも、航空力学的には、○○という影響がでそうだな…」などと考えながら、写真をとっていました。さらに、展示飛行では、航空機に目が釘付けで、「おおこれが、あの有名な○○という機動か!これは、○○が装備されているからできるんだよな…」「この航空機に対抗するには、○○が必要だな…」などとつい考えている自分に気づき、「おっと、今の自分の仕事はこれじゃなかった!」と反省しました(笑)。

こんな事ばかり嬉しそうに書いていると、本来の仕事をしてきたのかと、疑問に思われてしまいますね。ご安心を!しっかり本来の仕事もしましたよ(笑)。ヨーロッパとロシアの宇宙開発分野の協力関係は距離が近い上に、既に20年以上の歴史を持っているだけあって、私が想像した以上に多くの協力が行われていました。様々な文化の違いはあるとはいえ、相互理解に努め、相互の良いところを出しつつ協力を行っており、本当に素晴らしいと感じました。繰り返しになってしまいますが、その様な協力を行い相互理解を深めることが、どれだけ平和に貢献しているか考えれば、単なる宇宙開発分野の協力に限らない、多くの成果を挙げている事になります。一方で、日本とロシアの宇宙開発分野での協力は始まったばかりで、今後の発展の余地があるように感じました。

また、ロシアが開発中の次期有人宇宙船のモックアップ(実物大模型)に乗込み、内部のデザインを見学する事が出来ました。操縦桿のデザインや情報の表示方法も、米国とは少し異なっていて、どちらが使いやすいか個人的に評価することも出来ました。(すぐ評価をしたくなるのも、以前テストパイロットだったからだとおもいます…)

※写真の出典はJAXA

ただ、実際のところ今回の航空見本市でも、多くの人々の目を惹いていたのは、戦闘分野の展示です。各国とも戦闘機、戦闘ヘリコプター、ミサイル、搭載電子機器に多くの予算と最新技術を投入しており、その売込みにも力が入っていました。皆さんは、そんな戦争の道具にお金を使うなんて、理解出来ないとお考えですか?世界平和の実現という理想だけをみれば、確かにその通りかもしれませんね。でも、夢を叶えるためには、まず理想を踏まえた上で、現実を直視するという活動が不可欠なように、世界平和という理想を実現する為には、しっかりと厳しい現実を直視する必要があるのです!

兵器を開発する事と宇宙開発分野での協力を進める事、どちらが良いとか悪い、どちらを優先すべき等という単純な問題では無いのです。どちらも、平和を保つ為には重要であるというのが、現実なのです。

私が、自分で恵まれていると思うのは、その厳しい現実を知った上で、世界の平和の為に働くことが出来る事なのです。個人の夢を叶えるのと同様に、現実を知った上で、理想を見つめて努力しないと、単なる理想論や机上の空論になってしまいますからね。自分で言うのも何かと思いますが、最近は私ほど平和を保つ方法に詳しい人は、日本にはあまりいないような気がします。(自惚れかもしれませんね)

2015年に予定されている私の長期滞在では、ISSでの実験や機器のメインテナンス等の活動を成功させるのはもちろんですが、少し視点を広げ、ISSの存在意義を考えた上で立派な仕事が出来る様に頑張りたいと思っています。今後とも応援の程よろしくお願いします。

(最後に「とっておきの話」に対する、私の妻の反応です…)

妻「この話の何処がとっておきなの?難しすぎて良く分からない!」
私「それじゃどんな話なら良かったの?」
妻「例えば、モスクワのレストランの料理の話とか!」
私「…(それって、宇宙と関係ないでしょ(苦笑)。でも、書き直す時間は無いし…写真を沢山つけて許してもらおう!)」

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スホーイ35とミグ29の展示飛行は、本当に素晴らしかったです。私もF-15で展示飛行をしていた頃の事を懐かしく思い出しました。

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地上展示も本当に充実していました!全てをお見せできないのが、とても残念です。

妻:「普通の人は、こうゆうのには興味ないから!」

私:「そんなことないだろ?綺麗じゃない?」

(期待して下さっていた皆様、本当に申し訳ありません…)



【前回のあらすじ】種子島宇宙センターから打ち上げられた宇宙ステーション補給機HTV(愛称:こうのとり)の4号機は順調に飛行を続け、グリニッジ標準時8月9日10時半頃、国際宇宙ステーションISSの下方30mまでやってきました。詳しくはこちらを。

アメリカ・ヒューストンのジョンソン宇宙センター内にあるミッションコントロールセンター。その中にあって24時間365日ISSの運用を続けているFCR-1(通称:フィッカー1)と呼ばれるコントロールルームには複数のコンソールが設置されていて、それぞれに略称が定められています。私がマイク・フィンク飛行士と共に座っているのがISSとの交信役を務めるCAPCOM(キャプコム)コンソール、その左隣にはFCR-1の責任者でありISS運用の指揮を執るISSフライトディレクターの座るFLIGHT(フライト)コンソールがあります。

写真:キャプチャの交信を担当したマイク・フィンク飛行士(写真はHTVのISSからの離脱時のもの)

キャプチャの交信を担当したマイク・フィンク飛行士(写真はHTVのISSからの離脱時のもの)(出典:JAXA/NASA)

ISSフライトディレクターとは直接会話が可能な近さですが、他のコンソールとやり取りする際には、音声回線を使用します。コンソールに設置された装置で、色々な回線で交わされる会話を同時に聴く事が可能なのですが、私がつくばのHTV管制チームが使用している回線を選択すると、親しみのある日本語での交信が聞こえてきました。その交信の中心になっているのが、今回のHTV4号機のリードフライトディレクター、前田真紀さんです。

今日のこの日のために、NASAとの様々な調整、管制チームの事前訓練、運用手順の準備などを取りまとめてきたHTV運用の現場の責任者です。ちょうどこの何週間か前に、最終的な調整のためヒューストンを訪れた前田さんとお話しする機会があったのですが、ミッションを直前に控え「緊張する」と語っていたのが嘘のように、落ち着いて凛とした声です。

ISS下方30mに到着したHTVの、ISSへの最終的な接近に向けた準備が続いています。キャプコムのマイクからはISSの宇宙飛行士へ、HTVキャプチャに向けたロボットアーム操作卓のセッティングに関する指示が出されました。コントロールルーム内の複数のスクリーンは全てISSの船外カメラの映像の中継に使用されているので、私たちからは直接クルーの姿を見ることはできませんが、今頃ISSでは実際のキャプチャを担当するカレン・ナイバーグ飛行士をはじめとする3名の宇宙飛行士が、指示に従ってロボットアーム操作卓のセットアップ、キャプチャ手順の再確認などを行っているはずです。

手順書に定められた通り、1つ1つの項目がしっかりと確認されていきます。私が何度も参加した管制チームの訓練では、このあたりは訓練教官チームの格好の標的で、突然ISSの電気系統の一部がシャットダウンしたり、ロボットアームの操作に必要なカメラが故障したりといった『不測の事態』が起きやすく、キャプチャを実現しようとする管制チームとそれを妨害せんとする訓練教官チームがしのぎを削る時間帯なのですが、さすがに実際の世界ではそのような不具合はそうそう起こるものではなく、静かに時間が流れていきます。

厳しい訓練を乗り越えてきた自信が、コントロールルーム全体にみなぎっているようです。つくばのHTV管制チームも、きっと同様でしょう。

やがてクルーから「準備完了」の連絡があり、地上の確認も終わったところで、HTVのISSへの最終的な接近が開始されました。すなわちISS下方約10mのポイントへ向けた接近です。このポイントで実際のキャプチャが行われます。

金色に輝くHTVの機体がスクリーン上で徐々に大きくなってきました。先月のコラムでも少し触れましたが、HTVが高度の異なるISSに向けて直線的に接近していくのは実は大変なことなのです。この間、HTVの推進装置は小刻みに噴射を繰り返しているはずですが、とてもそうは思えないほど、スクリーン上では安定しているように見えます。コントロールルームでもここはただ見守るだけなのですが、私はHTVの精密な接近っぷりにただただ見とれていました。こんなことが可能な日本の技術はすごい、と正直に思いました。管制官の中にも、カメラを取り出してスクリーン上のHTVを写真に収めようとする人が何人もいます。感嘆の声が聞こえてきます。世界の宇宙開発をリードしてきたNASAのスペシャリストたちが、日本の宇宙機を固唾を飲んで見守っているのです。私はこの光景を日本中の人々に見てもらいたいと思いました。

少し余談になりますが、軌道力学というものについて簡単に触れさせてください。

ISSやHTVをはじめとする宇宙機は、基本的に地球を中心とする円に近い軌道を飛んでいます。

難しい計算は置いておいて要点をかいつまむと、このとき地球により近ければ近い(高度が低い)ほど宇宙機の飛行速度は速く、遠ければ遠い(高度が高い)ほどゆっくりになります。

これをISSとHTVの関係に当てはめて考えると、ISSの下方にいるHTV、つまり低い軌道にいるHTVの方がISSよりも飛行速度が速いのです。これはどういうことかと言うと、つまり放っておくとHTVはISSよりもどんどん前へ前へ行こうとするわけです。従って、ISSに向けて下方から直線的に近づこうとする場合、このどんどん前へ行こうとするのを抑えてやる方向に推進装置を小刻みに噴射してやる必要が出てくるのです。

話が小難しくなりました(汗)。でもこれで、HTVがやっていることの技術的な難しさというものを少しでも感じて頂ければ幸いです。それに、今回は意図的にシンプルにしましたが、軌道制御というのは本当はもっともっと複雑なのです!

先月のアンケートでこの辺りの話をもっと聞きたいという読者の方の声もありましたので、今回特別に私の友人でHTV3号機のリードフライトディレクターを務めた内山崇君に寄稿してもらいました。少し突っ込んだ話もありますが、めちゃくちゃ面白い内容になっています。私自身、とても勉強になりました。

内山フライトディレクターによる特別寄稿『HTVは何故地球側からISSへ接近するのか?』はこちらです。忙しい中、どうもありがとう!

・・・さあ、それでは本題に戻りましょう。

11時10分、ついにHTVがキャプチャのポイントまで到達しました。ISSとの距離はわずか約9m、もう指呼の間です。コントロールルームの中央のスクリーンには、ロボットアームの先端に付いているカメラからの映像が映し出されていて、HTVが画面いっぱいに映っています。そしてその中心近くには、ロボットアームが掴まえるピンがしっかりと捉えられています。このピンはHTVの機体表面に取り付けられているのですが、これをロボットアームの先端に引き込むことによって、キャプチャが行われるわけです。

HTVの動きを肉眼でスクリーン上で確認するのはほぼ不可能です、それだけ見事に静止しています。私の脳裏に去年受けたロボットアーム訓練の記憶が蘇ってきました。

画面上、大きく動き回るHTVをロボットアームで追いかけてキャプチャする訓練・・・、あの訓練でのHTVはさながら暴れ馬のようでした(訓練の模様はこちらを参照)。それが現実のHTVはどうでしょう。あたかも正座してキャプチャされるのを待っているかのような、何というお行儀の良さでしょう。

ISSにいるカレン飛行士もあの訓練を受けているはずです。そしてその訓練を乗り越えてきたという自信が、この本番という緊張の中で支えになってくれていることでしょう。

既にいつもの分量をはるかに超えるボリュームになってしまっています。しかし、ここでまた「来月に続く!」とやってしまうと、苦情が殺到しそうなのでこのまま行きます!それにしても、一体どれだけの方々が私たちのコラムを読んで下さっているのでしょう?苦情が殺到するほど、多くの方が読んで下さっていればいいのですが・・・

それはさておき。いよいよHTVのキャプチャも大詰めです。

ここでつくばのHTV管制チームから1つのコマンドが送信されます。先ほど、HTVにはピンが取り付けられていてロボットアームでそれを掴むと話しました。実はそのピン自体をHTV本体から切り離す機能が実装されているのです。ピンをロボットアームに引き込む過程で何らかの不具合が生じて、キャプチャを続行できなくなったとき、通常はキャプチャを中止して掴んでいるピンを放すのですが、それすら出来ないような不測の事態が生じた場合にロボットアームが損傷するのを防ぐ最後の砦として用意されている機能です。

ピンの切り離しが意味するもの、それは「HTVミッションの終了」に他なりません。HTVを2度とキャプチャ出来なくなるからです。

それだけ重大な意味を持つ恐ろしい機能なので、通常はこの機能自体が無効化されています。それを、キャプチャを開始する直前に有効化することになっているのです。

そのキャプチャ前最後の地上からのコマンドが送られました。引き続いて、HTV側とISS側双方のコントロールルームで、キャプチャに向けた最終判断が実施されます。程なくしてHTVフライトディレクターの前田さんが、音声回線を通してISSフライトディレクターへ告げました。

「HTV is GO for capture.」(HTVはキャプチャへ向け準備完了です)

双方の「GO」を受けて、キャプコムのマイクからISSのクルーへキャプチャの開始が告げられました。ここまで来ると、あとは地上からはただただ状況を見守るだけです。クルーが1つ1つ手順を実施していくのを、担当の管制官たちが注意深くデータを観察することによって、音声回線で報告していきます。その声以外、コントロールルームは水を打ったような静けさです。

「ロボットアームの手動モードへの切り替えを確認」

「ISSの姿勢制御モード変更を確認」

「HTVフリードリフトモードへの移行準備を確認」

みな食い入るようにスクリーンを見つめています。そしてついに、

「ロボットアームの動作が開始されました」

中央のスクリーンに映し出されているロボットアーム先端のカメラからの映像で、ゆっくりとアームが動き始めたのがわかります。どうやらカレンは、まず上下左右方向のズレを合わせにいっているようです。きっちりとHTVに正対させてから、距離を詰めようという狙いでしょう。・・・と、その時です。

ISSからの映像を映しているスクリーン全てが青一色の画面に変わりました。

実はISSと地上を結ぶ通信回線は、24時間常に高速で確立されているわけではなく、通信が全く出来ない時間帯もあれば、時には低速データ通信しか利用できない時間もあります。これは使用しているアメリカの通信衛星網の利用枠が限られている為で、通常HTVのキャプチャが行われるような日には優先的にISSが使用できるように事前調整がなされているのですが、それでも常時高速データ通信が確保出来るわけではないのです。

その、高速データ通信が使用できない時間帯にかかった為に、映像中継が届かなくなったのでした。

もちろん、このことは管制チームにとって予想されていたことだったのですが、手順が予定よりも少し前倒しで進んでいたこともあり、「もしや、このままキャプチャまでライブで観られるかも・・・」という淡い期待があったのも事実です。

即座に、ISSフライトディレクターからスクリーンの表示をコンピューターグラフィックスに切り替えるよう指示が出されました。映像は届きませんが、依然として運用に必要なデータは低速通信で届いているので、ロボットアームの位置などは地上から把握できるようになっています。そのデータをCGで表現した、つまり仮想の中継映像を映し出そうというわけです。

すぐにスクリーン上にはHTVと、それに向かってゆっくりと近づいていくロボットアームのCGが映し出されました。

しかしその光景の味気なさと言ったら・・・。例えてみれば、野球中継で9回裏2死満塁の1点を追う展開で、4番打者がバッターボックスに入ったところで中継の時間が終わってしまったような感じでしょうか。さらに言えば、そのバッターがその後ホームラン性の大飛球を打って、アナウンサーが「大きいー、これは大きいぞーーーーっ!!」と絶叫しているのをラジオで聞いているような・・・・こればっかりは致し方ありませんね(^^;)

一番大事なことは、HTVをキャプチャすることですから。

そんな地上での一幕など知る由もないクルーは、その直後の11時22分、見事にHTVをキャプチャしたのでした。

「ピンのロボットアームへの引き込みを確認」

ロボットアーム担当の管制官の声が、キャプチャの成功を告げています。ヘッドセットからは拍手に沸くHTV管制チームの様子が聞こえてきます。その歓喜の輪の中心には、ほっと安堵の笑顔を浮かべた前田さんがいるに違いありません。

写真:キャプチャ成功を喜ぶ前田HTVフライトディレクター(写真中央)

キャプチャ成功を喜ぶ前田HTVフライトディレクター(写真中央)(出典:JAXA)

私は心の中でつくばの同僚たちの見事な仕事っぷりに拍手喝采を送りながら、これから先のHTVのISSへの結合を担当する第2シフトの一員として、気を引き締めなおしたのでした。

私たち第2シフトのチームにとっては、第1シフトがキャプチャしたHTVを安全にISSへ結合させることが任務であり、9時間に及ぶシフト勤務がまさにこれから始まろうとしていたのです。

【当日のキャプチャの模様は、こちらの動画でご覧頂けます。】


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