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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポート 2013年7月

最終更新日:2013年8月16日

JAXA宇宙飛行士の2013年7月の活動状況についてご紹介します。

若田宇宙飛行士、ISS長期滞在に向けた訓練を実施

国際宇宙ステーション(ISS)の第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、7月前半はNASAジョンソン宇宙センター(JSC)で、7月後半は日本に帰国して筑波宇宙センターでISS長期滞在に向けた訓練を行いました。

JSCでは、船外活動訓練やロボットアームの操作訓練、ISSでの緊急事態発生を想定した訓練などを行いました。

船外活動に関わる訓練では、JSCの無重量環境訓練施設(Neutral Buoyancy Laboratory: NBL)にあるISSのモックアップ(実物大の訓練施設)が沈められているプールに訓練用の宇宙服を着用して潜り、ISSの船外機器のメンテナンス作業を模擬した訓練を行いました。

ロボットアームについては、キューポラに設置されているロボットアーム操作卓でSSRMSを操作し、ISSに接近した補給船を把持する運用を訓練しました。キューポラは、SSRMSの操作卓とISSの船外を見渡すことができる大きな窓を備えており、ISSの地球側に設置されています。訓練は、ドーム型のスクリーンに囲まれたキューポラのシミュレータを使用して行われ、スクリーンにISS船外の視野を模擬したCG映像が映し出される中で行われました。


写真:第37次/第38次長期滞在クルーの訓練終了を祝うセレモニーの様子

第37次/第38次長期滞在クルーの訓練終了を祝うセレモニーの様子(出典:JAXA/NASA)


写真:緊急事態の対応訓練の様子

緊急事態の対応訓練の様子(出典:JAXA/NASA)

ISSのモックアップで行われたISS滞在中の緊急事態を想定した訓練には、第38次および第39次長期滞在クルーのそれぞれ6名全員で臨みました。訓練は、火災、急減圧、空気汚染を想定して行われ、クルー全員で協力しながら緊急事態への対処にあたり、手順の理解やチームワークを深めました。第39次長期滞在クルーの緊急事態対応訓練はコマンダーとしてのリーダーシップが試される重要な訓練でした。また、訓練には大西宇宙飛行士が立ち会い、緊急事態発生時のコミュニケーションの取り方や対処方法など、多くのことを経験豊富な宇宙飛行士から学びました。

7月上旬には、第37次/第38次長期滞在クルーがJSCでの公式訓練を終了したことを関係者で祝うケーキカットセレモニーが行われ、若田宇宙飛行士ら第38次長期滞在クルーの6名も参加しました。


写真:実験に関わる訓練を行う若田宇宙飛行士

実験に関わる訓練を行う若田宇宙飛行士(出典:JAXA)

7月下旬に日本に帰国した後は、筑波宇宙センターで「きぼう」日本実験棟に関わる訓練を行いました。「きぼう」のスペシャリストとして、「きぼう」の機器が故障した場合や、「きぼう」で何かしらの異常が発生した際の対処に必要不可欠な知識・技術を復習したほか、ISS滞在中に計画されているシステム運用について訓練を行いました。また、「高プラントル数流体のマランゴニ振動流遷移における液柱界面の動的変形効果の実験的評価(Dynamic Surf)」「植物の重力依存的成長制御を担うオーキシン排出キャリア動態の解析(CsPINs)」タンパク質結晶生成実験(JAXA PCG)「国際宇宙ステーションに長期滞在する宇宙飛行士の筋骨格系廃用性萎縮へのハイブリッド訓練法の効果(Hybrid Training)」などの実験テーマについても訓練を行いました。


写真:緊急事態の対応訓練の様子

記者会見の様子(出典:JAXA)

今回の帰国は、若田宇宙飛行士にとってISS長期滞在前最後の日本滞在となりました。訓練のほかに、今回の帰国に合わせて記者会見を筑波宇宙センターで行いました。記者会見では、冒頭で若田宇宙飛行士が自身のミッションについて紹介した後、質疑応答が行われました。第39次長期滞在においてコマンダーを務めることから、それに関連した質問が多く寄せられました。質問に答える中で若田宇宙飛行士は、これまでに積み重ねてきた訓練を通してチームワークがしっかりと形作られてきたことや、ミッションへの意気込みなどを語りました。

油井宇宙飛行士、ISS長期滞在に向けた訓練を実施

国際宇宙ステーション(ISS)の第44次/第45次長期滞在クルーである油井宇宙飛行士は、6月に続き、7月上旬はロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)で、ソユーズ宇宙船に関わる訓練を実施しました。

油井宇宙飛行士は、ソユーズ宇宙船のISSへのランデブ運用や、生命維持システム、ISSとの結合部の気密をチェックするシステムについて講義を受け、シミュレータを使用した実習を行いました。

7月中旬には一時日本に帰国しました。今回の帰国中の活動は、ISS長期滞在に向けて関係者との打ち合わせが主だったものでした。

7月下旬には米国へ移動し、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)でISSに関わる訓練を再開し、ISSを運用していく上で必要になるシステムや機器の知識に加え、ISSを取り巻く宇宙放射線の環境などについて学びました。T-38ジェット練習機での飛行訓練や語学訓練も継続して行いました。

ドイツで第26回世界宇宙飛行士会議が開催

7月1日から5日にかけて、ドイツのケルンで開催された第26回世界宇宙飛行士会議に、JAXAから、向井、野口、星出宇宙飛行士の3名が参加しました。"Citizens of Space - Stewards of Earth"と題した第26回世界宇宙飛行士会議は、環境問題や技術革新をテーマに行われました。

世界宇宙飛行士会議は、世界各国の宇宙飛行士によって構成される宇宙探検家協会(Association of Space Explorers: ASE)が開催する会議で、およそ年に一度のペースで開催されています。ASEは、宇宙開発への貢献や有人宇宙活動の国際協力はもとより、科学技術教育の促進、環境問題の意識増進なども目的に活動しています。


写真:セッションの様子

セッションの様子(出典:JAXA)


写真:星出宇宙飛行士がISSの活動報告を行う様子

星出宇宙飛行士がISSの活動報告を行う様子(出典:JAXA)

本会議において、国際宇宙ステーション(ISS)計画に参加する各極の活動報告を行うセッションに、JAXAを代表して星出宇宙飛行士が登壇しました。"International Space Programs - Year in review"と題したこのセッションは、ASEの常任理事である野口宇宙飛行士が開会の挨拶を述べました。星出宇宙飛行士は、自らが携わった船外活動や「きぼう」日本実験棟で実施した小型衛星放出技術実証ミッションの話題などを含め、昨年1年間のISSでの活動を報告しました。


油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」


皆さん、こんにちは。7月は、私も久しぶりに日本に帰国する機会がありました。勿論、日本で仕事をするのは非常に楽しくて、やりがいがあります。一方で、日本に帰国した際に思うのは、「私達の仕事の内容やISS(国際宇宙ステーション)での成果が、日本の皆様方に十分に伝わっていないのではないか?」という事です。いつも申し上げている様に、ISSに参加している国々からは、日本の技術力、「きぼう」や「こうのとり」の運用能力、飛行士や管制官に対する訓練の質などが非常に高く評価されています。ですから、日本でISSの存在意義や、将来の有人宇宙活動への投資について疑問が投げかけられる度に、私達が説明責任を果たしていない事を痛感し、本当に申し訳ない気持ちになります。

ISSの成果は沢山あるのですが、比較的皆様方に知られているのは、私が大好きな全天X線監視装置「MAXI」によるX線新星の発見や高品質なタンパク質結晶等ではないでしょうか?ただ、それらの一般に知られている成果以外にも、「きぼう」のモジュールで培った、有人宇宙開発技術やHTV「こうのとり」やH-IIBと言った宇宙船やロケットの技術、さらにそれを運用する技術やノウハウも蓄積されています。何より、それらの予算は、日本国内で使用され、雇用を生み出しつつ、最先端の技術を磨くという成果をあげています。

写真:全天X線監視装置 MAXIは、ISSの中でも最も大きな成果をあげている装置の一つです。4年間で12件ものX線新星を発見し、世界のX線宇宙観測に大きく貢献しています。(従来は、年間で1個発見のペースでした。)

全天X線監視装置 MAXIは、ISSの中でも最も大きな成果をあげている装置の一つです。4年間で12件ものX線新星を発見し、世界のX線宇宙観測に大きく貢献しています。(従来は、年間で1個発見のペースでした。)

写真:微小重力下でたんぱく質の結晶を作ると、質の高い結晶が出来、細部まで結晶構造を解析できます。これによる新薬や新しい触媒の開発等が期待されています。1サンプル当たりの単価も比較的低いので、多くの国々が実験に参加できる可能性もあります。現在は、ロシア、マレーシアが実験に参加しているのですが、今後もっと多くの国々と共同で研究が出来ると良いですね。

微小重力下でたんぱく質の結晶を作ると、質の高い結晶が出来、細部まで結晶構造を解析できます。これによる新薬や新しい触媒の開発等が期待されています。1サンプル当たりの単価も比較的低いので、多くの国々が実験に参加できる可能性もあります。現在は、ロシア、マレーシアが実験に参加しているのですが、今後もっと多くの国々と共同で研究が出来ると良いですね。(写真の出典はJAXA)

ここまでの話は、宇宙開発に興味のある方々にとっては、特に新しい内容ではなく、そして多くの方々が、この成果を認識しつつも、年間400億円を投資することに対して疑問を投げかけているのだと思います。(ISSに年間400億円というと、子供達も含め、日本国民全ての方々が、毎日約1円ずつ投資をしているのと同じ額になりますね。私はその期待に応えるだけの仕事を毎日しなければならないと思い、頑張っています。)

実は、私がISSの最大の成果と考えている事項は、これまでの議論の中にあまり含まれていませんでした。せっかくの機会ですので、個人的な考え方と前置きした上で、私の考えを述べさせて頂きたいと思います。

私が考えるISSの最大の成果は、我が国の平和と安全への貢献です。

皆さんは、私が以前航空自衛隊で戦闘機のパイロットとして勤務していた事はご存知でしょうか?私が戦闘機のパイロットだった時に、何を目指していたかといえば、それは最強の戦闘機パイロットになる事でした。「最強であれば、負ける事はない!誰にも負けない実力を備えたパイロットが沢山いれば、誰も日本を攻めようとは思わない!」という考え方に基づき、日々努力していました。

その後、テストパイロットとして勤務していた際には「空の勝利は技術の勝利」と言う合言葉のもと「性能が良く、使いやすい装備品をパイロットに提供すれば、自衛隊が強くなり、誰も日本を攻めようとは思わない!」という考え方に基づき、テストパイロットとしての仕事に全力を尽くしました。

更に、統合幕僚監部で日米間の調整の仕事を行っていた際は「アメリカとの関係を良好に保ち、いざという時に米国と一緒に仕事を出来る環境を整えておけば、それを認識した他国は、日本を攻めようとは思わない!」と信じて仕事をしていました。

そうです。私は宇宙飛行士になるまで、国民の皆様方の安全をいかにしてお守りするかということに、全力を尽くして来たのです。その私が、日々感じているISS最大の成果が、我が国の平和と安全に対する貢献なのです。いえ、我が国だけでなく、アジアあるいは世界の平和にも結びつく素晴らしい成果だと思っています!

一つの例を挙げると、私が自衛官だった頃、ロシアのイメージは、決して良いものではありませんでした。そもそも、ロシアに関する良い情報は、なかなか日本に入ってきませんし、私が戦闘機パイロットだった時に、その様な情報は、不要でした…(国民性や相手の戦法等は重要な情報でしたが、相手が良い人たちだと言う事を、現場のパイロットが知っていても、仕事がしづらくなるだけです。)

でも、ISSの搭乗をアサインされ、ロシアでの生活が長くなると、私の過去の考え方が、本当に恥ずかしく思えます。私は、日本が世界で最も平和的な国だと信じていましたし、その事に誇りを持っていました。ですから、ロシアに親日の方々が多いのに、日本はそうではないという事実を知った時「国際平和を誠実に希求する国民」としてかなり恥かしい事の様に感じました。

私は、ロシアの本当の姿を見て、ロシアとのパートナーシップの重要性を認識することができました。そして、現在、ロシアの方々にも、日本とのパートナーシップの重要性を理解して頂けるように、日々全力を尽くしています。

この様に、互いの国が互いの実力を認め合いながら、共通の目的に向かって努力する事で、両国の関係は良好になり、結果として平和な関係を築く事ができます。ISSは、まさにそのような形で、ISS参加国の間の平和に寄与しているのです。

ところで、皆さんは、現在の日本周辺の国際環境をみて、どう思われますか?最近のニュースをみて、少し不安に思われる方々もおられるかもしれません。でも、ISSを通じた活動によって、我が国の安全は大きく向上していますし、今後も、ISSをうまく利用できれば、更にその効果を高めることができると私は考えています。

皆さんもご存知のとおり、日本は自ら戦争をする事は決してありません。つまり、相手の国が日本を攻撃しない限り、戦争にはならないのです。そして、日本の宇宙開発が目指すべきは、他国が日本を攻める気をなくさせる様な方向性に導く事だと考えています。

例えば、我が国の「きぼう」モジュールで多くの国々の実験が行われるようになれば、その国々との信頼関係が深まり、戦争は起こりづらくなります。また、その様な努力を継続し、日本がアジアの宇宙開発をリードしている状況になれば、他国も日本を攻撃して、多くの国々の非難を浴びる危険を冒せなくなるでしょう。

難しい話ばかりになってしまったので、簡単な例えで説明しましょう。

町内会や学校のクラスに、知的・冷静で、思いやりがあり、武道の心得もある方が、その能力を決してひけらかす事なくリーダーとして皆を導いているとしたら、そして、町内会やクラスの運営がうまく行っているとしたら、そのリーダーを尊敬しますし、そのリーダーに何かあったら困ってしまいますよね。そして、そのリーダーに対して反抗的な態度をとって、皆からの非難を浴びる事は避けるでしょう。

日本が、この例のように、世界の人達にとって必要不可欠な存在であれば、日本は安全になるのです。そして、その世界の人達への貢献の一つとして日本の宇宙開発があるのだと思うのです。

私には、2015年のミッションに向けての夢があります。私は、「きぼう」を利用して、多くの国々の実験をしたいと願っています。そして、可能であれば、ISS滞在中に多くの国々の方々と交信イベント等を行いたいと思っています。

「我々日本人の税金を使っているのだから、油井飛行士は日本の為にもっと働いてくれ!」といったご意見もあるかもしれません。でも、私はせっかく国際宇宙ステーションで仕事をするのですから、多くの国々の為に仕事がしたいのです。そして、それが結果的に我が国の安全に大きく貢献する事を知っています。お金に換算することが出来ないほど重要な成果!それが、ISSの平和に対する貢献なのです!ぜひご理解のほど、宜しくお願いします。





グリニッジ標準時の8月9日、日本の宇宙ステーション補給機HTV(愛称:こうのとり)の管制チームにとって最も長い1日。

90分に1周、地球を周る国際宇宙ステーションISSにとって、私たちの感覚で言うところの昼夜は90分に1度ずつ訪れます。そこでISSではグリニッジ標準時が採用され、それに合わせて世界各地の管制センターでもシフト勤務制が採られています。

アメリカ・ヒューストンにあるNASAのミッションコントロールセンターでは、3シフトで1日を回しており、この8月9日、私は第2シフトでISSとの交信役であるキャプコムというコンソールを担当しました。HTVのキャプチャまでを担当する第1シフトのキャプコムは、NASAのマイク・フィンク飛行士。私はHTVのキャプチャ後から、ISSへ結合するまでが担当です。

日本時間の8月3日未明、種子島宇宙センターから打ち上げられたHTV4号機は徐々に高度を上げ、9日の早朝、ついにISSの後方約5kmのポイントに到着しました。その約90分前から、NASAのミッションコントロールセンターと筑波にあるHTVミッションコントロールセンターによる統合運用が既に始まっています。統合運用中は、2つのセンターが緊密に連携をとってHTVをコントロールし、ISS側もHTVのキャプチャ準備をしていくことになります。

今回のHTVミッションに向けて、私は何度もキャプコムとしてNASA側の管制チームのシミュレーション訓練に参加しましたが、それらの訓練は大体HTVがこのISS後方5kmの位置にいるところからスタートします。というのは、これ以後ISSのロボットアームによってキャプチャされるまで、重要なイベントが目白押しだからです。

この8月9日当日も、出来ればこのあたりからコントロールセンターで実際の運用を見ていたかったのですが、ヒューストン時間ではまだ午前0時をまわったばかり。私の本来のシフトが始まるのは午前7時なので、さすがにここから見ていたのでは自分のシフトが始まる頃には疲れてしまって本来の任務に支障をきたす恐れがあったので、泣く泣く諦めました(><)。

実際に私がコントロールセンターに入ったのはヒューストン時間の午前5時半頃だったのですが、せっかくの機会なのでこのISS後方5kmの位置からHTVがISSへ接近していく流れを簡単に説明したいと思います。

この位置でHTVは2時間半ほど待機し、その間双方のチームでISS側とHTV側のシステムに大きな問題がないことを確認し、グリニッジ標準時8時5分にエンジンを噴射してISSへの接近を再開しました。ISSに対して半楕円形の相対軌道を描きながら接近していきます。この時の噴射はISSの近くにおける噴射としては大きなものなのですが、実はわざと必要以上に大きめにしてあります。というのは、もしこの後何らかの不具合が起こって、地上からのコントロールが出来ない状況になっても、HTVがISSに衝突する恐れがないように、わざと目標をISSからずらしてあるからです。これ以降の噴射は基本的に同様のコンセプトに基づいて計算されており、放っておいてもある一定の時間はISSに接近しすぎない様になっています。このあたりの安全設計は、軌道力学のスペシャリストたちによって非常に精密に計画されていて、見事と言うほかありません。またこのコンセプトこそが、HTVによって日本が生み出したキャプチャ方式の肝とも言える要素なのですが、これについては来月もう少し詳しくお話し出来ればと思います。

こうしてISSの下方側へ大きく楕円軌道を描きながら飛行していき、8時43分に次の重要な噴射を迎えます。前述の通りISSからわざと目標を外して接近してきたのを、今度はISSの下方500mのポイントを目標に変えるのです。ここは大きな軌道変化になるので、統合運用中で最も大きな噴射が行われます。

HTVはこの噴射を無事に終え、9時7分にISS下方500mを通過し、このあと非常に慎重にゆっくりとISSに向けて接近していきます。下方30mに到達したのが10時半頃なので、この470mの接近に1時間半近くをかけた計算になります。そしてこの一見簡単そうに思える、ISSへ向けて下方から直線的に近づいていく部分こそが、軌道制御的には実は非常に厳しいところなのですが、なぜ厳しいかというのは話せばとっても長くなるので、また機会を改めて書きたいなと思います。もしくは、HTVチームの友人に書いてもらおうかな・・・

写真:ISSから撮影されたHTV(下方より接近中)

ISSから撮影されたHTV(下方より接近中)

私がコントロールセンターに入ったのがちょうどこのISS下方30mに到着した頃で、大きな管制室は静まり返っていて、独特の緊張感が漂っています。マイク・フィンク飛行士の隣に着席しました。起きてから家でもある程度の情報収集はできるので、既にHTVが順調にここまで飛行してきたことは知っていましたが、マイクに「様子はどう?」と訊ねると、案の定「とてもスムーズにここまできているよ」という答えが返ってきました。

コンソールから視線を前方に向けると、大きな複数のスクリーンに現在のHTVの飛行状況、ISSのシステムの状況が映し出されています。ISSに取り付けられた船外カメラからの映像も中継されていますが、HTVの姿がはっきりと確認できます。秒速8km近い猛スピードで飛行しているとは思えないほど、その姿は全くぶれることがなく、まるで静止画を見ているようです。

HTVミッション前半の最大の山場、キャプチャの瞬間が刻一刻と近づいていました。

え!?ここで終わり?という声が聞こえてきそうですが・・・来月へ続く!(笑)

写真:ISSから撮影されたHTV

ISSから撮影されたHTV

※写真の出典はJAXA/NASA




みなさん、こんにちは。宇宙飛行士の金井宣茂です。

先日、『こうのとり4号機』が無事に国際宇宙ステーションに到着しましたね。

見事な打上げと、ランデブー、そしてキャプチャー(エンジンを切ってフリードリフトに入った『こうのとり』を宇宙飛行士がロボットアームで捕まえることを、こう呼びます)でした。

写真:見事にキャッチ!相対速度がゼロなので一見止まっているように見える「こうのとり」ですが、実際には同じ速度で並行して疾走する2両の電車の窓から、お互い手を伸ばして握手をするようなものなのだそうです。

見事にキャッチ!相対速度がゼロなので一見止まっているように見える「こうのとり」ですが、実際には同じ速度で並行して疾走する2両の電車の窓から、お互い手を伸ばして握手をするようなものなのだそうです。

当たり前のように打ち上がって、当たり前のように宇宙ステーションに到着したように見えますが、その舞台裏では、多くのエンジニアの入念な準備や、実際の運用にあたってのさまざまな苦労があったことは想像に難くありません。

「当たり前のように」と書きましたが、実際にミッションに携わる人たち以外は、わたし自身を含め、多くの人が、深く心配することもなく、打上げ・ドッキングの成功を期待していたのではないでしょうか。

「ああ、『こうのとり』が打ち上がったの?」「無事に、宇宙ステーションに到着したって?」

ニュースを読んだり聞いたりしても、「当たり前のこと」と読み流したり、聞き流す人が多いのではないかと想像します。

初めての成功というわけでもないから、大きなニュースとして扱ってもらえない・・・と、ちょっと残念な気もします。

考えてみれば、最初の成功ももちろん大変なことですが、2回目、3回目、4回目と、その成功を続けていくことは、最初の1回目と同じくらい大変な仕事のはずですから。

わたしが勤務している米国ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターでも、「今回の『こうのとり4号機』が失敗するかもしれない」と本気で心配していた人は、多分ひとりもいなかったと思います。

これも、初号機ミッションから毎回、入念な準備を重ね、成功を続けてきた結果としての信頼と期待なのでしょう。

人類を月まで送ったNASAに、ここまで信頼と期待をされているのを、普段の業務の中で肌身で感じることができるのは、日本人として、JAXAの職員として、とても誇らしく思いますし、そのような環境で過ごさせてもらえる幸せを感じない日はありません。

ただ、この素晴らしい環境は、決して自分が勝ち取ったものではないということも同時に強く感じます。

『こうのとり』や『H-IIBロケット』、日本実験棟『きぼう』の運用チーム、その開発のために長年NASAと仕事を進めてきた多くの先輩エンジニア、先輩日本人宇宙飛行士の方々、スペースシャトルの時代から宇宙実験に携わってきた研究者の皆さん・・・。

そういった人たちの実力と実績が、絶対的な信頼を受けているというだけで、自分自身は、何か実績を残したというわけでもなく、タダで居心地の良い環境だけを提供されて、好きなように勉強させていただいているっていうのは、ちょっとバツの悪い思いがよぎることもあります。

もちろん、将来、宇宙飛行ミッションに任命を受けたあかつきには、信頼や期待にこたえるべく一生懸命仕事をするつもりですが、なんだか今は、出世払いで借金を重ねているような気がしないでもありません。

「『こうのとり』は素晴らしいね」「JAXAはさすがに良い仕事をするね」と、NASAの同僚から声をかけられると嬉しい反面、「自分は日本人宇宙飛行士として、こんな大きな期待を裏切らない仕事ができるのか?」と心配になってしまいます。

ミッションの任命を受けるときに、胸を張って「お任せください!」と言えるよう、精一杯毎日を頑張るしかありません。

※写真の出典はJAXA/NASA



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